学生バイトが中国全土のお墓を巡った(写真はイメージです)

写真拡大

 こんにちは。中国人漫画家の孫向文です。

 毎年4月4日は中国の清明節。この日は中国人がみんなご先祖を供養し、お墓参りをします。日本でいうと、お盆みたいなものですね。

 清明節における中国のお墓参りは独特で、紙で作られたマンションや車、使用人などをお墓の前で燃やし、それを天国に届けるという儀式を行います。通常、こうした「張り子」は街中の張り子専門店で販売されています。

 昔から中国の儒教の教えでは、「親孝行」や先祖を敬うことが何よりも大事なものとされています。毛沢東の文化大革命によって儒教はだいぶ廃れたものの、今もこうした親孝行の教えや、清明節の風習は残されています。ただ、今年の清明節は、ある意味、中国の今をリアルに映し出したものだったので、ご紹介しましょう。

 まず、今年流行ったのが、「墓参り代行」。これはその名の通り、業者に代わりに墓参りしてもらうというものです。とある業者の場合、100元(約2000円)で、墓参りをした上で、180秒間、お墓の前で泣き崩れるというサービスを行いました。

 SNSの映像機能やデジタル録画などで撮影してネット上にアップし、依頼したお客さんには墓参りしたことを証明します。大学生にとっては割のいいバイトなので、この日は多くの学生バイトたちが中国全土のお墓を巡りまわり、内心ではその高額なバイト料にほくそ笑みながら、泣き崩れていたようです。当然、こうしたサービスに対して、中国では非難が沸き起こりました。

拝金主義に染まる中国人

 そして、もうひとつ、今年の清明節で大きく報道されたのは、天国に届ける「張り子」の内容でした。高級腕時計、ブランド品、高級車、愛人、米ドル札……などいった、まるで汚職官僚の身に周りにある代物がずらり。

 まあ、ご先祖様にはなるべく高価なものを届けたい気持ちも分かりますが、亡くなったおじいちゃんが愛人を侍らせ、高級車を乗り回し、ブランド品を身に付けている姿を思い描くと何だかゾッとしますよね。

 それと、これは今年に限ったことではありませんが、ここ数年、流行っている紙張りはというと、何と言ってもアイフォンやアイパッドです。これも時代を反映しているんでしょうけど、そもそも天国の人たちが、そんな最新機器を使いこなすことができるんでしょうか?

 こうした清明節の報道を見ていて考えてしまうのは、いかに最近の中国人が「拝金主義に染まっているか」ということです。はたして、これが先祖供養であり、孝行になっているのか甚だ疑問です。

 このような家族・ご先祖の絆や、親孝行にちなんだネタをもう一つご紹介しましょう。
今年4月、アメリカに亡命した天安門事件の学生リーダーが、熊炎氏が、「80歳の危篤の母親の最期を看取りたいので、中国に入るビザをください」と、習近平と李克強に対して公開メッセージを送りました。

「最後にもう一度、母の手を握りたい。母の髪を櫛で整えたい。中国人は親孝行が第一であり、それは政治と関係ないはずだ!」

 ですが、中国政府はそんな彼の願いを徹底的に無視しました。中国という国を捨てたけれども、中国で古来から根付く孝行の精神を今も抱え続けている政治亡命者。片や、中国という国に住みながらも、拝金主義に染まり、孝行の本質を見失いつつある中国人。

 今年の4月には、そんな両極端なニュースが報道され、考えさせられました。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/杉沢樹)