「闘莉王頼み」は早くも限界。名古屋J1残留の秘策もすぐ研究された
「ガンバ大阪はノーチャンスだったが、3点を取った。ガンバは日本のベストチームのひとつ。我々はJリーグの底にいる」
名古屋グランパスのボスコ・ジュロヴスキー監督は1-3で負けた17日(土)のG大阪戦をそう振り返った。
名古屋は今シーズン、「改革元年」と銘打ち、ここ数年J1の中位にくすぶり続けている状況から真のビッグクラブへの道を歩もうとしていた。しかし、監督とGMの全権を、クラブOBではあるが経験が乏しい小倉隆史氏に託したことが不安視され、それはシーズンが始まると現実のものになった。1stステージは調子を落としながらも14位で持ちこたえたが、2ndステージは2戦前の新潟戦まで1勝もできず、年間順位でJ2降格圏にまで転げ落ちた。
8月に入ったところで、クラブはこの史上最大の危機にようやく対処。小倉氏を事実上の解任とし、アシスタントコーチとして招聘(しょうへい)していたストイコビッチ監督時代の名参謀、ジュロヴスキー氏を新監督に据えた。さらに、昨シーズン限りで退団していた田中マルクス闘莉王と電撃契約。2010年優勝時の立役者2人を呼び戻し、クラブは「改革」の看板を下ろした形となった。
闘莉王のホーム復帰戦となったG大阪戦は、「途中まではグッドゲームだった」とジュロヴスキー監督が語るように、序盤から名古屋ペースで進んだ。ブロックは堅く、守備の負担を減らすためにも重視するポゼッションサッカーでボールは繋がり、ステージ優勝を狙うG大阪の好きにはさせなかった。
得点もチームが意図していた攻撃の形からだった。アンカーからの縦パスを、ピッチをワイドに使ってサイドに流し、SBからのクロス。そのボールをFWシモビッチがゴール前で粘って同じくFWの永井謙祐につなぎ、ゴールを引き出した。
闘莉王も、復帰2戦目とは思えないパフォーマンスを見せた。プレースピード、コンディションもベストではないが、元日本代表DFの読みは健在。相手のミドルシュートのコースに素早く入ってブロックするなど、好調のG大阪攻撃陣を抑えていた。さらに、守備の細かな修正を周囲の選手に伝え、常に味方を鼓舞するチームの核となっていた。
それゆえ、名古屋にとっては「もったいない試合」(GK楢崎正剛)だった。3失点のうち2失点はいずれも自分たちのミスから。ともに自陣において、マイボールをトラップミスと判断ミスで相手に奪われてしまいゴールを決められた。今シーズンの課題である後半に動きの質は落ち、試合の主導権はG大阪に移っていった。
ジュロヴスキー監督が、この3週間あまりでシンプルに行なってきた攻守の再整備により、チームは長いトンネルの先に灯りが見えてきている。監督が日頃から口にする、「欠けている自信」も、「自信と経験を持ってプレーできる」(ジュロヴスキー監督)闘莉王の加入で、取り戻す速度を速めている。それは闘莉王自身もわかっており、暗ささえ感じたチームの雰囲気を変えるだけでなく、「もっとよくしないと次勝てないぞ!」「1本を大事にしろ!集中しろ!」と練習から手綱を締めている。
しかし、残留争いの渦中にいるチームは勝たなければ意味がない。「(新潟戦を勝ったことで)相手は前よりも気合いが入ってくる」と闘莉王が話すように、チームが変化し、結果を出し始めると相手の警戒度は間違いなく上がっていく。ここからの試合はさらに難しくなっていくだろう。
闘莉王がすでにチームの攻守の要、精神的支柱となっているのは明らかだが、8カ月以上実戦から遠ざかっていた彼の能力のみに依存するのは危うい。G大阪との試合も、名古屋は80分を過ぎてから闘莉王を前線に上げてパワープレーを仕掛けたが、「どこかで闘莉王を上げてくることはわかっていたので準備してあった」と話すG大阪の長谷川健太監督は、すぐにDFを最終ラインに入れて5バックにし、余裕をもって対応した。
この試合、G大阪の大黒柱である遠藤保仁は、負傷により前半のうちにベンチに退いている。それでもG大阪は動揺することもなく、プレーの質を後半にかけて上げていき、追加点を取ってからは面白いようにボールを回してゲームを終わらせた。そこが、名古屋とG大阪の差だった。
闘莉王が封じ込められた場合にチームはどうするのか。攻撃はともかく、守備については心許ない。選手を入れ替えるのか、システムを変えるのか。課題である試合後半の対応力については、若くおとなしい選手たちが精神的にも闘莉王に頼るのでなく、彼と同等の自信を持つことも求められる。
今後、対戦チームは必ず闘莉王対策を練ってくるだろう。それに対して、チームとしてどういったプレーができるのか。名古屋のJ1残留は、チームがどれだけ「闘莉王頼み」から脱却できるかにかかっている。
小崎仁久●文 text by Kosaki Yoshihisa