9.11を忘れない。アメリカ同時多発テロを描いた映画14本
2001年9月11日に起きた同時多発テロ。ニューヨークのワールド・トレード・センターに旅客機2機が突っ込み、そのショッキングな映像が世界中を恐怖に陥れたことは、17年経った今でも記憶に残っている。
その後このテロ事件をいろいろな視点から描いた映画が多く作られたことは、この未曾有の悲劇がまだ風化されていないことを物語っている。
そこで今回は、アメリカ同時多発テロ9.11をテーマにした映画14本をご紹介しよう。
遭遇した人たち
『ユナイテッド93』(2006)
9.11テロでハイジャックされた4機のうち、唯一目標に到達しなかったユナイテッド航空93便。その離陸から墜落までの様子を忠実に再現したノンフィクション映画である。葛藤と緊張感が半端ないのに最後まで観ていられるのは、脚本も手掛けたポール・グリーングラス監督の力量だろう。
他の3機がどのような運命を辿ったかを知るにつれ、恐怖のどん底に突き落とされる乗客たち。また、その情報が地上にいる管制塔や家族にも伝わっているのだから、彼らの苦しみは想像を絶する。
そういった航空関係者たちとのやりとりは臨場感にあふれ、パニックに陥りながらも乗客たちがどのように運命の瞬間を迎えたのかをリアルに描く。もし自分だったら? そう思わずにはいられない。普通の人たちが一丸となってテロに立ち向かったという事実が、胸を強く打つ。
『ワールド・トレード・センター』(2006)
9.11テロの標的となったワールド・トレード・センターに閉じ込められてしまった警官が、奇跡的に生還したという実話を基に映画化。生粋のニューヨーカーであるオリヴァー・ストーン監督が、何としてでもリアリティにこだわって作り上げたいという気迫が伝わってくる。
いつもと変わりのない朝に突然起きた大惨事。出勤途中で足を止めた人々は、状況が飲み込めず呆気に取られてビルを見上げている。実際に遭遇したら、誰でも最初はこんな風にポカンとしてしまうに違いない。
仲間と瓦礫の下敷きになってしまった巡査部長が、暗闇のなかで励ましあったり家族の話をしたりするシーンが大半を占め、極限状況だからこそわかることがあるんだなあとしみじみ。彼らが解放されたときは、一緒に救出された気分になる。ニコラス・ケイジが好演。
『ナインイレブン 運命を分けた日』(2017)
9.11テロで旅客機が激突したワールド・トレード・センターで、たまたまエレベーターに乗り合わせていた男女5人が、恐怖と闘いながら逃げ道を探っていく。原作が戯曲なだけに、よく出来た密室会話劇である。
閉じ込められたのは実業家と離婚調停中のその妻。恋人に別れを告げにきた女性。ビルの保全技術者。バイクメッセンジャー。生きるか死ぬかの極限状態では、夫婦喧嘩や人種問題なんかどうでもよくなり、自分にとって大切なものが見えてくるものだ。
唯一の通信手段であるインターコム越しに彼らを励ますオペレーター役が、ウーピー・ゴールドバーグ。言葉だけで支え続ける彼女の存在が頼もしすぎて、涙が出る。無事に脱出した後、彼らは最初に何をするだろう。
『9.11〜N.Y.同時多発テロ衝撃の真実』(2002)
9.11テロの当日、実は飛行機に衝突された直後のワールド・トレード・センターを撮影していたフランス人のカメラマン兄弟がいた。ビルに穴が開いて煙が出ている風景はTVでよく放映されたが、その内部のナマ映像となると、これは非常に珍しいのではないだろうか。
新人消防士が成長していく姿を取材していた彼らは、テロ事件が発生したときに偶然その場に居合わせたことから、現場に急行する消防署員と一緒にビルのなかへ。そこでカメラを回し続けた。
衝突直後のざわめきと緊張感。壁がパラパラと崩落する音。人命救助に向かう消防士たち。祈り続ける牧師。本物の映像でしか伝わらない空気感と臨場感に心がザワザワしてしまう。関係者へのインタビューもあり、歴史に残る記録映画としても貴重だ。
首謀者を追う
『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)
9.11テロの首謀者でテロ組織アルカイダの指導者であるオサマ・ビンラディン。2011年5月2日に実行された彼の殺害計画をテーマにした作品で、実話を基にしているという。
ドキュメント風な映像によって描かれる情報収集や経緯がリアルなので、主人公であるCIA女性エージェントと一緒に標的を追いかけているような気分に。オサマ・ビンラディン暗殺に燃える彼女のヒステリックな執念が凄まじい。
多大な犠牲を払って目的を果たしたはずなのに、この虚しさは何だろう。これは復讐なのか正義なのか。この殺人に意味はあったのか。しかし、やらずにはいられなかった。相変わらず「男前」な説得力のある作風にグイグイと引っ張られ、緊張感が心地よい。
『オレの獲物はビンラディン』(2016)
2010年に愛国主義者の主人公が、9.11テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンの居場所がなかなか突き止められないことに痺れを切らし、自分の手で捕まえようとする。
そのあきれた男をニコラス・ケイジが演じているだけに、マジメにふざけた話に思えるが、実話だという。でも人工透析中に神からの啓示って……持病があるのに大丈夫? そんな心配をよそに彼は日本刀を携え、たった1人でパキスタンに向かう。
当時の国際情勢はよくわからないが、パキスタンもアメリカも困っただろうなあ。彼のズレた無謀さがコメディなのにどこか切ないのは、お国のために命を投げ出しているから。ちょっと男のロマンが入っているから。ケイジが適役なので、嫌な気持ちにならない。
『ホース・ソルジャー』(2018)
9.11テロ発生の翌日、特殊作戦の実行部隊長に任命された主人公はアフガニスタンへと乗り込んだが、タリバンの軍勢は予想を上回っていた。
9月12日にもう最初の反撃をしていたとは……さすがアメリカは早いなあ。しかし、勇んで敵地に向かってみると、特殊作戦実行部隊12人v.s.タリバン軍5万の戦いだったという……そんなことがあるのだね。もちろんこれは実話である。
反タリバンの地元勢力と手を結んだ彼らは、山岳地帯の厳しい自然を前に、ここでは馬が最大の武器になると教えられる。まさかの馬? そして戦いは西部劇のような様相を呈していくので、ちょっと不思議な感覚に襲われる。
遺された者たち
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011)
父親を9.11テロで亡くした少年が、亡き父親の部屋で1本の鍵を見つける。その鍵に父親からのメッセージが隠されていると思った彼は、謎解きのためニューヨークを奔走する。
もともと親子で街中をめぐる探検をしていた。それは、アスペルガー症候群である少年が他人と関わりが持てるように、父親が考え出したゲーム。大好きだった父が遺した謎は、少年をどこに連れていくのだろう。
壁にぶつかりながらも1人で街を歩き回り、手がかりを見つけて多くの人たちと出会う。そうするうちに少しずつ苦しみが浄化され、少年は父親の死を乗り越えていくのである。主人公の少年を演じたトーマス・ホーンの映画初出演とは思えない繊細な演技が、大きな感動を呼ぶ。
『ランド・オブ・プレンティ』(2004)
アメリカに生まれ、アフリカとイスラエルで育った主人公が、亡くなった母からの手紙を叔父に届けるためにロサンゼルスを訪れる。
彼女が10年ぶりに足を踏み入れた生まれ故郷は、9.11テロを経て様変わりをしていた。ヴィム・ヴェンダース監督お得意のロード・ムービーとしての一面もあり、重いテーマなのに安心して観ていられるこの信頼感。ちなみに16日間で完成させた作品だという。
彼女が再会した叔父は、テロリストからアメリカ合衆国を守る義務を勝手に背負い、ビデオカメラなどの機材を載せた車で街を監視してまわっていた。ああ……その姿は滑稽だけど笑えない。彼には戦争体験があるのだ。9.11テロだけでなくアメリカが抱える問題も浮き彫りにする良作。
『再会の街で』(2007)
キャリアと家族に恵まれて幸せな人生を送っていた主人公が、ニューヨークで大学時代のルームメイトを偶然見かけて声をかけてみると、彼は別人のようになっていた。
久しぶりに再会した彼(ボブ・ディラン似)は、旧友のことを思い出せず、コミュニケーションがとりにくい状態だった。実は彼は9.11テロの飛行機事故で妻子を失い、その事実から立ち直ることができずに心を閉ざしてしまっていたのである。
そんな彼を何とか元に戻そうと、あれこれ手を尽くす主人公がエライ。でも、なかなかうまくいかないもので。人は突然のショックで深い傷を負うと、こうなってしまうのか。そして一方通行だった友情が、やがてお互いを必要とする関係になる。ゆっくりと展開するストーリーがよい。
なぜ起きた?
『華氏911』(2004)
9.11テロをめぐり、イラク戦争を主導した国防長官とイラクの独裁者サッダーム・フセイン、そしてブッシュ一族とビンラディンを含むサウジアラビア有力一族との関係などを追ったドキュメンタリー映画。
マイケル・ムーア監督いわく「この映画はブッシュ氏批判ではなく、9.11後に起きた、より大きな問題を考えるのが目的」だそうで、タイトルは、焚書を描いたレイ・ブラッドベリのSF小説とその映画『華氏451』(66)にちなんでつけられた。
配給が危うくなりかけたものの、カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞。上映直後にはスタンディング・オベーションが25分間続き、受賞スピーチで監督が「ブッシュ、恥を知れ!」と叫んだことは有名。この巨体でがっしがっしと突撃取材するから、コメディぽくてよいのである。賛否両論はあるが、一見の価値あり。
『THE 911』(2006)
独立調査委員会が作成した9.11テロ事件に関する報告書「9/11委員会レポート」に基づき、ドキュメンタリータッチでその真相に迫る。
2004年に発刊された原作は、事件の記憶がまだ生々しかったこともあり、あっという間に全米ベストセラーになったという。9.11テロ事件は未然に防げたのではないか。調査から導き出されたのは、そんな衝撃的な結論だった。
話題が次々と展開されていくので、よほどその内容に通じていないとわかりにくいのは確か。原作で予習してから観た方が、理解がより深まるだろう。しかし、自国に対するこの容赦ない検証の仕方は、日本ではちょっと考えられないなあ。
それぞれの視点から
『11'09''01/セプテンバー11』(2002)
11人の世界的映画監督たちが、それぞれの「2001年9月11日」を「11分9秒01」の長さの短編に込めたオムニバス作品。
ショーン・ペン。ケン・ローチ。クロード・ルルーシュ。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ……映画ファンならヨダレを流しそうな顔ぶれによる異色のショート・フィルム集。
日本からは今村昌平監督が参加し、ラストを飾るのが何だか嬉しい。第二次世界大戦終戦後に復員してきた男がヘビになってしまうという不思議な物語で、タイトルは「おとなしい日本人」。民話のような暗示的な謎に引き寄せられ、後からじわじわくる。
『25時』(2002)
何者かの密告によって逮捕された麻薬の密売人が、刑務所で7年間を過ごすことになり、収監されるまでの自由な25時間の様子を描く。
最後の夜に集まったのは、2人の親友と恋人。行きつけの店で酒を飲み、数時間後に始まる刑務所暮らしの恐怖と闘う主人公が、鏡に向かってあらゆる人種や物事に対して毒づくシーンが印象的だ。彼は、後悔と不安と怒りを他ならぬ自分にぶつけているのだろう。
高層マンションの窓から見えるグランド・ゼロや、被害者を思わせる遺影などはストーリーとは関係ないが、9.11テロをイメージさせるこれらの映像が監督の強い意向により挿入されたことについて、深く考えてみなければならない。
いかがでしたか?
今はまだ9.11テロが風化する日が来るとは思えないが、少なくともこんな風に映画として残しておけば、後世に伝わっていくはず。
ベトナム戦争の時と同じように、視点や切り口を変え、いろいろな解釈によって描かれた9.11テロ映画が、これからも作られ続けるだろう。だから忘れない。忘れるわけがない。
【あわせて読みたい】
※ あのとき何が起きたのか。 2本の映画から読み解く「ボストンマラソン爆弾テロ事件」
※ 絶対に忘れてはいけない!15本の映画から学ぶ戦争の恐ろしさ
※ 実話映画が描く真意【知れば知るほど解らなくなる映画の話(11)】