子どもは大人が考えているより、ずっとお金について考えている(写真:EUI/PIXTA)

子どもに対してお金について教えることは容易ではない。アメリカは、日本より比較的お金の話に対してオープンでざっくばらんに見えるかもしれないが、それでも「親子間でお金の話をするのはタブー」という空気は少なからずある。

子どもとお金。多くの大人は、子どもたちはお金についてあまり考えていないと想定しがちだが、ミシガン大学の研究グループはその前提に反する結論を見いだした。同大の研究グループは5歳から10歳の子どもたちの消費の習慣を調査。彼らが用いたのは浪費家・倹約家指数だ。この指数は、購入に関する浪費家の感情的反応を測るものである。ここで言う「浪費家」とは購入する可能性のより高い人で、対して「倹約家」とはよりお金を手放しそうにない人のことだ。

倹約家の子どもと浪費家の子ども

子どもたちには、それぞれ消費か貯金するようにと1ドルが与えられる。この調査の参加者225人のうち、より浪費すると見なされた子どもたちは積極的にお金を使った。たとえ商品がとりわけ欲しくも、好きでもないものだったとしても。倹約家の子どもたちはほとんどお金を使わなかった。

この研究のリーダーであるクレイグ・スミス氏によれば、この研究によって、5歳から10歳の子どもたちの消費や貯金に対する感情的反応が、その子どもがお金をどう扱うかに関する有力な指標となるということがわかる。「こうした感情的な反応は、子どもたちの店に置いている商品へ感情を抑えたとしても、どうやってお金を使うかということを左右する」とスミス氏は言う。

では、浪費家と倹約家はどちらが多かったのか。大人と同様に、倹約家の子どもの数は浪費家の4倍だった。

ここで疑問となるのは、子どもたちはどこから「金の設計図」を学ぶのかということだ。T・ハーブ・エッカー氏は自身の著書『ミリオネア・マインド 大金持ちになれる人』の中で、金の設計図を、家の設計図との類比によって定義している。家の設計図とはある家のための事前の計画ないし下絵である。同様に金の設計図とはつまり、お金に関する事前の計画ないしあり方のことだ。ではその設計図はどこから生まれるのか。

「子どもたちは誰しも、お金に関してどのように考え、行動すべきかを教わる」とエッカー氏は述べている。

2人の子どもを持つカリ・リリーさんも幼くしてお金との関係を学んだ。彼女のお金の管理に関する最も古い記憶の1つは、母親と食料品を買いに行ったときのことである。母親は小切手で支払いをし、その場ですぐに小切手帳に記録をつけた。彼女や兄弟は両親とはお金について話し合ったことはない。ただ両親を観察していただけだ。

「両親の観察から、私はお金に関して注意深くあることを学んだ」と彼女は言う。「そのことが、私が倹約家となった一因だ。収支を合わせて節約しなければならない。余分なお金はない、と」。

親は学費1年分は払ってくれたが…

こうしたお金との付き合い方は、大学に入ってから役立った。彼女の両親は、大学1年分の学費を払ってくれたが、残りは彼女自身の責任だと言ったのだ。だから、彼女はホテルや大学の食堂で給仕として働き、自ら学費やアパート代、生活必需品などを払い、そしてしっかりと学位も得た。

現在は、建築家の夫を持つ専業主婦となったリリーさんは、自分の子どもたちにもお金に対して「慎重になるように」伝えている。

たとえば、ある日6年生になる娘が、リリーさん夫妻に「生活上の予算」について尋ねた。すると、リリーさんは、娘に食費の予算は週に100〜120ドルだと教え、家族の1週間分の食品リストを作って食料品を買うようにとの課題を与えた。

スーパーに行くと、娘は即座にシリアルを4箱欲しがったが、1箱が5ドルすることに気づくとすぐにその数を減らした。彼女はきっちり予算内で買い物をしたわけだが、リリーさんはその後、娘のある変化に気が付いた。娘は以前のようにシリアル1箱をガツガツ食べることはせず、より注意深くなったのである。シリアルの値段が身にしみたことが大きかったのだろう。

心理学者で『子どもの思春期を切り抜ける』の著者であるカール・E・ピックハルト氏はこの方法に同意している。思春期最後の段階(18〜23歳)の若者がどれだけ自己管理ができるかを占う重要な要素の1つとして同氏は、「若者がどれだけよくお金の管理を学んできたか」を挙げている。

ピックハルト氏は、小学校低学年になったら、週のお小遣いを3つの目的のために3つに分割して与えるべきだと提案する。すなわち、貯金、納税、消費である。貯金からはお金の蓄積によって生まれる購買力というものを学べる。納税は貧しい人々について考える助けとなる。そして、消費は一時の価値しかないものを買うか、長期的な価値のあるものを買うかという優先順位を判断することを学べる。

その後、思春期の初期から中期(9〜15歳)までには、ペットの世話や庭仕事、赤ちゃんの世話など、家の外での仕事をさせるようにする。そうすることで子どもたちは、雇用主のもとで働くことや約束を守ること、責任を負うことを覚え、比較的少ないお金を稼ぐのにかかる労力を知る。さらに、お金を稼ぐことは自尊心を高めるのにも役立つ。「私はお金を受け取るに足るだけの労力を提供できる」という形で。

浪費家は通常、目先の満足感を求めている

冒頭の浪費家・倹約家の研究に戻ると、ピックハルト氏は購入に関する感情的反応について心理学的な説明をしている。いわく、若い浪費家はしばしば「衝動の制御ができず、つかの間の満足を強く求めており、先のことよりも現在に関心を持っている」。それに対して若い倹約家はより自制心が強く、計画するべき将来の可能性についての感覚を持っている。若い倹約家は浪費家がしばしば欠いている満足遅延耐性と、判断する能力とを持っている傾向にある。

こうしたことから、「両親が浪費傾向のある子どもに貯金の習慣をつけさせる価値はあるかもしれない」とピックハルト氏は言う。

アリ・シュシュマンさんは、娘が「ネズミを飼いたい」と言い出した時、拒否すると同時にひとつ提案をした。「ネズミが欲しいなら、自分で飼うべきだ」と。すると、娘は何を思ったか、スライムを作り始めた。

彼女はのり、ホウ砂(アルカリ塩の鉱床にある白い鉱物で、ガラスや陶磁器の製造に使われる)といった材料を買い集め、忙しく作業し始めたのである。それからワシントン州グラント郡で開かれたグレイトフル・デッドのコンサートに入り込んでスライムを観客へ売り、それによって300ドルの利益を上げた(材料費などを差し引いて)。そして、娘はそのお金で特大のカゴを買ったのである。「ノーと言ってからの、子どもの計画性は目を見張るモノがあった」とシュシュマンさんは振り返る。

5人兄弟の1人して生まれたシュシュマンさんも、実は家族でお金について語り合うことはなかった。が、家を出て大学に入る前に、両親は彼女にあることを教えた。それは、どのようにして収支を合わせるか、ということだった。親が言わんとしていたのは、「何をやろうとしているのか」ということと、それに対して「何をすべきか」ということを併せて考えなければいけない、ということだ。

シュシュマンさんは、これと同じことを娘に教えたのである。ネズミを飼いたいと言い出した娘に対して、「あなたの計画は?」と聞いたところ、彼女はスライムを作り出したのだ。

大学入学時に金銭的「自立」を促されたことは、後にシュシュマンさんが、自身の両親が立ち上げた広告代理店を買い取るまでに自らが成長するのに役立った。シュシュマンさんは現在でも、この代理店を経営しながら、ファッション誌の編集者も務めている。

お金でその人の価値は決まらない

ただ、クレジットカードやアップルペイなど、決済のキャッシュレス化が進む中で、リアルなお金を稼ぐことを教えることも難しくなりつつある。こうした中、シュシュマンさんは、娘の手伝いに対して、お小遣いを与えている。これによって、どの程度の仕事をしたときにどれくらいのお金が稼げるのか、また、手に入れたお金をやり繰りする方法を教えたいと考えている。

シュシュマンさんが、お金の価値を娘に教えたいと心底考えたのは、彼女が幼い頃「うちがお金持ちだったらいいのに」と言った時のことだ。シュシュマンさんは、その言葉に困り果てた。なぜなら、シュシュマンさんたちは、比較的裕福なエリアに暮らしていたからだ。

「この言葉は娘の友人たちから来ていて、娘たちは自分よりも多くのものを持っている誰かがいることに気づき始めていた。そもそも『もっとお金持ちだったらいいのに』っていう意味をわかっているのかどうか」(シュシュマンさん)

前述のリリーさんにとって、これは「お金は非常にパワフルである」という意味だ。しかし、子どもには、持っているお金の額で、その人の価値や人間性が決まるということはないと伝えている。そうではなく、大事なのはそのパワフルなお金をどう管理するか、そして、その価値をどう判断するか、ということだ、と。

もちろん、お金に対する考え方や価値は人それぞれだろう。だが、子どもは大人が思っているよりずっと、お金について考えていることは知っておくべきであり、あなたの価値観やお金に対する考え方を子どもに伝えたいと考えているのなら、タブー視するのではなく、幼い頃から積極的に親子で話をしてみてはどうだろうか。