高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬)「対応は柔軟、プレッシャーは一貫」【Vol.1】

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 「勝率を高める」追求を徹底して続けている健大高崎。そこから「機動破壊」は生まれたが、真のテーマは「相手の心理を突く」ことにある。いかに相手の心理を読み、プレッシャーをかけるか。見えてきたのは柔軟性と一貫性の共存。関東大会開幕戦に登場する健大高崎の独自論理を全4回連載で紹介していきたい。

相手心理を突く=プレッシャーをかける

練習風景(健大高崎)

「相手の心理を突く、というのはずっと変わっていません」

 初めて高崎健康福祉大学高崎高等学校(以下、健大高崎)野球部を訪問したのは2013年。その時に“機動破壊の核”葛原 毅コーチが重視していた「心理」への追及は今も変わっていない。

「“自分たちの野球”なんてやっていてはダメだと、個人的には思っています。いくら自分たちの野球を貫こうとしても、相手はそこを崩しに来るわけですから、まんまとワナにはまることになる。逆に相手がしてくる対策に対して柔軟に対応できるチームを作る。相手の対策を上回っていく。そこがやっていて一番楽しい点でもあります」

 健大高崎ほどチームカラーがはっきりしている高校はそうない。機動破壊。代が変わっても全国トップレベルの走塁を見せてくれる。その機動力は強みであることは明らかだ。だが、試合によって機動力の使い方を変えるという点が特徴的である。どのように使い分けているかというと、相手にとってもっともダメージの大きい方法を採用するのだ。つまり、心理を突く=最もプレッシャーをかけるために機動力を活用する。

「一番出塁させてはいけない選手」がNGワードな理由

葛原 美峰コーチ(健大高崎)

 プレッシャー。健大高崎と対戦するチームは必ず感じざるを得ないやっかいな問題だ。毅コーチの父、葛原 美峰コーチ(関連記事)は言う。「よくいう『一番出塁させてはいけない選手』という表現。あれは絶対に使ってはいけない言葉です。その言葉を発する時点で対象となる選手を意識していることになる。そういう選手に限って簡単にフォアボールで出塁できたりする。監督の言葉が、自チームのピッチャーにプレッシャーをかけているようなものです」

 健大高崎ほど機動力がウリになると、相手は対戦前から意識せざるをえない。その時点で既にプレッシャーがかかっているのだ。もっといえば、意識するように“仕向けられている”。健大高崎の相手に心理的プレッシャーを与える取り組みは、試合前から始まっているのだ。引き続き美峰コーチの言葉である。

「よく記事にしてもらったりしていますが、それも意識してもらうための戦略的役割があります」

 毅コーチに補足を願おう。「機動破壊はランナーが出ることで威力を増しますが、ランナーを出すまでのプロセスは具体的に解明しているわけではないんです。計画的にやっているわけではないのですが、マークされている選手に限ってフォアボールで出塁するケースが多い。意識させているわけでなく、勝手に意識してもらっているんです。その裏には、メディアに載る情報があると思います。“言葉の魔力”ですね」

プレッシャーを与える走塁は盗塁に限らずプレッシャーのかけ方は年々複雑化し、進化している

 インターネットの普及もあり、高校野球の情報は年々増えてきている。相手の心理を突くために時代の流れに沿ったメディア戦略も行っているわけだが、やはり重要なのは話題になるほどの実力を伴っているということだろう。

 機動破壊は「相手の心理を突く」というテーマこそ変わらないものの、そのプレッシャーのかけ方は年々複雑化し、進化している。以下、毅コーチの解説である。

「もちろん自由に走らせてくれるのであれば走りまくります。でも、相手が盗塁を阻止しようとピッチドアウトを連発してくれば、たとえ盗塁が0であろうと機動破壊は機能しているといえます。今年のセンバツは4試合しましたが、盗塁の総数は13。決して派手な数字ではないですが、とても効果的だった印象です。たまに雑に見えることがあるのですが、センバツに関しては雑な部分は減り、少し大人っぽい走塁ができた気がします」

 例えば福井工大福井との延長再試合。1回裏、先頭バッターの安里 樹羅選手がヒットで出塁し、いきなり盗塁を決めた。この試合での健大高崎の盗塁数は2。だが、警戒する福井工大福井の出鼻を挫くこの1個の盗塁が初回の4得点に繋がった。

「あれは自由スチールですが、今年は癖を見る練習をたっぷりしてきました。iPadで投手のクイック時の投球を撮影して、癖を見抜く目を養ったんです。ボクサーがパンチを放つ前に必ず動く筋肉を見て動きを読むように、クイックも股関節にはめるために必要な“前段階の動作”が必ずある。スロー再生でコマ送りしていけばその動作を確認できます。その癖さえ見抜ければ、クイックのタイム1.3秒が、前動作から数えれば1.45秒になる。安里は初めて対戦するピッチャーに対しても、初回から癖を見抜いてすぐ反応してくれました」

 ここぞ、という場面で相手にプレッシャーを与え、心理的ダメージを与える走塁の選択肢が、健大高崎には豊富に用意されている。その全てを紹介することはできないが、例えば…

「一つしっかり練習しているのが偽走。走ったと思わせて走っていない動きを1塁、2塁、3塁、どのベースでも行えるようにしています。これがきちっとできている時、ピッチャーは乱れやすくなる。また、特に縦回転のウイニングショットを持っているピッチャー相手には、ワンバウンドしたら全て走るよ、というローボールゴーは効果的です。ピッチャーが重圧を感じてくれれば、ボールは浮いてきますから」

 今年のチームは特に、機動力の完成度は高くなっているそうだ。

第二回へ続く

(取材・文=伊藤 亮)

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