自殺した男子生徒が通っていた県立奈良北高校。文科系のクラブに所属していたという

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「男子生徒がいじめや学校からの指導で受けた心理的苦痛によって自殺した」

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 いじめと自殺の因果関係を認めた第三者委員会の「調査報告書」を、7月21日に奈良県教育委員会が公表した。

 調査対象になったのは、'15年12月4日、県立奈良北高校の男子生徒(当時16)が自ら命を絶った件だ。

やがて浮いた存在に

 当日、学校は2月期末テストの2日目で、男子生徒は3限の英語のテスト中に「トイレに行く」と教室を出た後、4階の窓から転落した。

 第三者委員会の調査では、クラスメートや校長までもが、男子生徒を追い込んでいたことが明らかとなった。

 同校では7月21日、全校集会を開いた。今年4月に着任した土居正明校長は、「生徒たちにはいじめがあったと認定されたことと、いじめを見逃した学校と教員の課題であることを話し、頭を下げ謝らせていただきました」と本誌に答えて、「周囲から、謝ったら認めたことになると言われることもある」とも。

 “周囲”が、具体的に誰を指すかはわからないが、学校側が不利にならないようにという保身体質が浮かび上がる。

 第三者委員会の「調査報告書」にも、「G君(※編集部注:自殺した男子生徒)が亡くなった要因のひとつに、クラス内でのいじめがありました」「いじめは、いじめられている子が心に苦痛を感じれば、些細なことでもいじめになるのです」と書き記されている。だが、そこにも「私たちの調査では、あれはいじめでなかったと答えた生徒のみなさんもいました」という驚くべき事実が記載されている。

 いじめる側、そしてその周囲がいじめと認識しなければ、いじめは根絶されない。

「調査報告書」によれば、G君は高校入学当初は、積極的にクラスメートに話しかけていたが、次第に「変わっている子」と認識され、やがて「浮いた存在」としてクラス内で居場所を失っていった。

 第三者委員会が、あくまでも一部を記載したにすぎないと断ったうえで「いじめ」と認定した行為は、6点。

 入学直後の5月25日、クラスメートがG君に、テニスの実力について「お前へぼいやろ」と揶揄したこと(G君はクラスメートに暴行で仕返し。結果、特別指導を受ける)。

 6月には、クラスメートにたきつけられG君が喫煙すると、クラスメートはその動画を撮影し、LINEで拡散し、学校に通報した(その結果、2度目の特別指導を受ける)。

 6月中旬、クラスメートほぼ全員が加入していたLINEからG君だけが排除された。

 6月19日には、G君を誹謗中傷するメッセージがLINEに流された。

 授業中に喫煙の話題になると、一部の生徒が「たばこ博士」とからかい、「次、退学ちゃうん」と追いつめたり、G君のカンニングを疑い退学を示唆する「Gアウト」という声があがった。G君を揶揄する発言は多数確認できたが、止める生徒はおらず、逆に同調し笑う生徒がいたという。

 自死の直前、クラスメートがG君の机を勝手にあさり、机にあった消しゴムに漢字が書かれていることを発見。カンニングと決めつけたクラスメートが“証拠”として担任に提出した(調査結果にはテストの解答には影響を与えないと記載。この時の国語のテストはG君がクラス最高点)。

力なく言葉を絞り出す父親

 クラスメートの“告発”にG君は、“退学に追い込まれ、これを免れない”と認識し“死んでも構わない”と死を覚悟した可能性が高いという。

 喫煙の発覚により、特別指導を受けた際、当時の校長は、G君と父親に対して「やっぱり制服を脱いでもらうことってあるでしょ」と退学の勧奨ともとられかねない発言をしてG君を追い詰めていった。

 県教育委員会は、

「本人を理解した指導ができなかったことはとても重い落ち度であり、改善していく必要があると考えています。特別指導のあり方も検討会を立ち上げて見直していく」

いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか』(講談社)の著者で、明治大学文学部の内藤朝雄准教授は今回の調査結果を、

「学校や教育委員会に忖度していないことがわかる結果」

 と第三者委員会の「調査報告書」を認識。そして生徒たちを狭い人間関係に縛りつけて逃げられないようにする学校制度に目を向けるべきと断ったうえで内藤准教授は、

「そもそも利害関係者である教育委員会が第三者委員会の委員を選ぶということは即刻やめなければならない。弁護士会など各団体の推薦によって選ばれるシステムでも、結局は決定する地元教委の利害によって左右される」

 と、委員選定の問題点について厳しく指摘する。

 ただし、いじめ自殺が認定されても自殺した事実は変わらない。遺族は、「調査報告書」をどう受け止めたのか。

「今はお話しすることはありません。息子が帰ってくるわけじゃないですから。(加害生徒や学校への)気持ちは、何も変わってないですよ」

 力なく言葉を絞り出した父親の背中からは無念さが感じられるだけだった。