炎上芸人?キンコン西野氏が語る未来の仕事。「肩書は、今すぐ捨てなさい」
今後は「職業」や「肩書」が消滅していく?キングコング西野氏に聞きます
お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏。バラエティ番組の「ひな壇」に出ることをやめる発言で物議を醸したことが、人々の記憶にも残っているだろう。世間でのイメージは、「炎上芸人」というものかもしれない。しかし、西野氏から紡ぎ出される言葉は、どれも本質を突いている。既存の常識とされていて行き詰っていたものが、思いもしなかった意外な視点から覆されていくのだ。
そして、「芸人」としては異例のビジネス書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』を2016年8月に発売し、すでに10万部を突破した。肩書にとらわれることなく次々と新しい仕事を創り出していく西野氏に、日本における「未来のシゴト」はどうなるのか聞いた。今回は、その前編。
「お給料=ストレスの対価」という考えを改めるべき
――『魔法のコンパス』では、「遊んでばかりじゃいけません」から、「仕事になるまで遊びなさい!」と親が子どもに言う時代が来ると指摘されています。このように考えるようになったきっかけは、どういったことだったのでしょうか。
まず、変えなければならないことがあると思っていまして。それは、「会社からもらうお給料=ストレスの対価」という考え方なんです。すべてかはわからないですけど、作業っぽい仕事、要は、面倒くさくてストレスがかかる仕事は、今後ロボットが順にやっていくと思います。たとえば、駅の改札も昔は人の手で切符を切っていたけれど、自動改札機ができて、人がいらなくなりましたよね。
人間に残されるものは、遊びっぽいものというか「とても仕事とは呼べない好きなこと」しかないと思うんです。一見、無駄に見えるようなものをお仕事化して、マネタイズする方法を探さないと、食いっぱぐれてしまう。
過去の常識を押しつけないことが大事
――過去の時代を生きてこられた方からは、仕事は辛いものという前提で、「社会人になったら甘くないんだ」とか、そういう発言をよく耳にしますが……。
お父さん世代に説明しても、もう何十年もそれでずっときたから、説得することは難しいですよね。お父さん世代はほどほどに無視して、次の世代の若い人たちに、過去の常識を、もう押しつけないことが大事だと思います。
辛い仕事はロボットに奪われちゃうから、辛い思いをしたくても、もうできなくなってしまうんですよね。「好きなことでしか生きていけない」時代が間違いなくやってきます。
――私たちが当たり前に使っているインターネットも、情報流通にかかるコストを取り払う、ロボットのようなものですよね。
そうですね。Facebookとか、SNSを使うようになってからやっぱり「この仕事はもうなくなるな」とか、「これ、いらんな」っていうものが結構出てきたんですよ。
たとえば、絵画を展示するギャラリーは、アーティストよりも宣伝力がない場合、もう終わると思います。ギャラリーが代わりに売ってくれる場所で、代わりに宣伝してくれる場所だったから、昔はブースターとして機能していたんです。だから、自分の売り上げの中から「いくらかはお渡しします」っていうことは、すごく辻褄が合っている感じがした。
でも、最近はホームページで、「キングコング西野が個展をする」っていう文章をギャラリーさんが上げても、誰も見ていない。そこで、ギャラリーさんから僕のところに連絡があって、「このホームページの記事をシェアしてください」と言われたんですよ。それで「あれ?おかしいぞ。なんか、僕がギャラリーの宣伝しちゃっている」と思って。
いや、それだったら、照明さえあればハコなんて別にどこでもいいですから。こっちのほうが宣伝力出ちゃったなと思ったら、相変わらず昔と同じルールで「絵の売り上げの何%をいただきます」っていうのは、もう通用しないですよね。芸能事務所も同じかもしれない。それもね、壊したのはSNSですよ。
遅かれ早かれ「職業」や「肩書」は、なくなる
――「影響力を持つ個人」の時代が来てしまった。
はい。個人がギャラリーを選ぶし、個人が事務所を選ぶ。だから、こんなことを言うとすごく角(かど)が立つし、また怒られるんですけど。もうギャラリーとか事務所が、「影響力を持つ個人」を干すことはできなくなった。逆に、個人の側が、事務所やギャラリーを干すことはできる。完全に逆転しちゃった。
で、当たり前ですけどお客さんも1回事務所やギャラリーを介すより、もう個人のファンなんだから、個人のメディアであるSNSのほうに行ったほうがいい。だから、間に入る人から通用しなくなって、いなくなっちゃうだろうな、と。まあ、すべてかどうかはわからないですけど、究極的な話、遅かれ早かれ、「職業」や「肩書」は、もうなくなる。
テレビの深夜番組のノリではあったんですけど、僕も「お笑い芸人」から「絵本作家」に肩書を変えて、さらには「パインアメの特命配布主任」と、肩書をコロコロ変えてみたんですけど、まず「肩書を越境してもいいよ」っていう空気感をつくっておかなきゃやばいと思ったんですよね。なぜなら、すべての職業には寿命があるし、ここからかなりのスピードでいろんな職業ごとなくなっていくから。
肩書にこだわることはやばい
――個人の名前でそのまま仕事ができる時代に、肩書で行動に制約をつけることは大きなリスクになりえる、と。
そう。だから、肩書にこだわることはやばいんです。「お前、何屋さんなの?」ってすぐ聞きたがる感じとか、自分は何屋さんか言えないとちょっと後ろめたい気持ちになっちゃう、あの感じを、もう手放さないとやばい。でも、怒られるんですよね、そういうことを言うと……。
「初志貫徹であることが美しい」という意識がある
――なぜ、怒られてしまうのでしょう。一個人が肩書を変えたとしても、誰にも迷惑はかからないはずですが。
怒る人には、イチロー選手みたいにひとつの職業で、「初志貫徹であることが美しい」という意識が根底にあるんでしょうね。肩書をコロコロ変えるやつは、本当にチャラチャラしていると、とらえられがち。
あと、極論ですけど、僕が好きなことをしているからだと思うんです。つまり好きなことをしていない人に対して、「好きなことをできない自分はいいのか?」って不安を与えちゃうから。自分が好きなことをしているっていうのは、好きなことをしていない人に対して攻撃しているのと同じなんでしょう。
やっぱり人間だから、攻撃されるとやり返したくもなる。そんなことをしても何の解決にもならないから、みんなで好きなことをしたほうがいいと思うんですけどね。
でも、好きなことをやる以上は、それに対して攻撃する人はいなくならないと思います。アンチはやっぱり上手に付き合っていかないと。僕はアンチ超好きなんで、いなくなっちゃったら、ちょっとやばい。
――「アンチが好き」って、すごい発想ですね。
だって、アンチがいたほうが、情報が拡散しやすいじゃないですか。たとえば、アイス・バケツ・チャレンジ〈注:筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究を支援するため、バケツに入った氷水を頭からかぶるか、米国ALS協会に寄付をする運動〉が、すごく盛り上がった時期がありましたよね。
「アイス・バケツ・チャレンジって、いい活動だね」って言う人もいたけど、一方で「病気のことを、あんなお祭り騒ぎにしていいのか?」とか、セレブ同士で回しているあの感じが鼻についた人とかが、「なんだよ」とか「よくないじゃないか」とか言って批判していた。でも、「それでもおカネが集まって人が助かるからいいじゃないか」とか議論をされている間、ずっとアイス・バケツ・チャレンジの宣伝になっていましたよね。
炎上は議論が生まれている状態だ
――実は、多くのニュースサイトも同じだと思います。誰が見ても「そうだな」と肯定されるものは、なかなか数字が取れない。肯定と否定が6:4ぐらいの割合で議論が起きているもののほうが読まれるように思います。
そうですよね。アイス・バケツ・チャレンジも、10人が10人、「いい」と言っていたら、もっともっと早くに失速していたし、助かる人はもっともっと少なかったと思います。そう考えるとやっぱりアンチはいいですよね。議論が生まれるって、ずっとゼロ円で宣伝してもらっているという状態ですから。
全員が黙る瞬間がいちばんやばい
――しかし、日本人の普通の人って、否定されることにものすごくネガティブですよね。若い人と話していると、炎上を恐れてTwitterに鍵をかけている人が多いんですよ。多数派はソーシャルに出ることを嫌がっていて、西野さんが考えている世界観と真逆の方向に行っている印象があります。
なるほど。僕も上の世代の人に、「なんで、そんな炎上させるの?」って言われるんですよ。炎上って要は、議論が生まれている状態じゃないですか。でも、その内容には触れずに、とにかく「炎上=悪」、つまり「議論を生むこと自体が悪」という前提で語られている。これはまずいですよね。議論も全部なくなっちゃって、何かやったらたたかれるからって、全員が黙る瞬間がいちばんやばい。
内容に触れて、「僕はこう思う」と言われるならわかるけど、「炎上さすな」って言われると、なんか戦時中みたいな感じがして。「もう黙れ」って、「もう国が決めたことには口を出すな」って言われた戦時中みたいな雰囲気がしていて、嫌なんですよ。
――確かに日本における働き方って、戦時中の影響をそのまま受けているような気がしますよね。国が会社に変わっただけで。
絶対にそうですよね! 学校もまだ軍隊教育の感じを引きずってますもん。僕、戦争嫌いなんですよ。人がいっぱい死んじゃうのも、もちろん嫌なんですけど。やっぱり戦争がいちばん面白くないなと思うのは、選択肢がなくなること。
「イラストレーターになりたい」と言う子がいたとしても、「今は戦時中やから、そんなことしている場合じゃない」みたいな。選択肢がなくなるって、すごく貧しい状況だなと思って。
――老人ホームでレクリエーションとかやるじゃないですか。で、「これをやります」って決められたグループと、「このプログラムの中から選んでください」っていうグループで、得られる幸福感がまったく違ったという実験があるという話を聞いたことがあります。人間の幸福の本質は、「選択の自由」に根ざしているようですね。
なるほど、なるほど。おもしろ! 僕も、自分に対して「そんなことするな」みたいなこと言ってきた先輩とかにすごい反発します。まあ、誰ってナインティナインの岡村さんなんですけど(笑)。岡村さん、大好きな先輩なので。
そういう人こそ「あれもありだよ、これもありだよ、それもありだよ、ドンと行け」みたいなことを言ってほしかった。なのに、率先してラジオとかで、「芸人なのにそんなことやっちゃダメだ」とか、後輩に対して選択肢を狭めるようなことを言う。「そんな……俺が大好きな岡村隆史がそんなことを言ってくれるなよ」って思って、僕としては寂しくなっちゃっていますね。
西野亮廣(にしの あきひろ)
1980年、兵庫県生まれ。
1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業「株式会社クラウドワークス」の“デタラメ顧問”に就任
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