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 今月上旬、『九州北部豪雨』に見舞われた大分県─。

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 同県別府市内にある立命館アジア太平洋大学。同大は学生約5800人の半数が留学生だ。広報担当者は話す。

「災害が発生したとき、日本語、英語、両方の言語を使い情報を発信しています。Facebookでも災害に関する情報を伝えました」

 昨年、熊本地震では、留学生から不安の声があがった。生まれて初めて地震を経験する学生もいたため、以来、同大は情報発信を強化した。

 同大のインドネシア出身のアイシャ・ファクリアさん(20)は友人と食事中に、大雨特別警報を受けた。

災害のときに使う言葉が難しい

 しかし情報は日本語。特別警報の意味もわからず降り続く雨に不安を募らせた。そこで英語で情報を検索、インドネシア出身のグループで情報を共有していたと明かす。

「簡単な日本語ならわかりますし、ひらがなは理解できますが、漢字は難しい。災害のとき、どこに逃げたらいいのかわからないし、逃げた先でいつまでそこにいたらいいのかもわかりません。今はシェアメートと2人で住んでいますが、地震や災害が起きたとき、隣に住む日本人が声をかけてくれるのでホッとします」

 在留外国人や外国人旅行者など、日本中に外国人がいることが当たり前の時代。災害は、誰かれおかまいなしに襲いかかる。警報や避難情報が発信されるが多くは日本語だ。言葉がわからない外国人は情報弱者になる。

 昨年発生した熊本地震では「地震が怖くて家に入れない」「避難所はみんな日本人で言葉がわからず孤独だった」「災害のときに使われる言葉が難しかった」などの声が聞かれた。

 2015年、鬼怒川の水害被害にあった茨城県常総市。「市の人口の7%が外国人」という土地柄のため、外国人も被災した。この際、避難の呼びかけが日本語だったことから避難が遅れ、自宅に取り残されたケースもあったという。

 九州北部豪雨でも福岡・朝倉市で外国人住民が被災している。

「それぞれの国の言葉で情報を伝えられたらいいのですが、災害直後の混乱時に被災地から複数の外国語で情報を伝えることは不可能です。日本人の多くは、“外国人には英語や外国語で話しかけなければいけない”と思っていますが、そうじゃなくていい」

 と指摘するのは弘前大学の佐藤和之教授。注目したいのが「やさしい日本語」だ。やさしい日本語では、「避難」を「逃げる」、「津波」を「とても高い波」などと言い換え、災害時に使われる難しい言葉をわかりやすく伝える。1文を短くする、ルビをふるなど12の文法規則を守ることで作る緊急対応用の言語だ。

「来日して1年くらいの外国人なら誰でもわかる言葉を使っているので理解でき、災害発生時にはとても効果があります。文章を作るほうも、日本語のスキルがある人なら誰でも身につけられます」

 と、説明する。

「情報が入ると行動も判断できます。するとパニック状態にならず、心も安定します。やさしい日本語で状況がわかった外国人が、今度はほかの外国人や旅行者にアドバイスもできるようになるんです。さらにやさしい日本語は高齢者や子ども、障がい者など、誰でも理解がしやすい」(前出・佐藤教授)

外国人を防災リーダーに

 万能に思えるやさしい日本語だが、注意点もある。

「あくまでも災害発生72時間の緊急的に使う危機管理のための言葉です。生活再建や困りごとなどの相談は外国人が使う言語できちんと説明をしたほうがいい」(佐藤教授)

 災害発生後、しばらくすると専門のスタッフが外国人の支援を行う、災害多言語支援センターなどが各自治体に立ち上がる。一般財団法人『自治体国際化協会』の佐藤雄一郎課長は、

「災害時多言語支援センターでは語学に堪能なスタッフが外国人の相談を聞き取り、しかるべき機関につなげるなどの取り組みを行います」

 さらに同協会では避難所での炊き出しや入浴など情報を多言語で伝えるツールを提案。『多言語表示シート』だ。

「避難所などで使用できる文章を12言語で表示しています。文字を読まなくてもわかるようにピクトグラムでも表示できるものも作っています」(佐藤課長)

 さらに、外国人を災害から守るための取り組みに力を入れる自治体も増えている。

 福岡県では「日本の災害がわからない外国人のために、7か国語で防災ハンドブックを作っています」(防災担当者)

「一昨年からリーダーを育てる取り組みを行っています」と静岡県浜松市は在留外国人の防災リーダーに期待する。

「ポルトガル語、中国語、スペイン語、インドネシア語、タガログ語、ベトナム語、英語をしゃべる7人の外国人をリーダーにし多言語支援などで防災に携わってもらいます」

(浜松国際交流協会担当者)

 南海トラフの震源地に近いとみられる静岡県も、

「災害時にはFacebookなどを利用した情報提供が特に有効と考えています」(多文化共生課担当者)

 前出の立命館アジア太平洋大学やアイシャさんらもSNSを利用して情報の取得をしていた。

 さらに、外国人は支援を受けるだけではない。前出・浜松国際交流協会担当者は、

「外国人は一方的な弱者ではありません。若く体力のある人も多く、情報不足や言葉のカベはありますが、助ける側に回れる可能性があるのです」

 と共助の担い手として期待をこめる。

 2020年、東京オリンピック・パラリンピックに向け外国人観光客はますます増加する。災害時、外国人のためできることがある。一緒に生き残る術を考えたい。