柴田昌治 スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

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■「仕事は自分のため」という割り切り

かつて、日本の会社では「滅私奉公」が当然とされてきました。働き手の意識も就職というより就社だった気がします。私の大学時代の友人たちは、すでに定年を迎えていますが、その多くは、文字どおり会社ひと筋に生きて、仕事に打ち込んできた人ばかりです。そのうちの何人かは大企業の役員まで勤め上げました。

けれども、それだけでは「会社あっての自分」になりかねません。そこで出世することがアイデンティティになってしまう。もし会社に裏切られるようなことがあれば、たちまち自分の存在意義すら見失ってしまいかねません。やはり「仕事は自分のためなのだ」という割り切り方が必要になってきます。また、そのほうが実力も出せるのです。

以前、私が社内風土改革をサポートした段ボール機械製造機器メーカーのトップがそうでした。社長自身が、じっくりと物事を考えるタイプで、「働くのは、自分の家族のため、自分のため。そのためにこそ会社を良くしたい」と思ったそうです。そこで働く社員も「僕らは会社のために働いているわけではありません。自分のためです」と話していたのが印象的でした。

これまでの日本のビジネスマンは「キャリアは会社が作ってくれるもの」という意識が強く、人事異動の際にも「営業に行け」とか、「大阪支社を頼む」というように、会社が決めた通りに配属されていきます。もちろん、それが適材適所であるときは問題ないのですが、納得がいかないのであれば、ダメもとでも人事部に自分の希望を伝えてもいいと思います。

■「真のできる人」になるために

自分で選択するから、人間は成長する。これは私の揺るぎのない信念です。みずからの意思と責任で仕事を選ぶ機会がなければ受動的になってしまいます。自分で考え、自分で決め、自分を変えるチャンスがなければ、人はずっと昨日と同じ今日を生きていくだけです。それは社員にとっても、会社にとっても不幸なことではないでしょうか。

そもそも、働くとはどういうことなのかと考えると、第一には生活の糧を得るということがあるでしょう。しかし、それとは別に自己実現の場でもあるのです。ただし、それを実現するには自分1人だけではできません。「日々を充実させ、生きがいを感じたい」、あるいは「仕事と趣味を両立させたい」と思えば、一緒に働く仲間たちと協力して、みんなで一緒に幸せになるしかないのです。

その目的を常に念頭に置きながら仕事していくと、会社から与えられる業務をさばいているのとはモチベーションがまったく違うことに気づくと思います。こうして社員1人ひとりがイキイキと自発的に行動するようになれば、業務の効率や生産性も高まります。それは最終的にコスト削減や収益増となって経営の現場に還元されるのです。つまり「自分のため」は「会社のため」につながっていくということです。

だからこそ、やはり自分の幸せのために働いてほしいと思います。ただし、楽な道を選択するのではなく、少し困難でも、自分が成長できる道をめざすべきでしょう。何より大切なことは、自分自身としっかり向き合う姿勢を持つことです。自分の人生の主人公は自分自身にほかなりません。会社を良くするというよりも自分の人生、生き方、そして働き方を良くしていくのです。それが「真のできる人」です。

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柴田昌治(しばた・まさはる)
1986年、日本企業の風土・体質改革を支援するスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。著者に『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『成果を出す会社はどう考え動くのか』『日本起業の組織風土改革』など多数。近著に『「できる人」が会社を滅ぼす』がある。

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(スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表 柴田昌治 構成=岡村繁雄)