2016年のインディカーシリーズがフロリダ州セントピータースバーグで開幕した。アメリカのトップ・フォーミュラ参戦7シーズン目を迎える佐藤琢磨にとって、セントピータースバーグは得意の市街地コースだ。

 デビュー2シーズン目に、11番手スタートからこのコースでのキャリアベストとなる5位フィニッシュを記録。2013年(日本人初勝利を飾った年)には予選で2位に食い込み、決勝で8位となった。そして、2014年にはポールポジションをゲットし、決勝7位。去年も予選5位という好成績を残している(決勝は13位だったが......)。

 もともとF1出身の琢磨だが、アメリカではストリートコースとオーバルでの活躍が目覚ましい。彼の強みのひとつは、F1までステップアップしていく中で培ったマシンに対する深い理解と高いエンジニアリング能力にある。コースの特徴やコンディションを感じ取り、マシンを短時間でハイレベルなセッティングに仕上げてみせる。そして、レースでは琢磨が持つ最大の強み、ポジション争いをエンジョイし、オーバーテイクを実現するファイターぶりがフルに発揮される。

 今年の開幕戦での琢磨は予選11位、決勝6位という結果だった。手放しで喜べる結果ではないが、新シーズンのスタートとしては上々と評価してよいだろう。

 優勝争いの常連になり、チャンピオンの座を争うチームとなることを目指すAJ・フォイト・レーシングは、2015年に2台体制に拡大し、琢磨をエースに、2台目には若手のジャック・ホークスワースを乗せている。マネジメントスタッフの補強とエンジニアリング部門の強化も行なった彼らは、同じドライバーラインナップながら、2015年より明らかに高いパフォーマンスを実現していた。

 琢磨とジャックはマシン・セッティングの項目を分業でこなしてデータを集め、プラクティスを重ねるごとにスピードアップしていった。3段階で争われる予選では、2人が揃って第2ステージに駒を進めた。6人でポールポジションを争うファイナルステージこそ進めなかったが、2人以上を第2ステージで戦わせたのは、セントピータースバーグを大の得意とする強豪チーム、ペンスキーを除くと、フォイトだけ。昨シーズン、11回目のシリーズチャンピオンとなったチップ・ガナッシ・レーシングも、ホンダのトップチームであるアンドレッティ・オートスポートも、1人ずつしか第2ステージに送り込むことはできなかった。

 決勝はポールポジションを獲得したウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が体調不良で欠場したため、琢磨は10番グリッドからスタート。グリーンフラッグ直後のターン1では、殺到したマシン群の中で小さな接触が幾つも発生し、琢磨は右リヤタイヤをカットされて最後尾まで順位を下げた。いきなり大不運に見舞われてしまったのだ。

 しかし、マシンの仕上がりが非常に良かったことでトップレベルのラップタイムを刻み続け、先行するライバルたちとの差をジリジリ縮めていった。そしてレースの折り返し点手前でアクシデントが発生。フルコースコーションが出されて全車はペースカーの後ろをスロー走行。琢磨はトップグループとの差を一気に縮めることに成功した。

 レースが再開されるや、琢磨は一挙に5台をパスして8位に躍進する。インディカーの誰もが認めるリスタート巧者ぶりを発揮した。ところが、大きく順位をゲインした直後、前方で大きな多重クラッシュが発生。琢磨は、立ち往生したマシンと周辺に飛び散った破片の中を通り抜ける際に他車に接触してフロントウィングを傷め、さらにはタイヤの空気漏れも発生。ピットインを余儀なくされ12位までポジションダウンした。

 それでも、待ちに待った開幕戦でファイティングスピリット溢れるレースを戦っていた琢磨は、次のリスタートで2台をパス。その勢いは終盤になっても衰えず、クルーの行なうピットストップも確実かつ迅速だったことで、セントピータースバーグでの自己ベストまであとひとつに迫る6位でゴールした。

 レース中のファステストラップは22人出場中の2番手だったが、それは予選で使ったソフトタイヤで走っていた序盤に記録したもの。琢磨は新品のソフトをレース半ばのリスタートで使い、その直後にパンクに見舞われてしまった。もし新品のソフトで周回が重ねられていたら開幕戦のファステストラップ・ホルダーとなっていたのは間違いない。その上、ハードタイヤでのペースもトップレベルだった。

「僕らのマシンはレースで非常に速かった。そういうマシンを作り上げることができていたのは誇りに思う。予選は悔しい内容になっていたけれど、その後にチームが頑張ってすばらしいマシンに仕上げてくれた」とレース後の琢磨は語り、「持っていたスピードを結果に直接繋げることができなかったのは少し悔しい。もっと上位でレースを終えていても何の不思議もなかった」と付け加えた。

 開幕戦での琢磨とAJ・フォイト・レーシングの戦いは、これからのシーズンを戦っていくのに充分な手応えを感じられるものだった。次戦は4月の第1週、今度は全長1マイル(約1.6キロ)のショートオーバルが戦いの舞台となる。開幕前の合同テストが行なわれたアリゾナ州フェニックスでのレースだ。

天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano