北朝鮮の携帯端末に埋め込まれた「監視ソフトウェア」の正体
韓国統計庁が昨年末に発表した「北朝鮮主要統計指標」によれば、2016年の時点で携帯電話を使用している北朝鮮国民は361万人で、前年より37万人増えた。
一方、米国の国際マーケティンググループ「We are social」とカナダのIT企業「Hootsuite」によると、2017年3月時点の北朝鮮の携帯電話加入者数は370万人だという。また、韓国の国家情報院は今年8月、北朝鮮で使われている携帯電話の数を470万台と明らかにしている。どれも推計だが、だいたい400人万前後、北朝鮮国民(2500万人)の6人に1人くらいが携帯電話を使用していることになる。
世界最悪の監視国家である北朝鮮でこれほど携帯電話の普及が進むとは、意外に思う人は少なくないのではないだろうか。これほどの数の携帯電話を、すべて盗聴するのは不可能だ。体制に都合の悪い情報が携帯電話でやり取りされても、それを当局がキャッチするのは困難だろう――と、思いきや、やはり北朝鮮当局はそれほど甘くなかった。
LINEを警戒
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先月、北朝鮮の携帯端末にユーザーの使用動向を監視するためのソフトウェアが搭載されている事実と、その機能について報じた。北朝鮮の携帯端末に当局が仕掛けをしていることは以前から指摘されていたが、その具体的な機能が紹介されたのは、おそらくこれが初めてだ。
WSJによると、ドイツの研究者フローリアン・グリューノウ氏は、北朝鮮で販売されている「ウルリム」という名のタブレットPCを分析。北朝鮮の独自OS「レッドスター」にバンドルされ、事前に埋め込まれた監視ソフトウェア「トレースビューア」を発見した。
その監視ソフトはユーザーの意思とは関係なく、端末が使われている間にスクリーンショットをランダムに撮影。ユーザーがどんなアプリをどのように使い、どのようにイントラネットにアクセスしているかといった履歴を記録する。
そして、ユーザーはどのようなスクリーンショットが撮られたか見ることはできるものの、削除することはできないという。
つまり、他人に知られたらマズい使い方をしているユーザーが、国家保衛省(秘密警察)などから「端末を見せろ」と提示を迫られたら、一巻の終わりということだ。北朝鮮では、国家保衛省の職員が、極秘に集めたデータを基に市民の携帯電話購入の申請を承認するかどうかを判断している。
また、グリューノウ氏によると北朝鮮当局は、ユーザーの端末にあるファイルを遠隔で削除したり、ファイルのシェアをブロックしたりすることもできるという。
ちなみに北朝鮮は、LINEやカカオトークなどのメッセンジャーアプリを強く警戒しているとされる。こうしたアプリでのやり取りを捕捉し、解析する技術は持っていないのかもしれない。
(参考記事:LINEやカカオが「抜け穴」に…北朝鮮の情報統制に欠陥)
しかし、国外からの情報流入を極度に警戒し、拷問や公開処刑などの残忍な手段を駆使してまで国内での情報拡散を阻止しようとしてきた北朝鮮のことだ。あらゆる情報の流れを統制下に置くべく、新たな技術の開発に取り組んでいるのは間違いない。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)