青山直晃が語るタイサッカーの意外な実力。驚愕のタイ代表チームメイトに「あんな選手見たことない!」
9月に控えたロシア・ワールドカップのアジア最終予選で、日本はタイ王国代表チームと同組に入った。抽選会ではポッド6に振り分けられ、実力下位に見られがちなタイだが、同国に渡って2年目を迎える青山直晃は、日本戦ではある選手のプレーに注目するという。
前編(青山直晃はなぜタイへ渡ったのか?)に続き、現在タイ・プレミアリーグのムアントン・ユナイテッドに所属する青山直晃が、知られざるタイサッカーの実力のほか、「日本よりもストレスを感じない」というタイでの生活ぶりも交え、タイの魅力について語る。
取材・文: 佐々木裕介 写真: 高田胤臣
――◆――◆――
――タイでプレーされてみて衝撃を受けた選手はいますか?
「チームメイトのムイ(ティーラシン・デーンダー/タイ王国代表のスーパースター)はとにかく凄い選手ですよ。あんな選手は今まで見たことがないですし、パーフェクトに近い選手です。どうやってタイであんな選手が生まれたのか不思議に思います。
高さがあってスピードもある、ドリブルもパスも凄く巧いんですよ。練習でも毎日マッチアップするんですが、上手な選手にはチャレンジ精神が働いてしまう自分がいて、気合いを入れてやるんですが、ひとつふたつ上を行かれている感じがあるんですよね。
こちらが120パーセントで行っても彼はかなり余裕がある感じでやっています。点も取れるし、得点につながる決定的なパスを送ることもできるスーパーな選手です」
――9月にはロシア・ワールドカップのアジア最終予選が始まります。日本はタイと同じグループに入りました。両国のトップクラブでプレーした経験を持つ青山選手はどのような展望をお持ちでしょうか?
「簡単に言えば『日本の組織vsムイ』ですよね。日本代表はみんなで守ってドリブルやパスをするスペースを与えない組織力が武器だと思うんですが、そこをムイなら打破できるのではないかと思っているんです。
チームメイトには若い年代も含め、数多くのタイ代表選手がいて彼らも能力は高いんですが、ひとりで日本の組織をこじ開けるのは簡単じゃない、でもムイなら何か起こすんじゃないのかなと思っています。日本は彼に注意した方が良いですよ」
――日本では、今年1月のリオ五輪最終予選に出場していたメッシ・ジェイ(チャナティプ・ソングラシン選手/ムアントン・U)だったり、ACLでの活躍が知られているティーラトン(ティーラトン・ブンマタン選手/ムアントン・U)を知っている日本人ファンは多いと思うんですが、彼らに比べればムイ選手はあまり知られていない存在です。
「メッシにしてもティーラトンにしても、毎日一緒に練習しているので彼らの凄さも知っています。でもムイはスーパーです! 本当に凄い選手ですよ! まずは9月6日にタイで行なわれる試合を楽しみにしています!」
――9月の試合はスタジアムへ行かれるご予定ですか?
「すごく行きたいんですよね〜。チケット入手が難しい試合になるとは聞いているのですが、なんとかして行きたいなとは思っています」
――いまの日本代表チームに対しては、どのように感じていらっしゃいますか?
「ヨーロッパの強豪クラブでプレーする選手が多いですし、タイでもすごく注目されています。それに今の日本代表の中心選手は私と同世代が多いんです。自分がそこに入れていない悔しい気持ちはありますが、彼らがブラジル・ワールドカップでの悔しい経験を踏まえて、どういうサッカーで最終予選を戦い勝ち抜くのかは非常に楽しみにしています」
――少しプライベートへ方向性を変えましょう。家族構成をお聞かせいただけますでしょうか?
「妻と6歳の娘がいます。タイへの移籍を決断した理由のひとつに娘の教育の問題もあったんです。今はインターナショナルへ通わせているのですが、ノビノビと学んでくれていて逞しく感じています」
――タイでの生活はいかがですか?
「本当に家族みんなで楽しく過ごせています。住まいがバンコクの中心地から少し離れているのんびりとした場所なので、逆にそのゆっくりとした空気感が私たちには合っているかも知れませんね。自宅近くのスーパーでも日本の食材やお菓子なんかが普通に手に入りますし、日本食レストランや居酒屋も数多くあるので生活するのにまったく困りません。良いところですよ、タイは(笑)」
――タイでの一日の生活サイクルをお聞かせいただけませんか?
「6時30分に起床して、朝食を食べてから娘を学校へ送り出します。その後は自宅で日本のテレビを観たりしてリラックスして過ごしていることが多いです。練習は16時から18時の時間帯に行なわれることが多いですね。
帰宅後に家族とゆっくり夕食を楽しんで過ごしています。最近、娘の英語力がグッと上がってきて、家で『日本語を使っちゃいけないゲームしよう!』とか言うんですよ。そのゲームが結構な頻度であるので、私の英語レッスンになっています(笑)。 休日は家族でバンコクへ遊びに行くことが多いですね。バンコクには何でもありますから」
――慣れない環境でのリラックス方法はどうされていますか?
「家族と一緒にいるのが一番ですよ。タイの空気がそうさせるのかも知れないですが、日本にいた時よりもストレスを感じることが本当に少ないんです。日本だと周りの目を気にするあまり、好きなことができなかったりしてストレスを溜めることが多かったのですが、ここではそういったことはないですね。まあ言葉が分からないので周りが何を言ってるかも分からないですし(笑)」
――このインタビューを読んだ日本人にはタイが「楽園」に感じるでしょうね。では最後に今後海外へ飛び出したいと思っている後輩へ向けて、一言アドバイスをいただければ嬉しいのですが。
「正解が何かは分かりませんが、それを見付けるのは自分自身だと思うんです。野心とチャンスがあるのであれば、日本以外の環境へチャレンジして肌で空気を感じてほしいと思います。必ず自分のためになりますから」
――ありがとうございました。今シーズンはリーグタイトルを奪還して、そのドリームチームで是非ACLで戦っている姿をファンに向けて「魅せて」いただきたく思います。
「そうなんですよね。タイに来た理由のひとつに、Jリーグのチームと試合をして負かしてみたいというものもあったんです。まずはリーグ優勝ができるよう残りのシーズンを頑張って、クラブから来シーズンも契約してもらえるように頑張ります!」
――◆――◆――
インタビューの中で彼の口から幾度となく「チャレンジ」という言葉を聞けたことが印象的で、また妙に嬉しく思えた。
イタリアはミラノにあるビッグクラブで奮闘する日本人選手が、燻ぶっている後輩へ向けて『リュックサックを持って海外へ行け!』と言い放ったという。「日本にいると分からないことがあるから『出ろ』と言っているんですよ」と、なんの保証もない状況で海外へ飛び出した自らの経験を踏まえ、恵まれた日本の環境を捨てての武者修行がいかに大事かと言いたかったのだろう。大いに私も賛成である。
環境が変わればサッカーも変わる。今まで持ち合わせた自らのスケールが、果たしてどの程度のものなのかを知ることもできる。それは決してアスリートの世界だけのことではないだろう。悲しいかな、日本はもうアジアのフットボールシーンのポールポジションには居ないことを認めざるを得ない。だからこそ我々はもっと謙虚で敏感にアジアから学ぶべきなのだ。そして声を大にして言いたい、『若人よ、世界へ飛び出せ!迷わず行けよ、行けばわかるさ』と。
<プロフィール>
青山 直晃 (あおやま・なおあき)/1986年7月18日生まれ、愛知県一宮市出身。高校サッカーの名門、前橋育英高卒業後の2005年に清水エスパルスに入団。11年からは横浜F・マリノスで、13年にはヴァンフォーレ甲府へ移籍。15年にタイの強豪クラブであるムアントン・ユナイテッドへ移籍、不動のセンターバックとして奮闘している。代表経歴は、07年のアジアカップ予選日本代表、08年北京五輪アジア予選U-22日本代表。
前編(青山直晃はなぜタイへ渡ったのか?)に続き、現在タイ・プレミアリーグのムアントン・ユナイテッドに所属する青山直晃が、知られざるタイサッカーの実力のほか、「日本よりもストレスを感じない」というタイでの生活ぶりも交え、タイの魅力について語る。
取材・文: 佐々木裕介 写真: 高田胤臣
――◆――◆――
――タイでプレーされてみて衝撃を受けた選手はいますか?
「チームメイトのムイ(ティーラシン・デーンダー/タイ王国代表のスーパースター)はとにかく凄い選手ですよ。あんな選手は今まで見たことがないですし、パーフェクトに近い選手です。どうやってタイであんな選手が生まれたのか不思議に思います。
高さがあってスピードもある、ドリブルもパスも凄く巧いんですよ。練習でも毎日マッチアップするんですが、上手な選手にはチャレンジ精神が働いてしまう自分がいて、気合いを入れてやるんですが、ひとつふたつ上を行かれている感じがあるんですよね。
こちらが120パーセントで行っても彼はかなり余裕がある感じでやっています。点も取れるし、得点につながる決定的なパスを送ることもできるスーパーな選手です」
――9月にはロシア・ワールドカップのアジア最終予選が始まります。日本はタイと同じグループに入りました。両国のトップクラブでプレーした経験を持つ青山選手はどのような展望をお持ちでしょうか?
「簡単に言えば『日本の組織vsムイ』ですよね。日本代表はみんなで守ってドリブルやパスをするスペースを与えない組織力が武器だと思うんですが、そこをムイなら打破できるのではないかと思っているんです。
チームメイトには若い年代も含め、数多くのタイ代表選手がいて彼らも能力は高いんですが、ひとりで日本の組織をこじ開けるのは簡単じゃない、でもムイなら何か起こすんじゃないのかなと思っています。日本は彼に注意した方が良いですよ」
――日本では、今年1月のリオ五輪最終予選に出場していたメッシ・ジェイ(チャナティプ・ソングラシン選手/ムアントン・U)だったり、ACLでの活躍が知られているティーラトン(ティーラトン・ブンマタン選手/ムアントン・U)を知っている日本人ファンは多いと思うんですが、彼らに比べればムイ選手はあまり知られていない存在です。
「メッシにしてもティーラトンにしても、毎日一緒に練習しているので彼らの凄さも知っています。でもムイはスーパーです! 本当に凄い選手ですよ! まずは9月6日にタイで行なわれる試合を楽しみにしています!」
――9月の試合はスタジアムへ行かれるご予定ですか?
「すごく行きたいんですよね〜。チケット入手が難しい試合になるとは聞いているのですが、なんとかして行きたいなとは思っています」
――いまの日本代表チームに対しては、どのように感じていらっしゃいますか?
「ヨーロッパの強豪クラブでプレーする選手が多いですし、タイでもすごく注目されています。それに今の日本代表の中心選手は私と同世代が多いんです。自分がそこに入れていない悔しい気持ちはありますが、彼らがブラジル・ワールドカップでの悔しい経験を踏まえて、どういうサッカーで最終予選を戦い勝ち抜くのかは非常に楽しみにしています」
――少しプライベートへ方向性を変えましょう。家族構成をお聞かせいただけますでしょうか?
「妻と6歳の娘がいます。タイへの移籍を決断した理由のひとつに娘の教育の問題もあったんです。今はインターナショナルへ通わせているのですが、ノビノビと学んでくれていて逞しく感じています」
――タイでの生活はいかがですか?
「本当に家族みんなで楽しく過ごせています。住まいがバンコクの中心地から少し離れているのんびりとした場所なので、逆にそのゆっくりとした空気感が私たちには合っているかも知れませんね。自宅近くのスーパーでも日本の食材やお菓子なんかが普通に手に入りますし、日本食レストランや居酒屋も数多くあるので生活するのにまったく困りません。良いところですよ、タイは(笑)」
――タイでの一日の生活サイクルをお聞かせいただけませんか?
「6時30分に起床して、朝食を食べてから娘を学校へ送り出します。その後は自宅で日本のテレビを観たりしてリラックスして過ごしていることが多いです。練習は16時から18時の時間帯に行なわれることが多いですね。
帰宅後に家族とゆっくり夕食を楽しんで過ごしています。最近、娘の英語力がグッと上がってきて、家で『日本語を使っちゃいけないゲームしよう!』とか言うんですよ。そのゲームが結構な頻度であるので、私の英語レッスンになっています(笑)。 休日は家族でバンコクへ遊びに行くことが多いですね。バンコクには何でもありますから」
――慣れない環境でのリラックス方法はどうされていますか?
「家族と一緒にいるのが一番ですよ。タイの空気がそうさせるのかも知れないですが、日本にいた時よりもストレスを感じることが本当に少ないんです。日本だと周りの目を気にするあまり、好きなことができなかったりしてストレスを溜めることが多かったのですが、ここではそういったことはないですね。まあ言葉が分からないので周りが何を言ってるかも分からないですし(笑)」
――このインタビューを読んだ日本人にはタイが「楽園」に感じるでしょうね。では最後に今後海外へ飛び出したいと思っている後輩へ向けて、一言アドバイスをいただければ嬉しいのですが。
「正解が何かは分かりませんが、それを見付けるのは自分自身だと思うんです。野心とチャンスがあるのであれば、日本以外の環境へチャレンジして肌で空気を感じてほしいと思います。必ず自分のためになりますから」
――ありがとうございました。今シーズンはリーグタイトルを奪還して、そのドリームチームで是非ACLで戦っている姿をファンに向けて「魅せて」いただきたく思います。
「そうなんですよね。タイに来た理由のひとつに、Jリーグのチームと試合をして負かしてみたいというものもあったんです。まずはリーグ優勝ができるよう残りのシーズンを頑張って、クラブから来シーズンも契約してもらえるように頑張ります!」
――◆――◆――
インタビューの中で彼の口から幾度となく「チャレンジ」という言葉を聞けたことが印象的で、また妙に嬉しく思えた。
イタリアはミラノにあるビッグクラブで奮闘する日本人選手が、燻ぶっている後輩へ向けて『リュックサックを持って海外へ行け!』と言い放ったという。「日本にいると分からないことがあるから『出ろ』と言っているんですよ」と、なんの保証もない状況で海外へ飛び出した自らの経験を踏まえ、恵まれた日本の環境を捨てての武者修行がいかに大事かと言いたかったのだろう。大いに私も賛成である。
環境が変わればサッカーも変わる。今まで持ち合わせた自らのスケールが、果たしてどの程度のものなのかを知ることもできる。それは決してアスリートの世界だけのことではないだろう。悲しいかな、日本はもうアジアのフットボールシーンのポールポジションには居ないことを認めざるを得ない。だからこそ我々はもっと謙虚で敏感にアジアから学ぶべきなのだ。そして声を大にして言いたい、『若人よ、世界へ飛び出せ!迷わず行けよ、行けばわかるさ』と。
<プロフィール>
青山 直晃 (あおやま・なおあき)/1986年7月18日生まれ、愛知県一宮市出身。高校サッカーの名門、前橋育英高卒業後の2005年に清水エスパルスに入団。11年からは横浜F・マリノスで、13年にはヴァンフォーレ甲府へ移籍。15年にタイの強豪クラブであるムアントン・ユナイテッドへ移籍、不動のセンターバックとして奮闘している。代表経歴は、07年のアジアカップ予選日本代表、08年北京五輪アジア予選U-22日本代表。