ボクシング・リオデジャネイロ五輪アジア・オセアニア予選日本代表選手選考試合の後、記者の質問に身ぶり手ぶりで答えた日本ボクシング連盟の山根明会長=2016年1月25日(写真:日刊スポーツ新聞社)

7月28日の騒動発覚から6日、ついに日本ボクシング連盟の山根明会長(78歳)が姿を現しました。8月3日の「スッキリ」(日本テレビ系)に緊急生出演し、一連の騒動について謝罪と釈明、そして猛反論をして見せたのです。

山根会長の出演時間は、わずか三十数分間に過ぎません。しかし、その姿はビジネスパーソンにとっても、「組織トップはどうあるべきか?」を考えさせられるものでした。

「ドン」を思わせるサングラスと柄シャツ

山根会長は予定されていた9時から40分遅れて登場。ミラータイプのサングラスをかけ、柄物の半袖シャツを着て、ふんぞり返って座る姿は、まさに「ドン」といわれるだけの威圧感を放っていました。

疑惑の釈明や謝罪という狙いがあるとしたら、この服装と姿勢はNG。その姿を見た世間の人々から「山根会長はどんなことを言っても説得力がない」「それよりも告発者側の言い分が正しいのではないか」と思われてしまうからです。同時に、「その服装と姿勢をアドバイスできる存在が周囲にいない」ことが、今回の生出演によって明らかになりました。

まず山根会長は、「みなさん、おはようございます。一般社団法人 日本ボクシング連盟会長・山根明でございます。全国の33都道府県アマチュアボクシングの方にお詫びを申し上げます。このような事態は連盟の会長として責任を感じています」と謝罪しました。

文字にすると立派なあいさつに見えますが、やはり高齢であるからか。それとも謝罪をする機会がほとんどないからか。「放送事故か?」と思わせるほどの間があるなど、その言葉は途切れ途切れでした。

さらに、「私自身も早くから報道関係に取材を受けて、みなさんに納得できるようなことを伝えることは義務だと思っていましたが、ある関係者から『取材は受けてはダメだ』と言われていたので一切受けませんでした」と対応が遅れた理由を釈明したのです。たどたどしい言葉ではあったものの、少なくともこの発言からは、「組織トップとしての説明責任を理解している」という様子がうかがえます。

しかし、MC・加藤浩次さんのインタビューがはじまると、一転して冗舌になったのです。

「生意気」が致命的なイメージダウンに

最初に加藤さんが尋ねたのは、ロンドン五輪金メダリストで現WBAミドル級王者・村田諒太選手の発言について。村田選手が自身のフェイスブックページに「そろそろ潔く辞めましょう、悪しき古き人間達、もうそういう時代じゃありません」と書き込んだことに、山根会長は「学生時代はええ選手だったけど、村田くんは1人でメダルを取れる力はありません」と断言したのです。

みなさんも「あっ、この発言はマズイ」と感じたのではないでしょうか。実際、このコメントには明らかな過失がありました。それは「組織トップが個人の功績を否定してしまったこと」「それを公の場で断言してしまったこと」の2つです。

組織トップが個人の功績を否定するのは、上から目線の最たるところで、「それを口にすることで自分の権威付けをしよう」という思いが透けて見えます。しかし、村田選手のような実績と人気を併せ持つ個人を公の場で否定することは、猛バッシングにつながりかねません。

山根会長は、「村田選手は自分が監督代行の反対を押し切って抜てきしたから世界選手権に出られて、ロンドン五輪で金メダルが取れた」と自らの手柄を主張。加藤さんが再び村田選手の発言を口にすると、「生意気だよ。あの選手はまだ社会人じゃない。現役のボクサーとして言うべき話じゃありません」と声を荒らげました。

ここで早くも感情的になってしまったのです。山根会長は、個人の功績を否定した段階を一つ超えて、個人そのものを否定してしまいました。そもそも「生意気」は、相手を未熟な人間とみなす一方的なフレーズ。山根会長は村田選手のことを「まだ社会人じゃない」とまで言っていましたが、山根会長が社会人ならば「生意気」は公の場で使ってはいけないフレーズなのです。

とっさにこうしたフレーズが出てしまうのは、「ふだんから組織トップとしての危機管理意識がいかに薄いか」を物語っていました。

発言の内容と同等以上にダメージが大きいのは、声を荒らげた感情的な態度を世間にさらしてしまったことです。その姿を見た人々は、「あんな風にパワハラをしてきたのだろう」「ああいう人だから悪いこともやっているに違いない」などの印象を持ち、それはよほどのことがない限り解消できません。

組織トップとしては、カリスマ性を薄れさせ、不信感を抱かせる最悪の振る舞いといえます。メディアと対峙したときに最もやってはいけないことなのです。

相手の話をさえぎったときが危険信号

話題が「試合用グローブを高額で独占販売していた」という疑惑に移ると、山根会長は「『IBA(国際ボクシング協会)公認のグローブでなければダメだ』と急に言われました。そんなときアディダスからメールが来ていたので『1回会いましょう』ということになり、社長と会って事情を聞いて使用することになりました」と経緯を説明しました。

独占販売になっていることを追及されると、「そんなことはありません。『やりたいところがあったらいつでもやってください』とブログに掲載しています」。口座の名義が孫娘であることを指摘されても、「最高幹部が集まったときに、『連盟で販売するのはダメで、他人にさせるべきだ』という話になりました。それで『当分の間、受け皿は山根会長がやっておいて、その間に業者を探してバトンタッチしよう』となった」と釈明しました。

さらに加藤さんから、「『資金の流れが孫から山根会長に向かうと思われてしまう』と感じなかったか」と問われると、「思いません。連盟の幹部と話してやっていることですから。お金は使ってないし、通帳は(運営している)前川氏に預けています」と即答しました。

続けざまに水卜麻美アナから、「山根明会長が何で商売したらアカンの?」「俺の顔で金が集まっている。俺がどこを使おうが勝手やろ」などと話す音声が流出したことについて聞かれても、「『たとえば』の話で言っているだけ。『たとえば』の話で言っているんですよ」と徹底して疑惑を否定しました。

まだ真偽は分かりませんが、山根会長のコメントは、疑惑に対する釈明として明らかに不十分。どの言葉も、自らと連盟のずさんな管理体制をさらしただけであり、それを悪びれることなく言ってしまうこと、何の証拠や資料も用意せずに臨んだことなども含め、「いかに場当たり的な対応をしているか」が分かります。

立て続けに疑惑の追及を受けた山根会長は、徐々に加藤さんが話している途中に「いやいや、そうではありません!」とさえぎるシーンが増え、感情を抑えきれなくなっていました。「釈明や謝罪をするときは、相手の話が終わったのを確認するように、ひと呼吸おいてから話しはじめる」のが基本。相手の話をさえぎってしまうと釈明や謝罪の意味が薄れるほか、感情が爆発しやすくなるなど、失言を防ぐためにもやってはいけないことなのです。

案の定、山根会長は、ここで我を失ってしまいました。加藤さんが次の質問をしようとしたとき、それをさえぎるように、「グローブの件を言っているのは、甚大な暴力をふるって連盟から除名処分を受けた(日本ボクシング連盟元理事の)澤谷(廣典)が、盛んに事件にしようと思って、ネットにいっぱい書いているんです。澤谷という人物、知っていますか? 前科者ですよ」とコメントしたのです。

名誉棄損や侮辱などの刑事罰に問われかねない発言は、組織トップとしては致命的。もし今回の疑惑が潔白だったとしても、澤谷さんだけでなく世間の人々から責任や資質を問われる言動だけに、「辞任せざるを得ない状況に追い込まれる」という流れが生まれてしまったのかもしれません。

山根会長が突然「弱気」になった理由

一貫して釈明・反論していた山根会長が唯一、認めたのが助成金の分配。これは2015年に『日本スポーツ振興センター』(JSC)が成松大介選手に交付した助成金240万円が、「日本ボクシング連盟の指示で別の選手2人に80万円ずつ分配され、不正流用されたのではないか」という疑惑でした。

山根会長は助成金を分配させたことを認めながらも、「(成松の)あの顔にだまされましたよ。おとなしい顔してるけど、仮面をかぶってますね。『喜んで3等分しますから』と言っていた人間が『山根が指示したとか、怖いからやったとか』(言っているが)、一切していません」と強烈に批判。仲間が批判されているのを聞いた現場の選手や関係者たちは、山根会長の留任を納得しないのではないでしょうか。

しかし、続けざまに流用疑惑について聞かれた山根会長は、「流用ではありません、流用ではありません」と繰り返し、「強化選手に出るもんやさかい、『3等分してもいいやろう』と軽い気持ちでしました」と突然弱気になってしまったのです。

さらに加藤さんから「最終的に助成金を成松選手に戻したのは『よくない』と思ったから?」と聞かれると、「『間違いだった』と分かりましたので、私が息子から買ってもらった時計を売って160万円を成松選手に送りました。息子から買ってもらった大事な時計を……」と同情を誘うかのような言葉が口をついたのです。

怒りをぶちまけたと思ったら、数分後には弱気になり、同情を誘おうとしてしまう。そんな感情のコントロールができない姿を見た人は、「あれはひどすぎる」「自分は大丈夫」と思うかもしれませんが、過信は禁物。山根会長のような組織トップや管理職には、こういうタイプが少なくないのです。

たとえば、部下を叱ったあと、突然自分の失敗談を話したり、優しい言葉をかけたりしたことはないでしょうか。誰かを叱り続けていると、その状況に疲れて徐々にパワーダウンするとともに、自分の弱さをさらけ出してバランスを取ろうとする人は少なくないのです。

なかでも盲点になりがちなのは、「相手のことを思って叱る」という思いの強い人。その思いが強いほど、「相手に対する言葉の攻撃性が増し、自分の弱さや優しい言葉でフォローして辻褄を合わせようとする」というパワハラのような行動をしがちなのです。ちなみに、山根会長は「選手のために」が口癖のようなタイプの人でした。

セルフ・ネガティブキャンペーンに終始

最後に、進退について聞かれた山根会長は、「この問題で進退は考えていません。なぜ進退って出るんですか? 連盟は何の落ち度もありません。ありません!」ときっぱり。さらに、「『なぜテレビの生(放送)に出たか?』というと理由があります。一昨日ですね。元暴力団森田組の組長から私の知人を朝方の1時ごろ呼んで、『山根に言っとけ』と。『3日以内に引退しないと山根の過去をバラす』と脅されました。だから僕は立ち上がったんです」と話してインタビューは終わりました。

冒頭のあいさつで、なぜか子ども、孫、ひ孫などの名前を挙げて呼びかけたあと、自分の手柄を並べ立てながら当事者たちを次々に批判。最後の開き直りとコンプライアンス無視の発言まで、感情に任せた無防備なメディア対応は、まさに“セルフ・ネガティブキャンペーン”でした。その意味では、各所に告発状を送った『日本ボクシングを再考する会』にとっては、追い風が吹いたと言えるかもしれません。

一方、このコラムを読んだビジネスパーソンのみなさんは、山根会長がこれ以上ない反面教師に見えたのではないでしょうか。「自分は問題ない」と思っていても、「立場変われば人変わる」のも人間の真実。力とお金を手にし、そこに長く居続けることで、変わってしまわないために、組織トップこそ自他両面からの定期的なチェックが必要なのです。

疑惑の解明に加えて、好物のカンロ飴や乾パンなどの接待リスト、会場の豪華なイスなどツッコミどころの多さもあり、今後もメディアはこの話題を重点報道するでしょう。しかし、東京五輪まで2年を切った今、いたずらに騒動をあおるのではなく、一刻でも早く「アスリートファースト」の組織に生まれ変わるための報道に徹して欲しいところです。