今夜4話「ダウントン・アビー5」やましい男はなぜサプライズしたがるのか

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『ダウントン・アビー』第5シーズン第3話がNHK総合で放送されたのが昨年12月18日。
年末年始で3週間空いたので、今夜(1月8日)の第4話までにおさらいしておこう。


メアリとトニーのお泊まりがバレる


第3話は、メアリとギリンガム卿トニーのグランドホテル・リヴァプールでの朝チュンから始まる(チュンはないが)。
表向きは隣室だがなかで繋がっているという、エロいスイートルーム。彼らは1週間をともにすごしたのだ。

メアリは「スケッチ旅行に出た」と嘘をついて家を出てきた。危ない橋を渡ったものだ。帰宅後妹のイーディスに、描いた絵を見せてと言われている。前回侍女アンナに買わせた避妊具の残りはアンナに保管してもらう。アンナの夫ベイツに思いっきり怪しまれてるが……。

トニーは結婚する気満々だが、メアリは婚約発表を渋っている。まだ迷っているのだ。
彼女はその迷いを義弟トム・ブランソンには打ち明ける。しかしブランソンはブランソンで、渡米の希望と、村の教師バンティング先生とのつきあいにかんすることで悩んでいるのだった。

本ドラマ最大の主題は長女メアリの結婚問題と、領地の経営問題だが、後者については今回、領地の一部を宅地造成して家を50軒建てたがっている建築業者があると、ブランソンが報告に来た。
しかし伯爵ロバートは〈私の領地に50軒もの醜い家は建てさせん〉と言下に反対。

執事は見た!


メアリの亡父の母イザベルと美老人マートン卿の関係は、いまのところまだ進んでいない。イザベルは恋愛や結婚の対象として彼を見ていない。
メアリの祖母レイディ・ヴァイオレットはマートン卿を〈年老いたロミオ〉と呼んでいる。

ヴァイオレットの執事スプラットは、姪の結婚式でリヴァプールを訪れているという。
イザベル〈彼にも私生活があるなんて、なんだか意外ね〉
ヴァイオレット〈意外だし、ものすごく不便よ〉
イザベル〈しかたないわ、使用人だって人間だもの〉
ヴァイオレット〈人間に戻るのは休みの日だけでいいわ〉
ひどい……。

式から帰ってきたスプラットのようすがおかしいので、ヴァイオレットが問いただすと、ホテルから出てきたメアリとトニーを目撃したという。家政婦は、じゃなくて執事は見た!
ヴァイオレットは内心の動揺を隠して執事をうまくあしらい、ふたりが北部の土地所有者の非公式の会合に出たことにしてその場をごまかす。
彼女は日を改めてメアリを呼びつけ、問いただす。イーディスの婚外子のことを知っているので、まさか姉までそんなことになってはえらいことだと思っているのだ。
スプラットがお茶を運んできて、メアリに〈会合〉で〈有意義な〔原語では"interesting"〕お話が聞けましたか?〉と問うと、メアリは艶然と微笑み、〈知らなかったことを学べた〉と答えるのだった。ダブルミーニング! 「知る」「学ぶ」はあきらかに、相手と初めて性交渉を持つという……って書くだけ野暮ですかね。

イーディスとドリュー夫妻の軋轢


ドリューの妻マージーは、イーディスのマリゴールドへの執着が許せなくなってくる。彼女はマリゴールドを奪うのではないか。そして、夫とイーディスとの仲も疑っている。
妻に真相を隠しているドリューは板挟みになり、しばらく家に来ないでほしいとイーディスに告げる。
実の娘を堂々と育てられないイーディスも気の毒だが、血の繋がらないマリゴールドを実子と分け隔てなくかわいがって育ててるのに奪われそうになるなんて、マージーもほんとうにかわいそうだ。

バロウの謎の電話とバクスターの旧悪


副執事トーマス・バロウはカーソンに執事室の電話を借り、執務中のカーソンに出て行ってもらって、どこかに秘密の電話をかけている。〈もしもし。雑誌で「人生は選べる」というおたくの広告を見たんですが……〉

バロウはカーソンに父が病気だと説明する。バロウとの会話から、伯爵夫人の侍女バクスターがかつてバロウの親に世話になったらしいことがわかる。
バロウはいったいなにをしようとしているのか? そして彼にかかってくる電話の正体は?

そのバクスターは前回、旧悪を隠して屋敷に就職していたことが露見した。伯爵夫人コーラに、過去の過ちについて話すか、屋敷を出て行くかの2択を提示した。悩むバクスター。
下僕モウルズリーはバクスターに助言する。奥さまに話すならこちらも2択の条件を出すのだ、〈ここだけの話〉にしてほしい、それがかなわなければ自分から屋敷を出て行くと。励まされたバクスターは、コーラにすべてを話す。

以前の勤め先で、同じ屋敷に勤めていたピーター・コイルという下僕に騙されて盗みを働き、コイルに逃げられ、自分だけが服役した。自分だけが罪をかぶったのは、自分をしんそこ恥じたから、そしてもうあの男とかかわりたくないからだった。
コーラはバクスターの真剣さを信じ、解雇しないことに決めるのだった。

調理場にも希望があり、悲しみがある


料理助手デイジーはバンティング先生について代数を習っている。
カーソンは彼女の勉強にあまり賛成でない。いっぽう、試験を受けたいというデイジーの気持ちを家政婦長ヒューズは応援している。

料理長パットモアの妹の息子アーチーは大戦時に敵前逃亡の末命を落とした。敵前逃亡なので陸軍省は彼の地元の慰霊碑に名を刻む資格を認めない。
パットモア〈あの子の死にはなんの価値もないって言うのかい……〉

親戚のいるダウントンの慰霊碑に刻まれたと言えれば、妹の顔も立つのではないか、とパットモアは考え、ヒューズに相談する。慰霊碑建設委員長である執事カーソンに、頼んでほしいというのだ。ヒューズならカーソンを〈掌で転がしてる〉(笑)から可能だろう、と。

ヒューズはカーソンに打診し、最近ではシェルショック(戦争神経症と訳している。いまでいうPTSDの一種)への理解が進んできたと主張するが、カーソンはそんな〈卑怯もの〉の名を刻むことはできない、と反対する。
パットモアは落ち込んでロシア難民を招く会(後述)のお菓子でミスをしてしまう。

ベイツの殺人疑惑


ピカディリー・サーカスでのグリーン怪死事件を追うウィリス巡査部長によれば、現場でグリーンとすれ違った女性が、グリーンの〈なんでここに来たんだ?〉という言葉を聞いたとのこと。
そのつぎの瞬間グリーンは道に倒れていた。グリーンの最後の言葉は、いったいだれに向かって発せられたのか?

トニーの従者だったグリーンは生前、〈ダウントンでひどい目にあった〉と言っていたという。そこでダウントン滞在中になにかあったのではないかと、巡査部長は捜査に出たわけだ。
カーソンは勘違いだと思っているが、ヒューズは前シーズンでグリーンがアンナを暴行したことを知っているので、気が気ではない。

アンナは自分が襲われたことは夫ベイツに話したが、犯人については通りすがりの侵入者だと説明していた。しかしベイツはグリーンを疑っている。そしてグリーン変死の当日、ベイツは1日じゅう外出していた。
グリーンの暴行を知る3人(アンナ、ヒューズ、メアリ)もベイツを信じたいが、心配なことに、警察は彼を疑っているらしい。

巡査部長はベイツが当日のアリバイについて質問すると、ベイツはヨークに行っていたと証言する。戦友に手紙を出し、靴を見に行き、パブでサンドイッチを食べ、ホテルでコーヒーを飲み……。
すべて駅前だ。ロンドンに行って帰る時間は充分にある!

ブリッカー氏、伯爵夫人に急接近


伯爵夫人コーラはロンドンでドレスの試着のあと、美術史家ブリッカー氏とともに美術館でピエロ・デラ・フランチェスカ晩年の作「キリストの降誕」(1475)を見る。

ブリッカー氏によれば、ダウントンにある先祖由来の絵は「キリストの降誕」のなかの天使の習作だろうという。
しかしこのブリッカー氏が、よく言えば押しが強い、悪く言えばとにかくチャラい。前回に引き続きコーラに色目を使っている。

米国人であるコーラは、シンシナティのユダヤ系成金の家に育ったという出自、無理やり英国の社交界にデビューさせられたいきさつなどを、ブリッカー氏に語る。じつは米国でもさほど上流の出身ではないのだ。ここは『ダウントン・アビー』ファンとしても興味深いところ。

……て、待てよオイ!
さっき見てた「キリストの降誕」はキャロル・リード監督の『フォロー・ミー』にちらっと出てくる絵ですね(ということは、さっきの美術館はトラファルガー広場のナショナル・ギャラリー)。

『フォロー・ミー』は上流階級の男と恋愛結婚した米国出身女性(ミア・ファロー)とが、生活習慣の違いでうまくいかなくなる話だったじゃん! で、ロンドンの街を出歩く妻にほかの男がいるのではないかと夫が疑う話だったじゃん!


うますぎないか?『ダウントン・アビー』の脚本!

いっぽう伯爵は地元での会合が中止になったのでロンドンで1泊することに。予定変更で合流することは妻に伝えず、着いてから連絡することにした。ちょっとしたサプライズだ。

伯爵とコーラとのあいだに亀裂


コーラはロンドンでの滞在先であるロザムンドの家に帰ろうと電話するが、連絡がつかない。この不幸な行き違いからコーラは、伯爵が用意していたレストランでのサプライズディナーを、そうと知らぬまま潰してしまう。ブリッカー氏に誘われるままふたりでディナーまで行ってしまうのだ。

うわわー。伯爵、これは奥さん悪くないよ。
それに、ふだんパートナーをないがしろにしている疚しさを抱えた男って、こういうサプライズをしたがるところがあるからなー。
それで、それがうまくいかないとなるとそのぶんキレる。
「俺はこんなに頑張ってるのに!」とかそういう気でいるぶん、傷ついてしまうのよね。

コーラがブリッカー氏と食事していたと知って、
〈美術の専門家が素人のきみに絵画のことについて意見を求めたというのか? ああ、まったく信じられんね〉
と言ってしまうこれ、これがもう悪手のきわみ。ここで妻のプライドを傷つけてしまった。奥さんが(べつに謝る筋合いもないのに)謝ってくれてるんだから許してやれ!

ここまで言われるとコーラの返しも大人気なくなる。翌日のお茶会の準備中、伯爵の問にたいして〈私の意見なんてどうせ聞く価値はないでしょ〉との返事。このカップル、こじれてます。

伯爵は、妻コーラも内面のあるひとりの人間だということを忘れてしまっている。
戦争中(第2シーズン)、負傷者に献身していたころは、自分が人の役に立てている自信があった。いまは夫は、領地経営のことも自分ひとりで決めてしまい、なにも相談してくれない。
死を前にしたピエロ・デ・ラ・フランチェスカが「キリストの降誕」という傑作をものしたことを、羨ましく思う。
〈私の功績なんか一瞬で忘れられるわ〉

そこに美術史家が入りこむ隙があった。
どうせ自分なんか、と思えるときは、心が弱ってるんだよねー。

毎度お馴染みバンティング先生


ヨークの白系ロシア難民コミュニティの奉仕活動をやっているローズは、亡命貴族たちをブロンテ姉妹の家に案内したりしている。そして彼らをダウントンの邸宅に招くことになる。
イザベルによれば、エミリ・ブロンテが描く悲恋や荒れ野はトルストイやゴーゴリの作品につうじるものがある。
いっぽうロシア経験のあるヴァイオレットは〈不幸な知人とつきあうなんて耐えられない〉と斬って捨てる。

ここでローズがまたバンティング先生をお茶会に誘ってしまう。ローズお前ほんまええかげんにせえよ!
上流階級に入ってすっかり丸くなってしまったブランソンに代わって、社会主義者のバンティング先生が毎回お茶や晩餐に呼ばれては場を凍らせる。これが第5シーズンのお約束になってしまっているではないか。お笑いで言う「天丼」だ。
今回も先生はロシア皇帝を悪く言って客を怒らせてしまう。

19世紀のロマンスが再燃するか?


伯爵の両親(ヴァイオレットとその亡夫)は遠いむかし(1874年)、サンクトペテルブルグに行ったことがある。アレクサンドル2世の娘マリヤとアルフレッド王子(ヴィクトリア女王の次男。のちドイツのザクセン=コーブルク・ゴータ公)の結婚式に出たのだ。
そのときの記念品を見せると、バンティング先生に怒っていた客は感涙に咽ぶ。

ヴァイオレットが、冬宮での舞踏会でロシア貴族にもらった扇子を懐かしく見入っていると、そのクラーギン公爵が招待客のなかに! 革命で、公爵の妻の安否は不明だという。19世紀のロマンスが思わぬ形で再燃か?

メアリとイザベルはヴァイオレットの若妻時代の淡いロマンスを知って、彼女を嬉々としてやりこめる。
メアリ〈おばあさまには、私の迷いがだれよりもわかるはずよ〉
イザベルの〈あの崇拝者とはまたお会いになるのかしら?〉は、先述のロミオ発言へのしっぺ返し。いつも泰然自若としているヴァイオレットが珍しく動揺する。かわいらしい。

今週の名台詞


ヴァイオレット〈両家の子女が夫でもない男の人と関係を持つなんて、誘惑された以外ありえないのよ〉
メアリの婚前性交渉を戒めたこの台詞が、図らずも自身にも、そしてメアリの母コーラにもあやういところでカスってしまう今回第5シーズン第3話だった。

わずか50分に無数のプロットラインが詰め込まれた第3話は、第5シーズン中の傑作と言っていいのではないか。
(千野帽子)