恒例マグロ対決を検証。テレ朝マグロとテレ東マグロ、今季はどっちが凄かったか

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毎年恒例の築地の初セリ、2017年も青森大間産本マグロが7420万円の最高値を記録した。
1月8日放送された「マグロに賭けた男たち2017」(テレビ朝日・18時57分〜20時54分)で、マグロ漁の本場・青森県大間を舞台に、マグロ漁師とマグロとの激闘を見た。
「巨大マグロ戦争2016」(テレビ東京・2016年12月30日 17時55分〜20時54分) と並ぶ、2大マグロ番組である。先に始めたのはテレ朝(2003年)だが、翌年から放送を始めたテレ東は毎年放送を続けている。(2011年のみ休止)

同じマグロを扱いながら、両者のアプローチはまるで違う。比較してみる。


主要キャラ


テレ朝マグロの主役は、「悲運の漁師」こと山本秀勝さん(63)(第七喜代丸)。

この道48年のベテラン漁師を番組は15年追いかけている。
2007年の190キロを筆頭にあげた2本以来、 ここ4年100キロを超える大物をあげていない。
そこにフォーカスされる。マグロ漁において、100キロを超えるか超えないかというのはひとつの目安のようだ。30年間乗り続ける決して立派とは言えない船を操る。

番組では、山本さんが、男手ひとつで、二人の息子を育て上げた過去を振り返る。
離婚後、家賃3000円の町営住宅に住む日々。子どもにカレーを作るさま、いまは亡き父がソナーを買う借金の保証人になってくれた思い出など、山本さん生きてきた漁だけでない懸命な生活を見せる。

一方、テレ東マグロの主役は、大間のナンバーワン漁師・第一八千代丸 熊谷義宜さん(53)(通称ヨシさん)

こちらも37年のベテラン。普通の太さの半分の釣り糸を操る名人。
大間では毎年、誰が一番マグロを獲ったかその水揚げ金額で表彰される。ヨシさんは2015・16年と、大間のマグロ一本釣り・一人乗り部門で一位。
時化てる時でも海にでる。
「今日漁に出なかったら、一生会えない魚が海で待ってるような気がするんだよ」
顔つきは実に力強く、見るからにできる男のそれだ。

不思議なのは、この二人、同じ大間で暮らし、漁をしているのだ。だが、番組を観ている限り、出会うことはない。

本当は交流があるのだろうか?
お互いオンエアを見ているのだろうか?
どう思っているのだろうか?

真実はわからない。いつか「アベンジャーズ」みたいに、局の垣根を越えて共演して欲しい! と思ってしまう。

解説・図説


ざっくりいうと、
比較的マニアックな解説が多いのがテレ東マグロ、
素人にもわかりやすいのがテレ朝マグロ。
という印象。

漁具


テレ東テレ朝とも、大事な「企業秘密」である仕掛けのアップやキモの部分はボカシが必ず入る。

基本的に、釣竿などは使わずに電動ローラーが糸を巻き上げる「まきあげ機」を使用するのが大間の一本釣りの主流。

テレ東マグロでは、さらにそれを進化させたコンピューター制御の新型まきあげ機を紹介。
大間の最先端漁師・第三十五大運丸・菊池武一(55)が発案し、製作所が最近開発したもので、大間ではほとんどの漁師が使っているものらしい。
マグロの急な引きでも糸が絡みにくく、今回は、番組でこれを見た沖縄久米島の漁師が、それを目当てに見学に来ていた。

それに対しテレ朝マグロでは、何度も山本さんの古いまきあげ機が絡んでしまう様子が…。しかもよく故障する。テレ東では
「大間でほとんどの漁師が使っている」
と言っていたのに、これは間違いなく旧式のものだ。機械が故障した際、ナレーションは
「思えば、昔はまきあげ機などなかった! 経験と体力だけでマグロと格闘してきた」
ここはまだヘミングウェイの世界だ。 山本さんを応援してしまう。

父から借金して11年前に買ったソナーについては
「高いソナーは映るけど、ワイのソナーは安くてよ(マグロに)追いつけない」
とぶっちゃけ、昔ながらの魚群探知機(ソナーとは別物)をメインに使う。
しかし、それも途中で調子が悪くなり、何度も叩いたら、ついにぶっ壊れて全く映らなくなってしまう。

番組後半、満身創痍でその日の大間の最大148キロをあげる。本当に「老人と海」のようだった。

スタッフとの絡み


テレ東では、漁師にスタッフが怒られる映像がしばしば見られる。
長崎壱岐の巨大マグロハンター中村がマグロを釣り上げた際、
「 あんたらは撮ってなんぼやろうけど、鮮度が大事といってるのに、揚がったけんって喜ばれんだろ?まずは売れて(身が)焼けてなかったら喜べるんだよ、だから(後処理の)途中で声をかけられるとイライラするだろう?そこをちゃんと(テレビで)流しときなさいよ」
と正論で叱る。ぐうの音もでない。しかしそれをちゃんと流す律儀なスタッフ。
他に漁具を「撮るな!」と怒鳴られる映像も。

対して、テレ朝。
100キロ超えの大物を釣ると、山本さんは、お祝いとして寿司を食べる。
わかっているだろうに、46キロのマグロを釣った日の食卓を見て
「今日お寿司はないんですか?」
と能天気に尋ねる。
「今日のは小さいんだって。 ああいうので余分な寿司なんか食ってらんねえべや」
と言いたくもないことまで言う山本さんが悲しい。スタッフやめてあげて。

次世代漁師を紹介


テレ東では、大間のマグロスナイパー・第三十八大運丸・菊池一夫(47)
連日100キロ超えをあげるもっとも勢いのある次世代代表。
「すごいと思っている。尊敬します」ナンバーワンの常連ヨシさんにここまで言わせる。「スナイパー」はナンバーワンのヨシさんの命名。

テレ朝は、山本さんの長男、剛史さん(31)を紹介。
はえ縄漁船(一本釣りと違い大人数で何本もの針のついた仕掛けをあげる船)でのマグロ漁師2年目の苦闘。
父が男手ひとつで育てた苦労が、子どもを持って船に乗るようになった今になってわかる。過去の映像をはさみ、親子の繋がりを丁寧に見せる。

他にもテレ朝には、大間最年少マグロ一本釣り漁師・泉健志(30)が登場した。
4年目の有望株。以前はカラオケで「ビッグバン」を歌いながら
「漁師で〜す」
と、前髪眺めのややチャラい様子だったが、結婚し、子どもが生まれたいま、いかにも漁師な短髪に。

テレ東は技を中心、テレ朝は人を中心に見せている印象がある。

その他のキャラ


テレ東はテレ朝より放送時間が長いぶんか、沖縄や長崎、青森の他の地域も取材。

大間の鉄人・第三十一漁福丸・ 山崎倉(66)
大間漁師の手本となる存在。

沖縄久米島の食わせの達人・喜久里健一(43)が、大間の菊池武一(大間最先端漁師・第三十五大運丸)を訪ねる。

長崎壱岐の南国の巨大マグロハンター・幸生丸・中村稔(48)
壱岐のリーダー的存在。たまたま大間で漁を見てから壱岐で漁師に。最初はまきあげ機でやっっていたが、今は竿を使う方法を確立。300キロオーバーを2回も釣っている南の名人。
青森深浦のはえ縄親子漁師
青森三厩44歳遅咲き漁師

テレ朝では
大阪から来た新人マグロ漁師・坂本政興(54)
大阪からきた異色の「新人」。10年前から集めてきた漁具を、先輩漁師にすべて使い物にならんと言われるところが悲しい。しかし、すぐさま大物103キロを釣りあげる。大器の予感。

基本的に、マニアックなプロ目線のテレ東。人情・家族路線のテレ朝


テレ東は日本全国のマグロ漁を網羅し出した。テレ朝は山本さんが、自身の進退を見据えたような発言もし始めたのが気にかかる。
昨年は餌となるイカの不良でマグロも不良だった。次は、どんなドラマを見せてくれるのか。
(アライユキコ)