北海道大樹町を拠点とする民間宇宙開発企業「インターステラテクノロジズ株式会社」(IST、代表取締役 稲川貴大氏)は、同社初の商業ロケット「モモ」の仕様を記載した利用者向け資料、ユーザーズガイドを発表した。
同社は2005年から独自の液体推進ロケット技術開発を進め(会社設立は2013年)、これまでにも開発中のロケットを利用した商業イベントなどを行ってきたが、ようやく実用を目的とした最初のロケットを発表した格好だ。


大気圏外実験を提供するサウンディングロケット



商業打ち上げロケットは一般に、このようなユーザーズガイドを用意している。ロケットはユーザーの衛星や実験装置を搭載する輸送機械であって、ユーザーがロケットを選択したり搭載機器を設計するための基本情報が必要だからだ。


ISTが公表したのは初のサウンディングロケット「モモ」のユーザーズガイド。サウンディングロケットとは一般に「観測ロケット」や「弾道ロケット」などとも呼ばれ、地球を回る人工衛星を打ち上げるのではなく、大気圏外まで飛び出してから落下するタイプのロケットだ。


サウンディングロケットの主な用途は2つある。ひとつは、航空機や気球では上昇できないほど高空の大気を観測することで、これは気象庁などによって定期的に行われている。もうひとつは無重力状態での実験で、時間は数分間程度だが、宇宙ステーションを利用するよりずっと簡便に低コストで実施できる。


これまで日本では、この種のロケットは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究所(ISAS)が打ち上げてきた。ISASのロケットは固体燃料で、IHIエアロスペースが製造している。これらの既存ロケットは数千万円から数億円の費用が掛かるとされているが、ISTでは現在のところ定価を公表しておらず、今後の受注状況によって価格が決まっていくことになるだろう。既存ロケットより低価格で提供されれば、これまでJAXAに実験を依頼してきた機関や大学などのほか、JAXA自身もISTの「モモ」を利用するかもしれない。


全長8.5m、北海道大樹町から打ち上げ



「モモ」は全長8.5m、直径50cm、打ち上げ時の総重量900kg。推進剤を含まない重量は250kgで、推進剤タンクは全長の1/3程度と、宇宙ロケットに比べると推進剤の割合がかなり小さい。これは衛星軌道に到達しないサウンディングロケットでは必要なエネルギーが1桁程度少なく済むからだ。また液体ロケットはバルブなど機械部分が多く、ロケット全体を小型にしても機械部分を小さくするのは困難という理由もあると思われる。いずれにせよ、将来の衛星打ち上げを目指すISTにとって、まず小型だが衛星軌道には達しないサウンディングロケットから実用化し、商業的に成立させるというのは理に適っている。


打ち上げは、北海道の大樹町に建設されたISTの実験場から行われる。大樹町には多目的航空公園と呼ばれる実験区域があり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの実験施設も設置されているが、ISTもその一角に実験場を構えた格好だ。またISTの本社工場も大樹町内にあり、ロケットや設備の製作だけでなくユーザーの支援としても、機械加工や電気電子工作が行えるとしている。


大樹町は長年、航空宇宙産業の誘致を行ってきているが、ISTのサウンディングロケット打ち上げが商業的に成功すればようやく、その悲願の第一歩を踏み出すことになる。このため特に北海道内では、地場産業という面からも、ISTのロケットに関するニュースは注目されている。


クラウドファンディングから新ビジネスへ


さらにISTは2016年夏に予定されている「モモ」の打ち上げ費用をクラウドファンディングで募集開始した(詳細は別記事参照)。出資は報告書とステッカーを送付される3000円のものから数万円、数十万円と用意されているが、最も高額の1千万円の出資を行うと、ロケット打ち上げボタンを押すことができるという。ISTでは出資総額が目標金額に達しなくても打ち上げを実施する予定だが、ロケット打ち上げがエンターテイメントビジネスとして成立するかという点でも興味深い取り組みと言えるだろう。


サブオービタルロケット「モモ」のユーザーズガイドβ版を公開(インターステラテクノロジズ)


 


Image Credit: インターステラテクノロジズ株式会社