薄井シンシア『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)

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嫌なことがあると、だれかに「グチ」をこぼしたくなります。でもストレス発散のためにグチをこぼしたのに、それでグチが増幅することも。どうすればいいのでしょうか。専業主婦から5つ星ホテル幹部になった薄井シンシアさんは「『グチは10分』と決めることで、グチをポジティブに変換できる」といいます――。

※本稿は、薄井シンシア『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)の第3章「就職した50代専業主婦に贈る『四つの鉄則』」、第4章「自分で判断して決める。自立とはそういうこと」から抜粋して加筆したものです。

■グチをためるのはストレスの素

グチをためるのはストレスの素です。なるべくなら誰かにこぼして発散してしまいたいものですね。でも、それで逆にグチが増幅することもあるのだから、グチほど厄介なものはありません。ところが、扱い方しだいで、グチは自分を成長させるチャンスにもなるのです。

グチをポジティブな“友達”に変換する3つのツールを、私自身の実際のエピソードとともにご紹介します。

ツール1 グチのメリット・デメリットを書き出す

当時11歳だった私の娘が、ウィーンの小学校に転校したばかりのことです。学校で泊まりがけの旅行に行くことになったのですが、娘は行くのを嫌がりました。というのも、子どもたちは相部屋になる子には好きな友達を選ぶので、まだ友達のいない娘は当然ながら、相手に困ってしまうからです。娘のその気持ちはよく理解できました。

いつまでもグチって渋る娘を見ながら、私は言いました。「行きたくないなら行かなくてもいいよ。それなら私は『娘は病気だ』とか嘘をついて行かなくてもいいようにするから。でも、行ったほうがみんなと仲良くなれるチャンスがあるよね。行かなければ、そのチャンスはないよね。そこもよく考えてね」と。

■「紙に理由を書き出して」と娘に

それでもまだ娘はくよくよしているので、見かねた私は紙を取り出して、「行きたくない理由と、行きたい理由を分けて書き出すように」と言いました。ものごとは書き出すと、あいまいな部分がはっきりするからです。娘は、行きたくない理由をいっぱい書きました。誰からも声がかからないとか、知らない子と相部屋になるとか。行きたい理由はほとんど書きませんでした。

書いた紙は冷蔵庫の壁面に貼っておき、学校から帰ってくると、「今日は、このなかで当てはまるものは何?」とチェックをさせました。娘は一日あったことを振り返りながら、「今日は楽しいことがあったから、こっち(行きたい理由)かな」とか、「でも、今日は一人でお昼を食べたから、まだこっち(行きたくない理由)」というふうに、毎日二人でチェックして、次第に気持ちの整理がついてきたようでした。旅行が近づいてきて、私が「行かないのなら、先生に伝えないとね」と決断を迫った時、娘が出した結論は「行く」ことでした。

私は、くよくよする時間は、基本的に無駄だと思っています。むしろ、ぱっぱっと決めて行動に移してから、そこで考えればよいと思うほうです。でも幼い娘の“くよくよ”に対して、私が「こうしなさい」と言って決めさせることはできませんでした。娘の“くよくよ”に付き合うのには忍耐が必要でしたから、私もくよくよとか、いらいらとか、少しは悩んでいたのに違いありません。

この「紙に書いて決める」というやり方も、困った挙げ句に編み出した方法でしたが、結果的にこれは、選択肢を用意して検討し、判断して自分で決めるというプロセスを踏むよい訓練になったと思います。書き出すことは、「グチ」を「自立」へと昇華させる頼もしいツールになったのです。

ツール2 “かわいそうパーティー”で思い切り泣いてみる

私はもともと仕事が大好きだったので、結婚しても仕事は続けていました。ところが、出産して、まだ首のすわらない娘が、私の腕のなかで安心し切った表情ですやすや眠るのを眺めているうちに、突然ある思いが湧き上がってきたのです。

「この赤ちゃんを育てること以上に、私にとって大事な仕事があるだろうか?」

そうして、私は仕事を辞め、“専業主婦に転職”したのです。30歳のことでした。

子育て真っ最中のある日、弁護士になった幼馴染がうちに遊びに来ました。彼女はずっと仕事を続けており、スーツ姿がよく似合い、はつらつとして、充実したキャリアを積んでいるのがよくわかりました。彼女が帰ってから、私は彼女がまぶしくて、うらやましくて、わけもなく後悔の気持ちが湧き上がってきたのです。ああ、“くよくよ”が始まる……。

その時、“かわいそうパーティー”をやりました。自分自身を憐れみ慰めるために、10分間だけ泣いてわめいてグチを言うことを“かわいそうパーティー”と名づけていました。人生には、どうすることもできない不可抗力の出来事や我慢する時間というものがあります。それをやり過ごすためのツールが“かわいそうパーティー”です。

不思議なことに、このパーティーの後は、自分が置かれている環境のありがたみを思い出すことができるのです。“かわいそうパーティー”は、心を浄化するツールとも言えます。

ツール3 グチを糧に逆転する

帰国後、日本での職探しは悲惨でした。52歳の専業主婦に仕事はありません。ようやく見つけたのが電話受付のパートでした。私は電話が鳴ったらすぐに出る、率先して事務所を片付ける、わからないことは周りの人に何度も聞くと決めて実行しました。「質問が多い」「しつこい奴だ」と嫌がられもしました。でも、専業主婦だった私に、仕事のやり方はよくわからないのだから、聞かなくては仕事ができません。

ある時、些細な質問をして、古参社員に「そんなこともできないの? ろくに電話にも出られないくせに!」と嫌みを言われました。

私はなんとか仕事を覚えようと必死に働いていたので、悔しくて泣きそうになりました。その時の私のチョイスは、仕事を辞めるか、言い返すか、ふたつにひとつだと思い込んでいました。でも、家に帰って10分間、思い切りグチっているうちに、別の道が頭に浮かびました。逆襲です。

と言っても、自分にも周りにもプラスになるような逆襲です。

■徹底的に実践、マニュアルを作り繰り返す

翌日から徹底的に電話に出て、マニュアルを作って、そのとおりに完璧に繰り返す――これを実行して数カ月後には完璧に仕事ができるようになりました。

嫌みを言われてから1年後、私のほうがお客さんが増えて売り上げも上がるようになりました。嫌みを言った人は、私に仕事のやり方を聞いてくるようになり、私は彼女にマニュアルをあげました。大逆転です。

これは「グチは10分まで」の効用のなせるわざ。10分しかグチれないと思うと、集中してグチるため、頭の回転がよくなるのかもしれません。グチそのものが逆転のツールになったのです。

グチの無い人なんていません。どんな立派な人だってグチのひとつやふたつは出るもの。でもそう悪いものではありません。そう思って、グチと付き合うと気がラクになります。

延々と繰り返すグチは、身をほろぼします。

「グチをこぼすのは10分まで」「グチを聞くのは10分まで」というルールを作ると、つらいことがあっても、立ちあがって前に進めます。

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薄井 シンシア(うすい・しんしあ)
1959年生まれ。海外勤務の夫について20年間海外で暮らす。17年間の専業主婦の後、47歳のとき、バンコクで“給食のおばちゃん”になる。帰国後、52歳で電話受付のパート。その後、3年でANAインターコンチネンタルホテル東京の営業開発担当副支配人になる。シャングリ・ラ ホテル東京勤務の後、現在、日本コカ・コーラ(株)で東京2020オリンピックのホスピタリティ担当に従事。著書に『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)がある。

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(薄井 シンシア)