選手の思考力を養うシミュレーション「もしもシリーズ」を取り入れてみよう

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選手の思考力を養う「もしもシリーズ」

ミーティング中の選手たち(写真はイメージ)

 梅雨の時期になれば、練習のバリエーションは限られてきます。夏大会までの限られた時間をどう有効に使うのか…指導者は頭を悩ませます。

 全国で野球指導者の方々に講座をしていますが、大会前の雨天時の時間の使い方を聞かれました。

 本番では大会日程の関係で無理をして雨の中も試合をすることがあるので、『雨の中で練習をする』というチームもあります。このとき、本番さながらの準備をしながらやるのは当然ですが、怪我のリスクもあるので毎回やるわけにはいけません。

 雨天室内練習場があればよいのですが、環境が整っているチームばかりではないので体育館練習や校内廊下を使って身体を動かすことが多いと思います。

 本番に繋がる時間を考えると、身体を動かすだけではありません。私たちサポートチームが学校に対して行っているのは、『もしもシリーズ』です。

 ミーティングで選手とディスカッションするのですが、試合をシミュレーションしたやり取りを行います。相手を設定し、場面状況を伝えて『そのときどうするのか』を擦り合わせます。

 一番のライバル(強者)と試合をして、初回無死一、二塁のチャンスを迎えたとします。3番打者(右打者と仮定)に『何を考え、どうする?』と聞きます。

 『バントします』

 これではお話になりません。バントをするにも、相手の何に警戒して、自分は何に意識を強く持つのか。そして、理想はどこにどんな打球のバントをするのか…です。

 相手目線で考えると、無死一、二塁のケースではバッテリーはできればバントを空振りさせて、捕手からセカンドに投げて走者の飛び出しを刺したいと考えます。

 1番打者が走者ですが、スタートが遅れるとサードフォースアウトもあるので早めのスタートを切りがちです。そこにバントをやりに行っての空振りは致命的な飛び出しとなります。

先を予測するためにはここまで深いシミュレーションが必要だ

 賢く冷静なバッテリー(投手は右を仮定)は、飛び出しを狙っての配球と捕手は送球アウトを狙っています。そういった相手の考えていることを踏まえながら、打者として何に気をつけるのか…。

『変化球の入りが予測されるのでストライクゾーンを少し上げて待ちます。ストレートであれば見送り、その右腕が変化でストライクが一番取れるスライダーを待ちます。バットが身体に近いとバントの打球にスピンがかかるので、無理にサード方向にはせずに一塁と投手の真ん中方向に打球の勢いを殺すことを第一に考えながらバントします』

 成功失敗は別として、具体的に頭の整理をして行えば余裕を持ちながら動けます。無死一、二塁は最高のチャンスですが、意外にバントをする打者はプレッシャーを感じます。打者だけではなく、二塁走者はもっとプレッシャーがかかります。

『もし、一塁手がチャージをかけてきたらどうする?』

『初球は一塁手と投手の真ん中を狙っているので、打球が芯を食えば3→5フォースアウトになるので、無理にしないで待球します』

『そうだな、相手は二回連続シフトを引くのはリスクがあるので、1ストライク後でも問題ないよな。待球のときに観察することは何?』

『はい、一塁手が本当に刺しに来ているチャージなのか、形だけのチャージなのかを観察します。また、どこまで詰めてきているかも確認します。詰めが甘ければ、次チャージしてきても打球を殺して一塁手の前にバントします。その一塁手が右投げ左投げを考えて、体勢が少しでも悪くなる場所にできればしたいです』

 ここまで明確に、こうなればこうと考えている打者は成功率が上がることでしょう。

 1球目にファール、もしくは待球したとして2球目はどうするのか。それがストライクなら、ボールなら、ストレートなら変化球なら…。たくさんのパターンに対して選手はどのように即座に頭の整理をしてもしもシリーズに答えるのか。

 こういったミーティングを私はサポートチームの選手たちとよくしますが、その場面がきたら慌てずに動ける選手になるためにはとても大事です。このレベルのシミュレーションをしているチームはほとんどありません。

 浅いところだけのシミュレーションをするチームはありますが、深掘りしてもしもシリーズができる指導者はほとんどいません。できないということは、そこまで考えていないのです。終わってから、『…だろ!?』といっても後の祭り。プロ野球の解説者が結果を見てコメントしているのと同じです。

 事が起きる前に、うまくいくためにはどういった準備をするべきなのか。未成熟な選手たちが行うアマチュア野球は、特に頭の整理は大切です。

 弱者とすると無死一、二塁でバントだけが選択肢なのか。それは違います。弱者だからこそ、大胆な奇襲策は必要で相手を見ながら色々と仕掛けたいものです。選手はバントと答えても、指導者からレアパターンのもしもシリーズを投げ掛けるべきです。

『おれは3番打者のおまえを信じて打たせようと思う。バントのサインを出さなかったらどうする?何を意識してどう動く?』

『・・・』

 これではいけません。実際に強攻策に出ても、選手が腰を引いていれば指導者が思い描く動きはしてくれないです。大抵の打者は、進塁打で一、二塁間にゴロを打つとかライト方向にフライを打ってタッチアップとか言うはずです。

『逆方向に打ちます』

 ある意味間違いではありませんが、短い文章では曖昧です。相手投手は強攻してきたらどんな配球が予測されて、それをどのようにスイングするのか具体性が欲しいです。

雨天時の時間の使い方(写真はイメージ)

 もう一度言いますが、できるできないではなく相手の出方を意識しながら頭の整理をしてプレーすることで、余裕をもって大胆に動くことができます。それが成果に繋がっていくのです。

『おれはお前に無死一、二塁を任せた時点で、ゴロでダブルプレーは仕方がないと割りきっている。だから、中途半端なスイング、迷っているようなスイング、ねばならぬスイングはしてほしくない。投手は逆方向に(進塁打)打たせたくないのでインコース寄りに突っ込んでくる可能性もある。よって、それを加味しながらも打つ方向は無視して投手との1対1の勝負を潔くしてほしい』

『・・・大胆に勝負していいのですね!』

 バントの選択になるかもしれないし、強攻策に出るかもしれない。どっちになるか試合の状況を考えながら指導者は選択するので決めつけられません。どちらでも動けるようにシミュレーションしておかなければいけないのです。

 こういったやり取りはシミュレーションでやっておかないと本番ではできません。逆方向という『ヒットであれば儲けもの』程度の気持ちで動けば当てただけになり失敗します。逆方向に当てただけをするなら最初からバントをします。

 指導者の様々な考え方を選手に伝えることで、動く選手の迷いや不安は軽減されていきます。選手としても『これ』と方向性が決まれば大胆に勇気を持って動いていけます。

 初回無死一、二塁だけではなく、それが最終回であればどうなのか…リードしているとき、ビハインドのとき…

 ディフェンスで逆に守っているときはどうするのか。シミュレーションを色濃くやっていくと、落ち着いてプレーができるチームになっていきます。

 雨の日の使い方…

 雨の日じゃなくても技術練習を横に置いてもするべきシミュレーション(もしもシリーズ)、夏大会までの時間の使い方を指導者も選手も考えましょう。

 指導者がこのような時間を設けなくても(大抵は考えている指導者が少ないのでやりません)、選手主導で選手だけでやっておけばいいのです。チームミーティングをしてくれない...ではなく、自分たちで作るのです。

 やるのはあくまでも選手!

 勝ちたい、少しでも有利に試合を進めたいと思っている選手はもしもシリーズをしてほしいと思います。

(文=遠藤友彦)

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