2020年、女性の2人に1人が50歳以上に 「未来の母親」が激減していく日本
将来の母親が減ってしまっているから
「結婚の気運をもっと盛り上げて、多くのカップルに東京オリンピック・パラリンピックを楽しんでいただく流れを作ってまいりたい」
これは2017年3月、東京都が初主催した結婚応援イベント「TOKYO縁結日2017」に出席した小池百合子知事のあいさつである。こうした婚活イベントだけでなく、政治家や有識者などからは「ストップ少子化」と銘打って、さまざまな提言がなされている。
だが、現在の日本で少子化に歯止めをかけるなど極めて難しい。仮に、少子化が止まるとすれば、それは遠い未来のことであろう。「ベビーブームが到来するかもしれない」と期待する人もいるだろうが、ちょっとやそっとのベビーブームが起こったぐらいでは、日本の少子化の流れは変わらない。
というのも、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する子供数の推計値のこと)が改善しても出生数の増加にはつながるどころか、むしろ減っていくからである。それは一体なぜなのか?
これまでの少子化の影響で「未来の母親」となる女児の数が減ってしまっているためである。過去の少子化に伴う出生数の減少によって、すでに女児の数は少なくなっており、将来、子供を産める女性の数が大きく減ってしまっているのだ。
出産時期にある女性人口の将来推計を見れば一目瞭然である。
現在では四年制大学に進学し、卒業後に就職する女性が増えたので、出産時期を25〜39歳として、該当年齢の女性数を追ってみよう。この年齢層の女性は2015年の国勢調査では1087万人いたが、2040年には814万人と、2015年の75%ほどになる。2065年になると、612万人とほぼ半減してしまう(国立社会保障・人口問題研究所の推計)。
合計特殊出生率で見ると、2016年は1.44とかなり低水準にある。仮に今後、少子化対策が功を奏して、この合計特殊出生率が倍増となったとしても、母親となる女性の人数が半減しているのでは出生数は増えないのだ(1組の夫婦が5人、6人と子供を持つ時代に戻るのであれば話は別だが、成熟国家となった日本がいまさら「多産社会」に戻ることは考えづらい)。
実際に、過去の数値を辿(たど)ってみよう。合計特殊出生率が過去最低だったのは2005年の1.26。これと最新データである2016年の1.44とを比較すると、0.18ポイント回復している。これだけを取り上げれば少子化は改善に向かったと言えよう。
ところが、年間出生数で比べると、8万5551人も減っている(106万2530人→97万6979人)。実際には少子化は進んでいたわけだ。
日本社会は、少子化が「さらなる少子化」を呼び起こす悪循環に陥っているのである。こうして数字を精査していけば、出生数の大幅回復が望み薄であることがよく分かるだろう。
「国民希望出生率」は実現可能?
ちなみに、合計特殊出生率を計算する際に、母親になり得るとカウントしている女性の年齢は15〜49歳である。これに従えば、49歳までが出産可能な年齢とされている。
そこで49歳以下の女性人口についても確認しておこう。高齢化の進展によって女性人口に占める49歳以下の若い世代も減ってきているが、国立社会保障・人口問題研究所の女性人口の将来推計を見ると、2020年には、50歳以上人口(3248万8000人)が0〜49歳人口(3193万7000人)を追い抜く。日本女性の過半数が出産期を終えた年齢になるということだ。
これに対して、安倍政権は「国民希望出生率1.8」の構想を打ち出している(国民希望出生率とは、若い世代が結婚して出産したいという希望が叶った場合に想定される合計特殊出生率を指す)。
では、若い世代の結婚や出産の希望とは何を意味しているのだろうか。
政府が用いるのが、「第15回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所、2015年)である。それによれば、「いずれ結婚するつもり」と考える独身者は男性85.7%、女性89.3%で、男女とも「ある程度の年齢までには結婚するつもり」が、「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」を上回っている。結婚する意思のある未婚者が希望する子供数は男性が1.91人、女性は2.02人であり、夫婦の予定子供数も2.01人である。こうした数字をベースに一定の仮定に基づいて計算すると、現在の「国民希望出生率」は1.8になるというのだ。
ただ、この「国民希望出生率」を実現するためのハードルも決して低くはない。結婚したいのにできない、子供が欲しいのに持てない理由は様々。その一つ一つを解消していくには、政府や自治体の地道な取り組みが必要になる。そして、たとえ1.8を達成したとしても少子化に歯止めがかかるわけではない。
合計特殊出生率の人口置き換え水準(人口が減らない水準)は「2.07」であり、1.8ではそれに遠く及ばないためだ。
では、われわれにはどんな選択肢が残されているのか? できることといえば、少子化のスピードを少しでも緩めることである(「1.99」と「1.00」とでは総人口が半減するまでに要する時間が異なってくる)。
人口半減までのペースが速ければ速いほど、その変化に対応するための時間が少なくなる。逆に言えば、合計特殊出生率が高ければ高いほど、人口減少スピードは遅くなり、社会を作り替えるための時間を確保できるのだ。
少子化対策を講じるための「時間稼ぎ」をするという意味からも、合計特殊出生率を向上させる取り組みを疎(おろそ)かにはできないのである。
※河合雅司著『未来の年表』(講談社現代新書)の「2020年の項」を一部改稿。
<著者プロフィール>
河合雅司(かわい・まさし)
1963年、名古屋市生まれ。産経新聞社論説委員、大正大学客員教授(専門は人口政策、社会保障政策)。中央大学卒業。内閣官房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、拓殖大学客員教授など歴任。2014年、「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。主な著作に『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社)、『地方消滅と東京老化』(共著、ビジネス社)、『中国人国家ニッポンの誕生』(共著、ビジネス社)、『医療百論』(共著、東京法規出版)などがある。2017年6月に『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書)を上梓。