【MotoGP】今季初テスト。ヤマハ、ホンダ勢より注目されたライダーは?
シーズンオフのテスト禁止期間が明け、2月1日から3日までマレーシア・セパンサーキットで2016年第1回目のプレシーズンテストが行なわれた。このテストで一頭地を抜く速さと水準の高い走りを披露し、ライバルたちを圧倒したのは昨年のチャンピオン、ホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)だった。
2016年のMotoGPは、大きくルールが変更される。大きな違いは2点。ひとつは、参戦する全車に対して共通ECU(電子制御)ソフトウェアの使用が義務づけられたこと、もうひとつはタイヤメーカーがブリヂストンからミシュランへ変更になったことだ。
共通ECUソフトに関しては、各ファクトリーマシンが昨年まで独自に作り込んでいた自社製ソフトではなく、全メーカー共通仕様となるために、「かゆいところに手が届きにくい」大味な仕様になってしまう面がある。その反面、各陣営の技術者たちにとっては、マシン特性やライダーのスタイルに合わせた電子制御セッティングの腕の見せどころ、とも言えるだろう。
タイヤについては、昨年までの公式サプライヤーだったブリヂストンと今年からのミシュランでは、キャラクターが大きく異なる。その特性を最大限にうまく引き出すバイクのセットアップや、ライダーがミシュランの持ち味を上手に引き出して速く走らせるコツをいち早く掴めるかどうかが、2016年の勝負を大きく左右する。
つまり、バイクづくりとライダーの技術が大きく試されることになる今回のシーズン初テストでは、ロレンソがライバルたちを大きく圧する結果になった、というわけだ。
テスト最終日の3日目は、1分59秒台のタイムに入れたのはロレンソ(1分59秒580)のみで、2番手につけたバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)はロレンソから0.976秒差、3番手のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)はさらにそこから0.327秒離れた2分00秒883、という各自己ベストタイムだった。
「最速タイムで締めくくることができたから、ハッピーだよ」と、ロレンソは満足げな表情で3日間のテストを振り返った。「(2番手に)1秒差を開くことができたのは意義が大きい。ブリヂストンのころと同じように自信を持って走れるんだ」とも語り、新時代のタイヤに誰よりもいち早く適応していることをアピールした。ただ、本来が慎重な性格の持ち主だけに、ライバル勢の今後の追い上げにも注意深い目配りをきかせている。
「まだ開幕までには、フィリップアイランド(オーストラリア)とカタールの合同テストがある。ドゥカティは速いし、ホンダ勢もきっと追い上げてくるだろう。この世界では1日で状況がガラリと変わって、一気に不利になることもある。今回のリザルトでは2台のヤマハワークスが1−2だけど、油断しているとあっという間に寝首を掻かれてしまうだろうね」
2番手タイムにつけたロッシも、今回のテストではロレンソが群を抜いて速かった、と素直に認めた。
「ブレーキもハードだし、コーナー進入もよく、旋回速度も高い。全域で速くて、彼はうまく乗れているよ」
そう話す一方で、ロッシは自分自身もよい感じで準備を整えている、とも述べている。彼がまだ掴んでいない何かをロレンソはすでに見いだしたのだろうか、と訊ねられた際には、こんなふうに話した。
「去年、同じ質問をされたら、『差は大きい』と答えただろうね。開幕に向けて僕たちがやるべきことはまだあるけれども、去年よりはだいぶロレンソに近づけていると思う」
彼らヤマハファクトリーが1−2タイムで好調な滑り出しを見せたのと対照的に、厳しい走り出しになったのがホンダ勢だ。2013年と2014年を連覇したときのマルケスは圧倒的な速さと勝負強さで、「新時代の天才登場」を大きくアピールした。しかし、昨年は苦戦を強いられ、ランキング3位で終えた。今回のセパンテストは、ヤマハの2台にタイム面で少し引き離される3番手タイムで、課題含みのシーズンスタートになった。
「まだ僕たちは100パーセントで攻められるほどの仕上がりじゃないんだ。だから、そこまでプッシュはしなかった。その証拠に、今回は一度も転倒しなかったでしょ(笑)。詰めていかなきゃいけないことはたくさんあるけど、残りのテストでがんばるよ」
マルケスは明るい表情でそう話しながら、次回以降のテストに希望をつないだ。
ところで、今回の3日間では彼らトップライダーと同等かそれ以上に、ケーシー・ストーナーのテスト参加が大きな注目を集めた。2007年にドゥカティで、2011年にはホンダでチャンピオンを獲得したストーナーは、2012年に27歳の若さで電撃引退。以後、昨年まではホンダのテストライダーとして年に数回サーキットを走行したが、今年からはドゥカティのテストライダーに就任した。現役時代にチャンピオン争いを繰り広げたライバルたちと一緒に走行するのは、引退後は今回が初めてだ。
ストーナーは、公式テストが行なわれる前々日の1月30日に、プライベートテストとして初めてドゥカティでセパンテストを走行。そして、公式テスト2日目と3日目にはレギュラーライダーたちに混じって走行した。「もはやレーシングライダーではないので、限界ギリギリまで攻めるようなことはせず、テストのためのデータ収集に徹した」と言いながらも、ベストタイムはマルケスからわずか0.190秒差という素晴らしい内容。ドゥカティを率いるジェネラルマネージャーのジジ・ダッリーニャは、ストーナーの卓越した能力を絶賛した。
「1月30日の最初の走行では一日かけて、まずはマシンとタイヤに慣れてもらおうと思っていたら、夕方にはもうテストメニューに取りかかることができた。びっくりしましたよ。とはいえ、今回のテストで彼が見せた速さは十分に予測できたものなので、わざわざ記事にしてもらうほどのことではないかもしれませんね」
大いに満足そうな表情で、話す口調もなめらかだ。テストライダーとはいいながら、現役トップライダー勢と互角に争える余力を十分に持つストーナーからのフィードバックは、ドゥカティにとって今後のマシン開発に非常に貴重な財産となるだろう。
今後のプレシーズンテストは、オーストラリア・フィリップアイランドとカタール・ドーハで各3日ずつ行なわれる。大きく一歩先んじた感のあるヤマハ勢に、ホンダとドゥカティがどこまで追いつけるのか――。開幕戦まで、あと約50日である。
西村章●取材・文 text by Nishimura Akira