by Jonathan Rice

BBC野生動物ドキュメンタリーなどは、数々の工夫・長い撮影時間・撮影クルーの忍耐力によって生み出されています。しかし、「野生動物を撮影する」ということは、通常の映画撮影などのようにキャラクターやセットを作り出すことができないため、映像の編集作業によって物語を作り出す必要があります。自然や野生動物を追ったドキュメンタリーにはどのようにして「嘘」が混ぜ込まれているのか、映像作家のSimon Cadeさんがムービーで解説しています。

How Nature Documentaries Are Fake on Vimeo

ドキュメンタリーは実際に起こったことを記録し映像にしていますが、実はドキュメンタリームービーを見ていて聞こえる「音」の多くは後付けです。



これは、撮影時にカメラが被写体から離れていることが多く、録音作業が困難であるため。カメラはズームできますが、マイクはズームできないからです。



ドキュメンタリームービーに付される効果音は、多くがスタジオで録音されたものであり、「このドキュメンタリー映像はフェイクだ」として問題になることも。



以下は竹を振り回して「シュッ」という効果音を録音しているところ。





もちろん野生動物にマイクをつけたり、マイクを持った人が戦う熊の横に立てたら効果音は必要ないのですが、そういうわけにもいきません。効果音は視聴者の体験に非常に大きな役割を果たすため、自然をテーマにした多くのドキュメンタリーが後から効果音を付しているわけです。



効果音以外にも「フェイク」にあたる部分は存在します。例えば野生のカンガルーを追ったドキュメンタリー映像では、「これだ!」という瞬間が撮影できるまで、撮影クルーは長い時間待ち続けなければいけません。



そして、それまでの時間に、カンガルーの子どもがミルクを飲むためなどに母親の袋の中に潜り込んだとします。





また、静かに立っているカンガルーのクローズアップ映像も撮影。





そして、その後、ようやくカンガルー同士の戦いのシーンを撮影できたとします。



一連の流れが完成したムービーでは以下のようになります。1匹のカンガルーが静かに立って見つめる先には……



戦いを挑む別のカンガルーの姿。



ここに、別のタイミングで撮影されたクローズアップの映像が映し出されると、まるで西部劇のような意味深な映像になります。





さらに、袋の中に引っ込む赤ちゃんカンガルーの映像をくっつければ、まるで戦いを恐れて逃げ込んでいるかのような印象になります。



そして戦いが始まるわけです。



30分や1時間の映像を作るために、クリエイターらは数日から数週間かけて、視聴者の感情に訴える力を最大化すべく編集作業を行います。



この時、編集者らが作り出すのは、ピクサー映画のように「擬人化された」動物の姿です。



ただし上記のような作業は責められるべきものではありません。「物語を作ること」こそが視聴者を引き込み、時には「フェイクだ」と言われることがあっても、作られた映像から学べること は多いからです。



映像の作り手たちは、通常、撮影するものを「作り出す」ことが可能です。



しかし、それができないのがドキュメンタリームービーであり、映像を強調するには、別の工夫が必要になるわけです。



ドキュメンタリームービーではしばしば子鹿などに焦点が当てられます。これは、ふわふわしたかわいい動物たちは、それだけで視聴者の気を引けるため。



そこに現れたのは1匹のオオカミ。



オオカミは先ほどの子鹿を見つけます。



このオオカミは数日にわたって何も食べておらず、子鹿を食べられるかどうかが生死の分かれ目なのですが、ムービーの中では「悪役」なので、そのあたりの背景は描かれません。



映画の悪役がマスクをかぶっているように、悪役の「素顔」は必要ないのです。



オオカミが鹿の群れを追いかけ始め……





体力のない子鹿が群れから遅れ、オオカミにロックオンされます。



ここで視聴者が気になるのは「子鹿が生き残れるかどうか」でしょうか、「オオカミが餌にありつけるかどうか」でしょうか?



そして、もし子鹿とオオカミの追跡劇に、エンディングがなければ視聴者はどう思うでしょうか?



これが、ドキュメンタリームービーにおいて「物語作り」が大切な理由。「現実」を映したドキュメンタリーであっても、視聴者は「エンディング」を強く求めるのです。もし現実の映像に「物語」がなければ、作り出す必要があります。



映像を完全に現実に沿ったものにするなら、自然の様子をライブストリーミングする必要があります。ただし、カットも音楽もなく、ひたすらに「そこで何が起こったのか」ということが映しだされる映像は、多くの人が退屈するはず。



しかし、だからといってCGを用いるなどして映像を作りすぎると、今度は視聴者を誤解させる嘘の映像になってしまいます。



2009年には、望んだ映像を作り出すためにウサギの足を折って捕食者に追跡させたという事件が報告されました。



つまり、ドキュメンタリー映像を作るには、上記のような「正確性」と「エンターテイメント」という2つの要素のバランスを取ることが大切になってくるわけです。