村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

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〈じっと考えてみよう〉

 自分の性格や容姿(顔だち・体つき)、才能を見つめて、
 長所・好きな点はどこだろう? 短所・きらいな点はどこだろう?
 それぞれ3点ずつ書きだしてみよう。



人はそれぞれに長所や短所があります。そしてこの長所や短所こそ、あなたが「世界で唯一のあなた」であるための個性をかもしだしています。個性は、その人の味わいであり、輝きであり、魅力です。

あなたがいま書きだした長所や短所はさまざまあるでしょう。ふつうに考えれば、長所はよいものだからどんどん増やしたいと思います。また逆に、短所はよくないものだからなくしてしまいたいと思う。

けれど、もう一段深く考えると、長所や短所といってもそれはとらえ方しだいで変わるものです。これから生きていく間には、長所と思っていることが、じつは短所になって、結果的に害になることが起こるかもしれません。また逆に、短所が長所としてはたらいて、益になることもあります。

たとえば、「いろいろなことに好奇心があり活動的」という長所を持つAさんは、ともかく何にでも手を出しやってみるのはいいけれど、どれもちょっとためしてみるだけで満足し、すぐやめてしまう。そんなAさんは社会に出てからもそんな傾向性が続きました。そのために、ある会社に勤めてはそこをやめ、次の会社に移ってはまたやめることを繰り返し、結果的に安定して職業につけないという人生になってしまいました。


逆に、「人前でしゃべるのが苦手・くよくよ考えすぎる」という短所を持つBさんは、話すことがへたなら、せめて書くことは人よりうまくなろうと決意し、本をたくさん読み、文章力を磨いていきました。また、「くよくよ考える」という傾向性は、いつしか「熟考する・自己分析する」力を強めていった。そのために、Bさんは翻訳家になろうという目標を早くから描くことができました。そして翻訳家となり充実した日々を送ったのでした。

このように自分が長所と思っていることも、逆効果となって悪い結果を生み出すこともあれば、短所としてきらっていることも、実は長い目でみれば良い結果をもたらすことも出てきます。


大事なことは、長所も短所も、好きな点もきらいな点も、それはいっさいがっさい自分の個性なんだと大きな心で受け入れることです。そしてそれらとうまく付き合い、うまく生かしていくことです。その過程で自分というものがしっかりできてくる。

じつは、大人でもよく自己嫌悪におちいります。「自分はこの点がダメだ」「こんな自分はどうしようもない」と、何度も何度も心のなかで自分を責めるのです。たしかに、そうやって落ち込みたいときもあります。しかし、評論家の小林秀雄は次のように書きます───

「自己嫌悪とは自分への一種の甘え方だ、最も逆説的な自己陶酔の形式だ」。 (『人生の鍛錬』より)

すなわち、自分がきらいだ、いやだといって落ち込んでいるのは、じつは弱い心の姿勢であって、自分に甘えているだけと言っているのです。

たしかに、自分がいやになって、元気をなくして得になることはなにもありません。あるとすれば弱い自分に酔って、少しだけ「不幸の主人公」気分にひたれるだけのものです。小説や映画であればそうした不幸の主人公も美化され、人が感動してくれるのかもしれません。ところが現実はそうではなく、自己のなかに陰にこもる人は社会から取り残される危険性があります。


とにかく、現実のあなたはいまここに生きています。

そのような性格・才能を、そのような身体に詰め込んだ生き物は、この地球上(いや、宇宙のなか)にたったひとつしか存在しません。人類の長い歴史のなかでも同じ人間は存在しませんでした。それほどあなたの存在は唯一のものです。だから「これが自分だ」とおおらかにかまえてよいのです。芸術家の岡本太郎はこう言っています───

「他人が笑おうが笑うまいが、自分の歌を歌えばいいんだよ。」「ひとつ、いい提案をしようか。音痴同士の会を作って、そこで、ふんぞりかえって歌うんだよ。それも、音痴同士がいたわりあって集うんじゃだめ。得意になってさ。しまいには音痴でないものが、頭をさげて音痴同好会に入れてくれといってくるくらい堂々と歌いあげるんだ」。 (『強く生きる言葉』より)

[文:村山 昇/イラスト:サカイシヤスシ]