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経営コンサルタントを本業としながらも、サッカー日本代表とコンサドーレの熱烈なサポーターとして各種メディアで積極的に情報発信を行っている村上アシシ氏。今回、J論ではアシシ氏独特のサポーター視点、経営コンサルタント視点で日本サッカー界を盛り上げる方法を探る対談企画をスタート。5回目の対談相手は写真家・ノンフィクションライターの宇都宮徹壱氏。常にサッカーメディア界の最前線で戦い続ける宇都宮氏が見据える未来について聞いた。


▼岡田監督には感謝してもしきれない


アシシ:宇都宮徹壱さんと言えば、世間一般的にはスポナビの日々是コラムを真っ先に思い浮かべる人が多いように思います。

宇都宮:ここ数年のウェブ記事を読んで私のことを知った人は、そうなるでしょうね。いちおう1997年からこの仕事をしているけど、その頃の仕事を知っている人は少ないんだなっていうのはちょっと感じています。

アシシ:今までのJ論企画では、経営者や現役サッカー選手、解説者と対談してきましたが、今回初めてライターの方にインタビューします。宇都宮さんにはフリーのライターとして、サッカーメディアのあれこれを聞ければと思っております。

宇都宮:よろしくお願いします。

アシシ:今や紙媒体は凋落の一途を辿っていて、ウェブ媒体はどんどん市場規模という観点でも紙を追い抜いていこうとしている状態です。宇都宮さんはどこかのタイミングでその波に乗っていこう、インターネットで勝負していこうと考えた時期があったんですか?

宇都宮:ネットライターっていう言葉をあえて使うけど、最初はネットライターって差別的な意味も含んでいたと思うんです。はばかりながら、ネットライターの地位を向上したいっていう密やかな使命感みたいなものはありました。2010年代になると、だいぶネットメディアが認められて、Jリーグでも取材できるようになったことも含めて、ずいぶん状況は変わってきた。ただ、その一方で私自身が紙メディアに対して、すごくアンチな姿勢だったかというとまったくそんなことはない。

アシシ:紙でも書いてますもんね。

宇都宮:書いていたし、書きたい。というのも、紙の連載を2年前までは持っていたんだけど、それが一気になくなったわけですよ。正直焦ったし、これはちょっと厳しいなというふうに思いました。

アシシ:時代の流れですよね。宇都宮さんが、いちライターとして食っていくためには、ネットで自分で道を切り開くっていう意味で今の個人メディア「宇都宮徹壱ウェブマガジン」もあると思います。その方向に舵を切ったのいつですか?

宇都宮:ウェブマガジンの前に「徹マガ」というメルマガをスタートしたのが、2010年の6月。有料サッカーメルマガでは早かった方だと思います。今年の6月で終わりましたけども、あれを始めていなければ書き手として行き詰っていたと思う。その意味で、発案者の人には今でも感謝しています。ただ、あれから紙媒体や専門誌をめぐる状況はさらに厳しくなって、「ネットメディア+個人メディア」というところで、なんとか活路を切り開いていかないと、ライターとして書く場はどんどん無くなっていくという危機感は、ここ5年ぐらいずっと感じています。

アシシ:2006年と2014年はワールドカップで日本代表がグループステージで負けてサッカー業界全体がガクっと傾きましたよね。中にいる人が一番わかっていると思うんですけど、その影響を感じますか?

宇都宮:2006年は、Jリーグのサポーターや日本サッカーをターゲットにした専門誌が2つ「サッカーJ+」と「J'sサッカー」があって、私も両方とも書かせていただいていたんですが、代表がコケて一気に休刊になりましたからね。あの当時、地域決勝とかJFLとかをちゃんと取り上げるようなメディアってほとんどなかったわけですよ。だからこそ、国内サッカーを深掘りする専門誌が出てきたときに、私は新しい時代の波を感じたものなんですけど、それが一気に休刊。仮に2010年のワールドカップで、もし日本がグループリーグで惨敗していたら、そうとうひどいことになっていたと思うんですよね。その意味では私自身、岡田さんには本当に感謝してもしきれないです。ただしそれから4年後の2014年、8年ぶりの大寒波が押し寄せて来たわけですが。

▼天変地異が起きても良いかもしれない


アシシ:その大寒波のせいで、この2年間で「週刊サッカーマガジン」が月刊化して「週刊サッカーダイジェスト」が隔週になり、「サッカーai」が休刊となりました。

宇都宮:じわじわと来ていますよね。今、サッカー週刊誌がひとつもないっていう状況がすべてを象徴しているわけです。「ダイジェスト」もしばらく週刊でがんばっていたけど、ライバル誌がなくなった痛手ってすごくあるって編集長の人も言っていました。張り合いがなくなるのと、「自分たちで日本のサッカー専門誌を支えないといけない」という妙な気負いというのかな。その前は、切磋琢磨していたわけですよ。「相手がこう来るから、うちはこうだ」みたいなこだわった知恵比べみたいなものがあって、それを読者も喜んでいた。それが自分たちだけになってしまうと、週刊誌を続けること自体が厳しくなっていくと思いますね。

アシシ:僕、そこらへんを大局的に記事にしてほしいと思ってます。きっと「宇都宮徹壱ウェブマガジン」でやったら面白いですよ。僕らみたいなコアなサポーターは結構興味あると思います。

宇都宮:検討してみましょう(苦笑)。

アシシ:先日、ロシアワールドカップ最終予選の初戦「日本代表vsUAE代表」で日本は負けたじゃないですか。ワールドカップのグループステージで負けても大寒波が来るこのご時世、万が一ワールドカップ出場を逃すようなことがあったら、寒波とか言っていられない、天変地異が起きる可能性があります。そういう危機感、宇都宮さんはお持ちですか?

宇都宮:当然あります。ただ、いちサッカーファンとして考えたときに、またワールドカップに出場して、またグループリーグ1分2敗ぐらいで終わって、また検証も反省もないままに次の監督が来て、また次の技術委員会の体制になって、ということを繰り返すのもどうかなっていう思いもあります。

アシシ:問題の先送りみたいなことですよね。一度大ナタが振るわれた方が全体としては良いんじゃないかと。

宇都宮:例えば地球の生命の歴史を考えた時に、「大量絶滅」っていうのが何度かあったわけじゃないですか。最後が白亜紀の末期で、隕石がドンと落ちて恐竜を含めて多くの生物が死滅したと。

アシシ:そこから新たな生命が生まれるみたいな。

宇都宮:あの時、隕石が地球に落下しなかったら、哺乳類の時代もなかったわけだし、当然人類も生まれなかったわけですよ。

アシシ:そうすると、僕ら死ななきゃいけないじゃないですか!(笑)

宇都宮:でも、例えばイングランドもフランスもオランダも、ワールドカップの欧州予選で敗戦して本大会に出られなかった時代があるわけですよ。でもそのことで、サッカーが見向きもされなくなるようなことはない。それは100年くらいの歴史の積み重ねがあり、ナショナルチームだけが彼らの関心事ではないからですよ。ちゃんと週末に楽しむサッカーが根付いているじゃないですか。

アシシ:たしかに欧州を旅すると、そういったサッカーが文化として根付いているシーンを何度も見かけます。

宇都宮:それに対して日本の場合、まだ根付いていないとも言えるし、でも20年前に比べたらかなり根付いているとも言える。ということを考えると、仮に日本がワールドカップに出られない事態になった場合、代表人気は思いっきり低迷するかもしれないけど、逆にJリーグを盛り上げていこうよっていう機運が高まるかもしれないし、そこから新しいカルチャーが生まれるかもしれない。もちろん、すごく痛みを伴いますよ。「ドーハの悲劇」なんかとは比較にならないくらいの激痛になるかもしれない。けれども、そこでサッカーやスポーツが終わるわけではない。そういうことも、どこか頭の片隅に入れておいた方がいいのかなと最近はよく考えますね。

アシシ:そういう覚悟も必要ということですね。

宇都宮:誤解してほしくないですが、もちろん私だって可能性が続く限り、日本代表にはロシアを目指すべきだし、最終的にはアジア予選を突破してほしいわけです。一方で、最悪、出られなかったとしても、すべてが終わるわけでもないのかなという気もしてます。アシシさんも応援に行っていた、なでしこの五輪予選、残念な結果になったじゃないですか。でも、あれから少し経ってなでしこリーグを見に行ったら、けっこうお客さんが入っていてびっくりしたんですよ。たまたま、浦和(レッズ)対長野(パルセイロ)の試合ってこともあったかもしれないけど、ちゃんと種が蒔かれて根を生やしているなというのは感じました。

アシシ:僕もここ5〜6年でJリーグを毎試合見るようになったんですけど、Jリーグも代表人気に左右されない原動力があると感じます。代表が負けようが、Jリーグはずっと続いていくわけですしね。

後編に続く

村上アシシ

1977 年札幌生まれ。職業は経営コンサルタント・著述家。外資系コンサルティング企業・アクセンチュアを2006年に退職し、個人コンサルタントとして独立して 以降、『半年仕事・半年旅人』のライフスタイルを継続中。南アW杯出場32カ国を歴訪した世界一蹴の旅を2010年に完遂。Jリーグでは北海道コンサドー レ札幌のサポーター兼個人スポンサー。

ウェブサイト:http://atsushi2010.com/
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近著:海外旅行のノウハウ本『ロジ旅』