[Nacho Doce / Reuters]

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去る1月に、佐藤俊氏が『越境フットボーラー』(角川書店)を上梓した。伊藤壇、中村元樹、酒井友之、星出悠という、日本ではあまり馴染みのない国でプレーする選手たちの言葉に迫り、その生き方を描き出した意欲作だ。
 
ヨーロッパの主要リーグでプレーする有名選手の関連書籍が書店のサッカー本コーナーを占める中、本書のカラーは極めて異色だ。誰も知らない国。誰も知らないクラブ。彼らはドロップアウトしたのか、はたまた望んだ場所を見つけたのか。4人の生き方から伝えたかったこととは何か、佐藤氏に訊いた。(聞き手:刈部謙一)
 
■サッカー選手の生き方は一つではない

刈部 Jリーグがスタートして20年が経ちました。20年という年月の中で、今いろんなことが起きていると思います。その一つの形として、Jリーグ以外の選択肢というのもあります。それも、一般的に「海外組」といわれるものの対象となる欧州ではなく、アジア圏にもかなりの選手が行っていますし、Jリーグ自体も進出を始めています。アジアにはAFCもありますが、プレーする場所だけでなく、様々な意味でJの後背地としても見直されています。今回佐藤さんの『越境フットボーラー』を読んでみて、お話を伺いたかったのは、アジアやその他、いわゆる誰もが知る主要国ではない国のサッカーに対する考え方を変えていかなければならないときに、その先鞭をつけてくれるし、まさに学べるものがあると思ったからです。そもそも、動機は何だったんですか。

佐藤 書こうと思ったきっかけは、とある週刊誌か何かで、本書にも登場する伊藤壇君が世界10カ国(現在は13カ国)のクラブを渡り歩いたという記事を読んで、その話が単純におもしろかったからなんですね。サッカー選手のあり方が、日本はすごく狭いなと感じていて、今まで海外に移籍するのはエリートじゃないとダメみたいな風潮があったじゃないですか。それに、現役を終える年齢がとても早い。高校卒で入団して、3年でクビになるなんてザラですよね。もったいないなっていう思いを前々からずっと持っていたんです。その思いと、伊藤君の1年で1カ国巡るという生き方が微妙にリンクしはじめて、きちんと書いてみようと。

刈部 実際に取材してみてどうでした?

佐藤 サッカー選手の生き方って一つじゃないし、こういう生き方もいいなって思いましたね。例えば伊藤君のように10年で10カ国まわることによって、サッカー選手として新しい生き方を見つけ、人としての幅も広がっていくわけです。若いうちにクビを切られた選手でも、他に生きる道、違う生き方を見つけられる。

刈部 「佐藤俊」とう著者名でいえば、これまでの仕事から考えて、ある程度名前の知られている選手たちの内面を描き出す書き手、というイメージが強いと思うんですが、彼ら4人を選んだ理由ってなんですか。

佐藤 基本的にはアジア、北中米、ヨーロッパ、アフリカと、大陸ごとに一人ずつピックアップしていこうと構成しました。一番難儀したのがヨーロッパで、西ではなく東、サッカーが産業としてそこまで成立していないような国でプレーしている人を探そうと思っていて、最初、探したんです。でも、リストアップした選手と連絡がうまく取れなかったり、レスポンスが遅かったり、なかなか決められませんでした。で、ネットで調べていくと中村選手のブログに行き当たって、すごい環境でサッカーしているなと思い、連絡を取ったんです。実際、会ってみると、予想以上に話が面白かったですね。アフリカでプレーしている選手は今回、見送りましたが、4人それぞれ納得の人選ができたと思っ ています。

刈部 人ありきというより地域ありきだったというわけですね。