マーリンズ マイケル・ヒル強化担当責任者【写真:編集部】

球団幹部「どうなるか注目している。我々にはメジャー最高の内野守備コーチがいる」

 マーリンズに加入したイチロー外野手が、新天地で一塁手にチャレンジする計画が浮上している。地元メディアでも報じられ、奇想天外と思われていた仰天プランだが、実現する可能性は十分にありそうだ。

 イチローマーリンズ入団実現に尽力したマイケル・ヒル強化担当責任者は、29日に都内で行われた入団会見に出席後、4番目の外野手として獲得したレジェンドの出場機会を増やす秘策について初めて言及した。

イチローの一塁? 実は私たちもどうなるか注目しているんだ。そろそろスプリングトレーニングが始まる。我々のチームにはメジャーリーグ最高の内野守備コーチがいる。彼(イチロー)は、どんな形でも我々の勝利に貢献したい、できるだけ多くの試合に出場したい、とも話しているのだからね」

 ヒル氏はFull-Countの取材に鋭い眼光でこう語った。地元メディアが報じている仰天プランを否定せず、MLB生活14年間で10度のゴールドグラブ賞受賞を誇り、メジャー史に名を残すライトの名手を一塁で起用する可能性があることを認めている。

 マーリンズのマルセル・オズナ、クリスチャン・イェリッチ、ジャンカルロ・スタントンは平均年齢24歳で、メジャー最強の外野トリオと評価される。イチローが昨年、所属していたヤンキースには、右骨棘障害を抱えていたカルロス・ベルトラン、シーズン途中に戦力外となったアルフォンソ・ソリアーノ、キャリアを通じて負傷の多いジャコビー・エルズベリー、ブレット・ガードナーといった選手がいたが、マーリンズでは同じポジションのライバルが休養を必要とする状況はなかなかやってこないかもしれない。

イチローの一塁挑戦を可能にする、ヒル内野守備コーチの存在

 MLB公式サイトは、この外野最強トリオの代わりに出場した選手の昨年の総打席数「340」は、すべてイチローが手にできる可能性があると分析している。ただ、メジャー通算3000本安打の金字塔まで156本と迫っているイチローが外野のバックアップのみならず、一塁も兼務できるとなれば、打席数を更に増やすことが可能となる。

 驚愕のプランだが、その実現を検討するに至る背景にはイチローの尋常ではないアスリート能力に加え、ヒル氏がメジャー最高と語る指導者の存在がある。

 内野守備コーチのペリー・ヒル氏は、メジャーでの指導者人生を1992年にレンジャーズでスタートさせた。タイガース、エクスポズ、マーリンズ、パイレーツと内野守備コーチを歴任し、11年からマーリンズに一塁コーチとして復帰している。

 グル(達人)の異名を持ち、テキサス州ランタナの自宅の棚には教え子が勝ち取ったゴールドグラブ賞が数多く鎮座しているという。日本で活躍したレオン・リーを父に持ち、2013年に現役引退を発表したデレク・リー(マーリンズなどで活躍)が一塁手としてゴールドグラブ賞を獲得したのは、ヒル氏の指導の賜物だったとも地元メディアに評価されている。

 二塁手としてゴールドグラブ賞に3度選出された元マーリンズのルイス・カスティージョ氏も、かつて米紙「ピッツバーグ・ポスト・ガゼッタ」に「彼はすごく重要な存在だった。彼と出会う前にはゴールドグラブを獲得することができていなかった。だがら、最初のゴールドグラブ賞は彼にプレゼントした。彼と働き始めてから3年連続で受賞できた。すごくポジティブな人間で、一緒に仕事した内野守備コーチで最高の存在。誰かを落胆させたことなどない」と証言している。

イチローの打席数を増やし、チームの弱点を強化する一石二鳥のプラン?

 ヒル内野守備コーチの揺るぎない指導実績と圧倒的な手腕は、41歳にして初となるイチローの一塁挑戦を後押しすることになるかもしれない。

 一方、チームにとっても弱点強化策となる。現時点で予想されているロースター25人で、一塁手として戦力になりそうなのは、ジャイアンツで昨年のワールドシリーズ制覇に貢献した強打者マイケル・モースのみ。バックアップも必要だ。

「我々はモースを獲得したけれど、彼はイチローのことをよく知っている。シアトル時代にプレーしていた、いい友達と聞いている。フロリダ州ジュピターで行われるスプリングトレーニングが本当に楽しみなんだ」

 ヒル強化担当責任者はこう語っている。そして、新たなユニホームに袖を通すイチローの意欲について、とてもポジティブに捉えていることも明かす。

「彼は勝ちたがっている。我々のチームが保有しているタレントについても認識している。その一方で、選手が162試合に出場するわけではないことも理解している。それでも、彼は純粋にチームの勝利に貢献したいと話していた。どんな形でもね」

 レジェンドのプレー機会を増やし、チームの補強ポイントも補う一石二鳥の一塁起用案は実現するのだろうか。スプリングトレーニングから、イチローに大きな注目が集まる。