「サッカーファンは幸せになれない」という研究結果が発表される
2018年6月14日、4年に1度のサッカーの祭典FIFAワールドカップがロシアで開催されます。世界中から何万人ものサポーターたちがロシアの地を訪れ、自分の応援するチームの試合結果に一喜一憂することとなります。そんなサッカーの試合において、自分の応援するチームが勝利することは最高の喜びですが、「敗北した際に心に負う痛みは勝利の喜びの2倍以上である」という研究結果をイギリスのイースト・サセックス州にあるサセックス大学の研究者たちが発表しました。
http://www.sussex.ac.uk/research/newsandevents?id=44576
研究チームはスマートフォンアプリの「Mappiness」を用いて、定期的にサッカーの試合観戦を行う約3万2000人の被験者に対して「試合後どのように感じているか」「何をしているか」「どこにいるか」「誰といるか」などの質問を継続して尋ね、回答を分析するという調査を行いました。「Mappiness」は、利用者に質問を投げかけ、利用者が回答時点の幸福度合いを自身で判断するというアプリです。調査を通して集まった回答件数はなんと300万以上で、これらをサッカースタジアムの位置情報や、過去3年間のサッカーの試合結果などと組み合わせることで、サッカーファンたちの試合後の気分の変化を分析しています。
分析結果から明らかになったのは、「サッカーファンを続けることにより受ける累積的影響は、圧倒的に負のものである」というものでした。
Mappinessはランダムにユーザーに通知して質問を尋ねるので、従来の研究よりも「よりその瞬間の幸福度」を正確に測定することが可能となります。応援しているチームが試合に勝利した場合、サッカーファンの幸福度は1時間で平均3.9ポイント上昇しますが、2時間後には1.3ポイント、3時間後は1.1ポイントにまで低下します。対して、チームが敗北した場合の幸福度は1時間後に平均7.8ポイントも下がり、2時間後には3.1ポイント、3時間後は3.2ポイント下がります。つまり、試合に勝利した際に上昇する幸福度よりも、敗北した際に低下する幸福度の方がファンに与える影響は大きいというわけ。
さらに、試合結果によって得られる幸福度の変化は、実際の試合会場で観戦していたファンの場合、より大きくなります。スタジアムで試合を観戦した際に得られる勝利の喜びは、なんと平均で10ポイントも幸福度を高め、自宅などのTVで試合を観戦している人よりも3〜4倍高いものとなります。なお、Mappinessによるとスタジアムでのサッカー観戦&勝利よりも大きな幸福度が得られる行為は、性行為と求愛行動以外にはなかったそうです。もちろん敗北した際のダメージもスタジアム観戦者の方が大きく、平均で14ポイントも幸福度が低下します。
サセックス大学のビジネススクールで働く行動経済学者であり、Mappinessの共同創業者でもあるジョージ・マカロン博士は、「大部分のファンはサッカーが彼らを幸せにしてくれると考えていますが、ユニークなデータはそのようなことは示していません。喜びよりも痛みの方が大きいにも関わらずチームを応援し続けるというのは、伝統的な経済的見地からは非合理に見える」と述べています。
それではなぜファンがサッカーを応援するのかというと、答えは試合開始前に得られる高揚感にあるかもしれません。研究チームによると、試合開始のホイッスルが吹かれる前、スタジアムに観戦に訪れたファンの幸福度はなんと7.9ポイントも上昇するそうです。自宅のTVで観戦している場合は0.2ポイントしか上昇しないので、これはまさに「なぜサッカーを現地観戦するのか?」という謎への回答のようにも感じられます。もうひとつの仮説として、研究チームはサッカーファンが応援するチームが勝利した際に得られる幸福感には中毒性があるのかもしれない、としています。
研究チームの一員であるピーター・ドルトン教授は、「サッカーファンは全体的に見れば幸せにはならないにも関わらず、チームが勝利したときの喜びを味わうために、敗北によるより大きな苦痛に耐えようとしているようだ」と語っています。
なお、サッカーのチームが「試合に敗北しない」ということはなかなかないのですが、「インビジブルズ」として知られる黄金期のアーセナルは、2003-2004シーズンにプレミアリーグで初めての無敗優勝を達成しています。「無敗」ということで、当時のアーセナルファンは1年間で想像を絶する幸福感を体験したのかもしれません。