「音楽を所有する」時代の終焉:CDとダウンロードはいかに消滅したのか

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フィジカル・メディアの需要が急降下する中、アナログ盤だけはニッチながらも成長中。ジャック・ホワイト他、エキスパートたちが音楽鑑賞の未来を予測する。「2020年代はストリーミングとアナログ盤の時代だと確信している」とジャック・ホワイト。「車内やキッチンではストリーミング、居間や書斎ではアナログ盤だろう。フォーマットはこの2つだけになる。僕は大歓迎だね」。

もしオースティン(米テキサス州)のウォータールー・レコードへ最近行った人がいるなら、少し前には思いもつかなかった改造計画に気付いたはずだ。創業34年のオースティンの老舗音楽ショップがCDラック7メートル分をアナログ盤コーナーに改築したのである。「CDが市場に出て30年経過した今、CDから他のフォーマットに移行した人が数多くいる」と、ウォータールー・レコードのオーナーであるジョン・クンツが説明した。「彼らがアナログ盤を選ぶにしても、ストリーミングを選ぶにしても、みんな手持ちのCDを売り払う時代がくるだろう」。

2017年、音楽業界はストリーミングによってこの10年間で最高収益額に達したのと比例して、CDビジネスは右肩下がりを続けている。過去10年間でCD売り上げは80%下落していて、売り上げ総数で表わすと4億5千万枚だったものが現在では8,900万枚足らずとなっている。テスラがカーオーディオからCDプレーヤーを外した車種を製造し始めて以来、フォードやトヨタなどの自動車メーカーもそれに続いている。一方、ダウンロードに関しては、一時はCDの代替物とみなされていたが、2012年にピークを迎えたのち、現在はピーク時から58%も急降下しており、収益はフィジカル・メディア以下となっている。この現状に気付いたアーティストも出てきた。ブルース・スプリングスティーンは、最新のボックスセット『アルバム・コレクションVol.2: 1987-1996』をアナログ盤のみでリリースした。2014年の『アルバム・コレクションVol.1』ではCD版もリリースされていたが、Vol.2のCD版はない(※日本ではCDボックスで先行発売されている)。「現在はすでにストリーミングとアナログ盤が世界の主流になっていて、CDは急速に消えてつつある」と、マムフォード・アンド・サンズやフェニックスのホームグラウンドであるインディー・レーベル、グラスノート・レコード社長ダニエル・グラスが述べた。

近年、ほぼ間違いなく、最も強力なアナログ盤推奨者であるジャック・ホワイトもこれに同意する。「2020年代はストリーミングとアナログ盤の時代だと確信している。車内やキッチンではストリーミング、居間や書斎ではアナログ盤だろう。フォーマットはこの2つだけになる。僕は大歓迎だね」と。

今でもCDを購入するのはどんな人だろう? 「ウォルマートで買い物する人たちだ」とグラスが答え、「カントリー、グレーテスト・ヒッツ、サウンドトラック、赤ちゃん用レコードが相変わらず強い」と教えてくれた。カントリー界では、2017年、クリス・ステイプルトンがセカンド・アルバムをフィジカル・メディアだけで37万3000枚も売り上げるという素晴らしい結果を出している。また、世界に目を向けると、まだCDセールスが主流の国もある。日本などはストリーミングの浸透が遅いこともあって、2017年の音楽の総売り上げの72%がフィジカル・メディアだった。

80年代初頭に登場したCDは20年間に渡って音楽業界の拡大に大きく貢献してきた。また、ナップスターの登場やインターネット上の著作権侵害行為の多発、その後のiTunes Storeの登場など、フォーマットの存続に赤信号が灯されても驚くべき力で復活したのである。前出のグラスによると、今でもCDを求めるのは年配の音楽リスナーで、カーステレオやホームシアター・システムとSpotifyやPandoraを接続するよりも、CD音源を取り込むことを好むと言う。また、ツアーで生計を立てているバンドやアーティストにとっても、アナログ盤やポータブルのハード・ドライヴよりも、CDの方がライブ音源を発売するのに好都合だということだ。「CDを出すのが必須なのか?」と、Disc Makersのマーケティング部長ダン・ベーカーが問いた。「インディー・アーティストなら、答えはイエスだ」とベーカー。そして、ここ10年間で一度に受注する平均CD数が1,000枚から300枚へと激減したことも教えてくれた。CD1,000枚をオーダーする場合、料金は約1,000ドル(約11万円)で、アナログ盤200枚なら1,800ドル(約20万円)だ。「アナログ盤の方が高価だ」と、CD Babyのマーケティング副社長ケヴィン・ブルーナーが言う。ちなみにCD Babyはアーティストの音楽販売やストリーミングを行っているレコード・レーベルだ。

とは言え、アーティストも、レーベルも、レコード店も、避けられないCDの終焉に向けて準備はしてきた。ソニーは主要CD工場を2011年に閉鎖し、米テレホートとインディアナの従業員380名を2018年初めに解雇した。一方、2007年は100万枚にも届かなかったアナログ盤の売り上げが2017年に1,400万枚まで急増したため、アナログ盤工場がいたる所に出現している。サン・ヴォルトのマネージャー、シャロン・アグネロは「最近のテクノロジーがそんなふうに進化しているだけ」と説明する。サン・ヴォルトは2005年のアルバム『Okemah and the Melody of Riot』のアナログ盤を4月21日のレコード・ストア・デイにリリースした(CDとダウンロードも今後リリース予定)。「テクノロジーの流れがCD受難の時代を作っている」とアグネロ。

2006年にアナログ盤の売り上げが伸び始めたとき、一時的な流行りと捉えた専門家もいた。しかし、もはや一時的な流行りとは言えない。2017年のアナログ盤の売り上げは25年間で最高値に達した。そのため、レーベルは洗練したパッケージに資金を投入し始めている。コンコード・レコードの『コンサート・フォー・ジョージ』は初のアナログ盤が最近リリースされ、このジャケットにはジェフ・リンの承認を得たラッカーが使用された。また、ライノは1969年のグレイトフル・デッドの『Filmore West』のアナログ5枚組ボックスセットをリリースし、これは即時完売。ジャック・ホワイトのレーベル、サード・マン・レコードは、最近デトロイトに自社のアナログ盤プレス工場をオープンしている。これは35年ぶりに作られて新しいレコードプレス工場だ。ホワイトが言う。「これは歴史的な音楽の保存だけじゃなくて、今リリースされている音楽のためにも本当に重要なことだ。アナログ盤は決定事項だよ。今から120年後も残っているとすれば、レコードは永遠に消えないってことだ。そう考えるだけで気分が良いよ」と。