ショットは良いのに、決め所のバーディパットがどうしても入らない… (Photo JJ.Tanabe)
 ゴルフ界初のプレーオフ方式を採用し、米女子ゴルフ界では最高額の優勝賞金100万ドルを競い合ったADT選手権。勝利をつかんだのは4アンダー68をマークしたパラグアイ出身の20歳の新人ジュリエッタ・グラナダだった。賞金女王争いが注目されたロレーナ・オチョア(メキシコ)は2アンダー70で2位、カーリー・ウエブ(オーストリア)は1アンダー71で3位。宮里藍は1バーディ、1ボギーのイーブンパー72で4位タイに終わった。

 勝ち残った8人がゼロから18ホールを競い合う最終ラウンド。攻めなければ勝てない。宮里のゴルフは「攻めていたか?」と問われれば、「攻めていなかったわけではない」と答える。4〜5メートルのバーディチャンスに8回つけることができたのは攻めていたからこそだし、15番パー5では、これまで3日間、第2打を「レイアップ(刻み)ルート」の右サイドに置いていたのに対し、今日は2オン狙いの「まっすぐルート」で狙った。だが、ギャンブルショットはグリーン右手前の赤杭(ラテラルウォーターハザード)へ。どうも報われない。それでもドロップ後の4打目を4メートルに付けてパーセーブしたあたり、落ち着きを失っていたわけでもない。8回のバーディチャンスのうち、決めたのは唯一のバーディとなった3番だけ。100万ドルを掴むことができなかった最大の理由は、明らかにパットが決まらなかったことだが、「しっかり打てていたので悔いはない」。

 宮里自身の感覚として、最終日は「攻めていた」。だが、宮里が「どの程度、攻めに出ていたか?」と問われたら、「優勝したグラナダほどは攻めきれていなかった」と答える。恩師のデビッド・レッドベターからもバッグを担ぐ母親からも「100万ドルはアナタのお金じゃないと思ってプレーしなさい」とアドバイスされていたグラナダは、初優勝のことだけを考え、「上がり3ホールはグリーンの周りが池だらけで心臓がバクバクしていた」と言いながらも水際にはためくピンをどこまでも攻めた。宮里は宮里で奮闘したことは間違いない。しかも、精神状態の保ち方が「今年で一番良かった」と満足していた。それは彼女にとって来季につながる大収穫。しかし、アグレッシブさにおいて、今日のグラナダには、宮里もオチョアもウェブもかなわなかった。それが「順位」という結果になって表れた。

 グラナダの攻め。そのパワーはハングリー精神からもたらされている。パラグアイでゴルフを始めたのは4歳のときだった。14歳のとき、両親とともに渡米し、フロリダ州内のデビッド・レッドベタースクールへ。手持ちのお金はわずかしかなく、英語もわからない貧乏暮らしに涙を流しながら、家族で支え合い、今日の日にたどり着いた。100万ドルの使い道は「車」を買って、残りは「投資(貯金)」通常、選手はキャディに賞金の10%前後を報酬として支払うのだが一般的だが、グラナダは「たくさん犠牲を払ってくれた母には15%あげます」。だが、実質的には自分のお金も母親のお金も関係ないわけで、8人の選手の中では100万ドルを全額ふところに入れることができる唯一の選手が優勝したということになる。

 「100万ドルを取った人が賞金女王になるのは、おかしいのでは?」と是非が問われていた賞金女王レースの行方も、今季6勝のオチョアに決まり、落ち着くべきところに落ち着いた。終わってみれば、グラナダも満足、宮里も満足、オチョアも満足のハッピーエンドに見えるが、大会に残された課題は山積している。ちなみに、大会フォーマットに対する宮里の感想は「面白かったですよ。でも、まあ、ここまで来ているから言えることでしょうけどね」。その通り。今季それなりの成績を上げながら大会出場が叶わなかった選手の不満は大きく、大会関係者、米メディアの間でも「出場資格の決定方法」「賞金配分」「大会フォーマット」の3点において改良の必要性がすでに問われ始めている。米LPGAのキャロリン・ビーベンス会長は「どの32人がベストの32人かなんて、どうやって決めたとしても結局、全員が納得するわけはない。でも必要なら喜んで改良します」と前向きではあるが、スポンサー獲得に四苦八苦のツアーが同大会をどこまで改良できるか。向こう1年、とくと拝見しようではないか。

文:舩越園子(ふなこし・そのこ)
 在米ゴルフジャーナリスト 1963年生まれ。東京都出身。ニューヨーク在住。早稲田大学政経学部卒業後、百貨店勤務、広告代理店勤務を経てフリーへ。93年に渡米。アメリカのゴルフ界を取材し続け、日本の新聞、雑誌、インターネット、各種フリーマガジン等へ幅広く執筆している。BEYONDSHIP代表取締役。著書に「転身!デパガからゴルフジャーナリストへ」(文芸社)、訳書に「タイガー・ウッズの不可能を可能に変える5ステップドリル」(講談社)などがある。


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