成章vs慶應義塾vs東京学館船橋
毎年、5月のこの時期の恒例となっている、愛知県の公立校の雄の一つと言われている成章の関東遠征だ。糟谷寛文前監督時代に、東京都の都立東大和と交流を持ったということが縁で始まった遠征である。前日は、都立府中工との試合をこなして府中市内に泊まり、この日に日吉の慶應義塾を訪れた。成章は、ヤクルトのエースともいえる存在になっている小川泰弘投手の出身校でもある。その、小川投手が3年となった春には21世紀枠代表の推薦を受けて甲子園出場。初戦で駒大岩見沢を倒すなど健闘した。
そんな伝統と実績のある成章だが、この春は東三河地区1次リーグで勝ちきれず、県大会にも進出することができなかった。それだけに、河合邦宗監督としても、この遠征を一つの機として、夏へ向けて立て直していきたいという思いである。
昨秋は、県大会にも出場し初戦突破、2回戦で享栄に敗れた。そして、その後に開催された全三河大会では豊橋中央などを下してベスト4に進出した。ただ、総じて打てなかったということがあったので、河合監督としては夏を意識していく上では、ある程度は打てないと勝ち上がれないという考えとなった。そこで、打てる選手を中心としてポジションなども含めて動かして挑んだ春は、守りで崩れていって、思わぬ一次リーグでの敗退となってしまった。
それだけに、もう一度きっちりと立て直していかないといけないという思いは強い。そのために、関東の強いチームにぶつかっていくことは非常に意味がある。また、投手陣にと沿っては、自分たちの投球が、慶應義塾の強力打線に対して、どこまで通用するのかということを試し、抑えられれば、それを自信としていきたいところでもある。
昨秋は神奈川県大会で優勝し、関東地区大会でもベスト8に進出した慶應義塾。森林貴彦監督としても、昨夏は決勝で横浜に敗れて、その悔しさをぶつけての秋でリベンジを果たした。この春は、星槎国際湘南の好投手本田君の前に屈したが「夏は負けませんよ。(星槎国際湘南とは)当たるとしても準々決勝以降でしか当たらないと思いますが、試合を重ねていった上で当たれば、打ち崩せるとは思います」と、春の負けからはすでに意識もチーム体制も切り替えていた。そんな慶應義塾の爆発力が成章の投手陣を襲った。
慶應義塾は、成章の小久保椋君に対して2回、下位の連打からチャンスを作り、押し出しと2番宮尾君の右線二塁打などで3点を先取する。3回にも四球と矢澤君、坂本君の連打で追加点。強力打線に対して、警戒が強くなりすぎて、ボールが先行していった。そんな小久保君の投球にしびれを切らせた河合監督は、この回で小久保君を下げた。そして、小久保君には、意識も含めて修正をして、この遠征の最後となる東京学館船橋との試合でも投げることを指示していた。
慶應義塾は、さすがに爆発力があった。2番手として投げた左腕大谷君には抑えられたが、7回から登板した松本君に対して、4番正木君が通算40本目となる本塁打を左翼へ放つ。「ここ(慶應日吉台グラウンド)は、ちょっと狭いですから…」と、森林監督は言うが、打球はライナーで左翼手の頭上を越えていく会心のものと言っていいくらいだった。
そして、8回には打者12人で8点が入ってしまったが、成章としては外野失策なども出て、やや集中も切れてしまっていたところもあった。
試合後、河合監督は、大敗したというスコアではなく、意識として消極的だったことを残念がった。「相手が強い、打球が鋭い、そういうモノを見て、負けないぞと向かって言ったヤツが、ここに何人おるんだ。勝負しに行ったヤツがおるのか。ここまで来て、気持ちで負けて帰っていって、どうするんだ」と、厳しく選手たちの姿勢に対して叱咤していた。
「今年の千葉県は、抜けたところがありませんから…。ウチは夏、ノーシードですけれども、ノーシードの爆弾を爆裂させられるようにしていきたいですよ」と、東京学館船橋の黒川敏行監督は言っていたが、選手一人ひとりの振りは鋭く強い打球を放っていた。
初回に高橋拓君の二塁打と4番小林君のタイムリー打で先制した東京学館船橋。4回には、成章の菊永君に襲い掛かり、下位の富田君、村上君らの二塁打などで、4点を奪った。
ここで、成章の河合監督は、第一試合では3イニングで下げた小久保君に、再チャレンジの場を与えた。小久保君は、5回1/3を投げることになったのだが、6回には八木君に二塁打を浴びて2点を失ったものの、攻めていく姿勢を示した投球はできたのではないだろうか。
今年の5月の連休は、好天が続いている。そんなこともあって、どこのチームも予定していた練習試合は、ほぼこなせているという状態となっている。これから夏へ向けての約2カ月、ここからの過ごし方が勝負となっていくのだ。
(取材・写真=手束 仁)
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