僧侶をしながら鳥栖を応援し続ける菅原さん。ある独自の活動を続けている。写真:宇都宮徹壱

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菅原賢史(サガン鳥栖サポーター)
 
 本業はお寺の僧侶です。宗派は浄土真宗で、僧侶でも肉食妻帯が許されています。山にこもって修行するのではなく、俗世間で教えを説くというのが(宗祖の)親鸞上人の教えなんです。
 
 私もよくサポ仲間から“なまぐさ”と言われるんですが(笑)、誘惑の多い俗世間において自分の姿勢や言動というものに説得力がないと僧侶として生きてはいけません。その意味で、人間性が問われる宗派だと思っています。
 
 試合がある土日は、やっぱり法事が多いですね。できるだけ試合時間に被らないように調整はしていますが(笑)、余裕をもってスタンドに行くというのはあまりないです。ですので、事前に指定席を購入して、ぎりぎりでも入場できるようにしています。
 
 その一方で「僧侶だからできるサポート活動」ということを自分なりに考えていたんです。そこで導き出されたのが、「鳥栖に来たアウェーのサポーターに宿を提供すること」でした。
 
 きっかけは5年前の11月、ホームで柏戦があったんです。たまたま早朝にスタジアムの前を歩いていたら、柏のサポーターが席取りのために野宿していたんですよね。せっかく鳥栖まで来てくれたのに、こんな寒いところで前日から野宿していることを知って、ものすごくショックを受けたんですよ。「せめて、温かい場所で寝泊まりさせてあげられないだろうか」──そう家族と相談し、次のシーズンからアウェーのサポーターに無償で宿を提供する活動を始めました。
 
 仏教には「無財の七施(むざいのしちせ)」という教えがあります。そのひとつが、宿がない人に自分の家を提供する「房舎施(ぼうじゃせ)」という施しなんです。
 
 つまり、僕の活動は仏の教えに則ったものであり、同時にサポーターとしての活動でもあるんですね。遠くから鳥栖に来ていただいたんだから、福岡でなくこっちに泊まってほしいし、浮いたお金で美味しいものも食べてほしい。まあ、寝るのは雑魚寝ですが布団もありますし、お風呂はひとつしかないので男女のお客さんがいる時は譲り合っていただきます。母親が朝ごはんを作ってくれることもありますよ(笑)。今では口コミで広がって、けっこうリピーターも増えましたね。
 
 アウェーサポとの交流が広がったことで、うれしいリアクションもありましたね。ウチが天皇杯でベスト4に進出した年(13年)、準々決勝がホームの川崎戦で、試合はウチが勝ったんですね。その時に泊まっていただいた川崎サポの方が、日産での準決勝に駆けつけてくれたんですよ。「鳥栖でお世話になったから」と大量の川崎バナナを配ってくれて、試合中も一緒になって鳥栖の応援をしてくれたのには感動しました。まあ、相手が横浜ということもあったんでしょうけど(笑)。
 
 今季の鳥栖は監督も代わり、正直なところ苦しい試合が続いています。それでも、どんな相手にも走り負けないで最後まで走り切ること。そして結果はどうあれ、90分終わったらやりきって倒れこむ。それが鳥栖のスタイルだと思っています。
 
 決して派手ではないというのは、鳥栖の街についても言えることですね。それでも、この街を訪れた人には「また来たい」と思ってもらいたい。私たちの活動が、そのきっかけになればと思っています。
 
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■座右の銘:仕事じゃないんだ、真面目にやれ!
■歴代で最も尊敬する監督:松本育夫。鳥栖の苦しい時代に今にも受け継がれる精神を選手やクラブやスタッフ、そしてサポーターに植え付けていただきました。
■歴代で最も愛した選手:高嵜理貴。創世記の苦しい時代からチームを支えてくれました。コーチとして戻ってきてくれたのも嬉しいです。
■最も記憶に残る試合:2011年11月27日 リーグ第37節 対徳島戦@鳴門
■理由:J1昇格のかかるラスト2試合で迎えた2位、3位の直接対決。勝てばほぼ昇格の決まる試合でアウェーの地をサガン・ブルーで染めました。サポーターの後押しもあって選手たちは奮起し、3-0で勝利。どこか遠い夢のようなJ1の舞台を目の前にして、自然と涙が溢れてきたのを昨日のことように思い出します。