面接や説明会の現場で、企業の採用担当者から、「心ない言葉」が投げかけられることは少なくない (写真:mits / PIXTA)

人と人が出会う場にはドラマが生まれる。企業と学生の出会いでも、いろんなことが起きる。たとえば、連休明けの学生は緊張感が薄れ、必要書類を忘れる学生がかなり多いそうだ。そういう事例を聞くと、「まだ子どもだからな」と思う。しかし、学生の話を聞くと、企業の採用担当者の中にも社会人として、いや人間として評価できない人がいるようだ。


そんな“ダメ人事”を学生のコメントから、パターン別に紹介していきたい。コメントは2018年3月、楽天「みん就(みんなの就職活動日記)」と共同で2019年卒業予定の大学生・大学院生を対象に行った、アンケート調査結果(回答802人)から引用している。設問は「企業の社員、人事に言ってほしくなかった言葉(実際に聞いたもの)があれば、教えてください」である。

就活生が答える「人事に言ってほしくなかった言葉」

1.ライバル会社の批判をする

批判や悪口を口にする人がいる。たいていの場合は嫌われる。その内容が正しいかどうかは別として、人は否定的な言葉を聞きたくないからだ。芸能人やタレントは「先輩には本当に世話になった」と感謝し、肯定的に話す人が多いが、そういう言葉が視聴者に受け入れられるからだろう。

社会人の基本も、肯定的で前向きなトークだ。できる営業は取引先に行っても、ライバル企業を安易にけなすことはしない。しかし、人事の中には、何も知らない学生に対してライバル企業を批判する人がかなりいるようだ。目の前の学生がライバル企業を志望している可能性があるので、批判して志望度を下げようとしているのかもしれないが、効果は期待できない。むしろ自分の点数を下げる。

「同業他社の批判」(北海道大学・文系)、
「他社の批判。公平な立場で事実を告げるのであれば問題はないが、個人的な主観だけで意見を就活生に言うのは良くない」(北海道大学・理系)
「他社の選考状況を聞くのはよいが、他社を蔑んだり、他社の事業説明を求めるのは筋違いだと思う」(大阪薬科大学・理系)
「○○社と比べてもこの仕組みは優っている」(明治学院大学・文系)

2.自分の会社や部下に対する悪口

悪口を言う人は、なんでも敵視するので、ライバル会社だけでなく、自分の会社や取引先、部下をも攻撃する。こんな悪口を聞かされた学生がネットの投稿やこうしたアンケートに回答すれば、かなり大きなダメージになると思うが、そんなことは予想していないのだろう。〇〇の部分も実際は実名で記載されているのだ。

「取引先など関連のある会社のことを見下したような言い方をする人がいた」(金城学院大学・文系)
「会社に対する不満、社員の悪口」(広島市立大学・文系)
「○○の社員が自分の部下である年長の社員を“老人”呼ばわりしていたこと」(慶應義塾大学・文系)

社員や会社の悪口をいう担当者にうんざり

3.「残業が多いのが普通」と平気で言う

2010年代に入ってから、過度な残業を社員に課す”ブラック企業”に関する報道が増え、政府も「働き方改革」の方針を打ち出した。残業時間削減が社会的なテーマになっており、学生が「残業」に対して、強い忌避感を持つのは当然かもしれない。だから、「残業があります」(実践女子大学・文系)や「休みが取りにくい」(大分大学・文系)という人事発言にショックを受ける学生が出るのも、無理のない話だろう。

「残業はどれくらいだと思うかと聞かれ、私が15時間くらいと答えると笑われて、そんなに甘くないからと言われた」(東海大学・文系)という声もあったが、むしろこの人事は親切なアドバイスをしているように思う。

しかし、学生に「過労死ライン」といわれる80時間を大きく超えた残業が普通だと言って、脅す企業もある。早期離職を防ぐために入社前に伝えて覚悟させようと考えているのかもしれないが、このような残業を求める会社は、社会が求める方向性から大きく逸脱していると言わざるを得ない。

「深夜2時まで残業は普通にあるよ」(東京農工大学・理系)
「先月の残業時間が230時間あったと聞いた時」(茨城大学・理系)

4.学歴に対する差別発言

差別発言は当事者を傷つける。傷つく理由は、努力では変えられない属性を攻撃されるからだ。いろんな差別があるが、まずは学歴差別から紹介しよう。

「他大学合同模擬選考会で、人事の人が『君たちは上智や早稲田と違ってレベルがそこまで高くないから、この練習で頑張るしかないんだよ』と言われたことです」(昭和女子大学・文系)
「身の丈就活がいいということを言われた」(福島大学・理系)
「○○大学出身の人に、愛媛大学が最低ラインだと言われた」(愛媛大学・理系)

就活の現場では差別発言が蔓延

5.「女子は事務職しかない」と頭ごなしに言う

女子の場合は、事務職と総合職に関する差別発言が多い。

「女子は事務職しかいらないんだよねー」(大分大学・文系)
「なんで女性の多い事務職じゃなくて営業職を希望したんですか? という質問」(昭和女子大学・文系)
「総合職に女子はあまりいらない。という言葉」(日本女子大学・文系)
「女性総合職はまだ少なく、もしかしたらお客さんに差別的なことを言われることがあるかもしれません」(東京外国語大学・文系)
「企業ではなく就職コンサルタントの人から言われた。要項には男女について書いていなくても、実際には女性が落ちやすくなっている」(東京都市大学・理系)

​女性を評価する企業もあるが、言葉はややきつい。「男性はバカ、女性は賢い」(愛知学院大学・文系)のだそうだ。女性の雇用に大きな転機をもたらしたのは、1985年成立の「男女雇用機会均等法」だが、この頃でも「試験の成績だけなら女性が上。入社しても女性はすぐに役立つが、男性は育てるのに時間がかかる」と、あるメーカーの人事が話していたことを覚えている。

6.敬語無し。チャラい若者言葉でふざける人事

初対面の人間と話すときは、敬語を使うのが社会人の常識。相手が年下の学生であっても、ぞんざいな言葉づかいは避けるのがルールだ。ところが、知性の感じられない若者言葉を使う、社員や採用担当者がいる。

フレンドリーな進行にしたいと考えているのかもしれないが、学生はリクルートスーツに身を包み、緊張して就活に臨んでいる。チャラい人事に会ってびっくりし、志望度を下げる学生は少なくないと思う。

「若い人事の若者言葉。たとえば、ヤバイ、語尾のーーっす」(岡山大学・理系)
「○○の説明会での若手社員は最低でした。勝手にコンパ、合コンの話を始める。自分は外大だから計算苦手と、平気で口にするなど、終始ふざけておられました」(立命館大学・文系)
「具体的な言葉はないが、人事の文系出身によくみる言葉使い、語尾の敬語の無さにていねいさを感じられない」(東海大学・理系)

7.面接で異性に関する質問​​​​​​​​​​

学生から見られている場で、男女がふざけ合っている企業も目に余る。男女のモラルは、社内の風紀にかかわる重要課題だ。部内の打ち上げや忘年会で、仲のいい男女がイチャついても容認されるかもしれないが、説明会のような場では完全にアウトだろう。

「インターンシップの合同説明会で、若い女性社員と年配の男性社員がふざけ合っていて、場にふさわしい行動が取れない企業だと感じた」(筑波大学・理系)

面接で恋人の有無を聞く人事担当

​「職業安定法」では個人情報の取り扱いについて規定しており、面接でのNG質問は、家族の職業、本籍、宗教、支持政党、愛読書など。加えて交際相手に関する質問も、適性や能力とはまったく関係のない内容で、セクハラにも該当する。

しかし、そうしたことを無視して、質問する企業があるようだ。面接官にコンプライアンス(法令順守)の意識がなく、リスク管理ゼロと言わざるを得ない。もしかするとそうした法律があることを知らないのではないか。

「面接で、好きな異性のタイプや、恋人の有無、親の職業を聞かれた。集団だったので、とても恥ずかしく不快であった」(青山学院大学・文系)

8.「外国人は採らない」…高い壁に苦戦する留学生


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最後に外国人について紹介しよう。大学のキャンパスに行くと、多くの言語が飛び交い、外国人留学生の増大が顕著である。卒業時に日本での就職を望む学生も多いが、依然として外国人に対する壁は高いようだ。下記の学生は外国人のようだが、就活に苦戦している様子が読み取れる。

「外国人に対する好ましくない発言」(早稲田大学・文系)
「外国人を採用する意向はまったくありませんね」(中央大学・文系)

​以上、学生が聞きたくなかった人事の言葉を紹介してきたが、こんな不用意な発言をして、必要な学生が採用できるとは思えない。学生に接して話す人事、社員、面接官の人選には、気を配ってほしい。社会人として成熟した振る舞いのできない大人は見苦しいものである。