2015年度の決算が292億円もの赤字を見込む日本マクドナルドホールディングス

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“ジリ貧”マックが岐路に立たされている―。

期限切れチキンの使用と異物混入問題で客足が戻らず、2015年度の決算が292億円もの赤字を見込む日本マクドナルドホールディングス。14年度から2期連続の赤字となる見込みで、「もはや再生不能」と漏れ聞こえてくる窮状である。

そんな中、マクドナルドの米国本社が今年に入って、保有する日本マクドナルドの株を大量売却する方針を明らかにした。経済誌記者がこう話す。

「マック米国本社は日本マクドナルドの株を50%保有する筆頭株主。これを最大33%売却するとみられています。株の売却が実現すると、米国本社は持ち株比率が17%に下がる一方、譲渡先の企業は33%の株を握り、日本マクドナルドの筆頭株主として経営権を握ることになります」

米国本社はなぜ経営権を譲ってまで株を大量に売却しようと決めたのか。『マクドナルド 失敗の本質』の著者で法政大学大学院教授の小川孔輔(こうすけ)氏がこう話す。

「これまで不採算店の閉鎖や社員のリストラなど手は尽くしたけど、日本事業はもううまみがないと見切りをつけたのでしょう」

米国本社による今回の株の売却は、日本マクドナルドに対する事実上の“見切り策”だったというわけだ。そして、株の売却先として投資ファンド3社が名乗りを上げた。

1月20日を期日に行なわれた入札手続きに、イギリスに本拠を置くペルミラ・アドバイザーズ、アジアを拠点にするMBKパートナーズ、アメリカのベインキャピタルが参加。今後、マック株をめぐる熾烈(しれつ)な争奪戦が3社間で繰り広げられる。

親会社に見切りをつけられ、外資系ファンドに買収されようとしている日本マクドナルド。だが、前出の小川氏がこう話す。

「一見、ネガティブな出来事に映るかもしれませんが、実は今回の売却は日本マクドナルドにとって歓迎すべき話。今、名前が挙がっているファンドの下で健全な“脱アメリカ路線”を実現すれば、日本マクドナルドのV字回復も十分にあり得ます」

脱アメリカ路線?

「マックに今の惨状をもたらした根本原因はアメリカ型の経営手法にあります。故・藤田田(でん)氏が社長を退いた後、米国本社が日本に送り込んできたのが原田泳幸(えいこう)氏。彼は米国本社の意向を受け、短期的に収益を上げようと直営店を売却し、急速なFC化を進めました。その間、正社員をFC店に転籍させる形でリストラを推し進めて現場の士気が低下、店内が荒れ出したのです」

床に散乱するゴミ、破れたままのソファ…。こうしてマックの客離れが始まった。また、原田体制になってからヒット商品が生まれづらくなったという事情もある。マクドナルドOBで外食コンサルタントの王利彰(としあき)氏がこう打ち明ける。

「藤田時代は日本発のメニューを生み出し、ヒット商品に育て上げる気風が日本マクドナルド社内にありました。『てりやきマックバーガー』や『チキンタツタ』がその代表例です。これが原田体制になると、日本人がうまいと思った試作品も、アメリカ人の舌でまずいと判断されれば、商品化は見送られるか、味つけを改変されてしまう状況になりました。こんな商品開発がうまくいくはずないんです」

マックをダメにした元凶ともいえるアメリカ路線。ファンドに経営権が移れば、そこから脱却できる? 外食業界を専門にM&A(企業の合併・買収)のコンサルティング業務を行なうA氏がこううなずく。

「投資ファンドというとハゲタカのイメージが強くてマイナスにとらえる人も多いですが、正確に言うと、株を買って経営権を握り、あらゆる経営改革を尽くして企業価値を上げ、他のファンドや事業会社に転売することで差益を得る人たち。いわば“事業再生のプロ”です。

一方、マックは内圧だけではどうにもならないほどブランドが毀損(きそん)し、収益性も悪く、社内の統制もとれていません。これを変えるには、強力な“外圧”=“ファンドによる経営改革”が絶対不可欠。言い換えれば、ファンドだからこそマックの救世主になり得るということです」

起死回生の再建劇なるか? 『週刊プレイボーイ』8号(2月1日発売)では、さらに名乗りを上げた3社で最もふさわしいのはどこか、再生までの課題とともに徹底検証しているのでお読みいただきたい。

(取材・文/興山英雄)