【カーリング】市川美余が涙をこらえて語った「初めての世界」
中部電力が日本代表となって初めて挑んだ公式戦、パシフィック・アジア・カーリング選手権。予選ラウンドを2勝4敗の3位で終えると、決勝ラウンド準決勝で韓国に敗れ、3位決定戦ではニュージーランドに敗退。結局、参加4カ国中、最下位に終わった。
主将の市川美余は言う。
「正直、狙っていたのは、優勝でした。それだけに、最下位に終わって悔しい気持ちでいっぱいです。いちばん悔しいのは、実力が発揮できなかったこと。でも、『実力が発揮できなかった』ということも含めて(チームの)実力なので、それはしっかり受け止めたいと思っています」
気を張っていないと言葉とともに涙があふれてしまう。唇を真一文字に結んで必死に感情を身体の内側に閉じ込めている。そんな話し方だった。
中部電力カーリングチームは、創部当初から「石をためて戦うスタイル」であることを公言し、試合では混雑したハウスの中を大胆かつ精緻(せいち)なショットで仕掛けていく、攻撃的な戦略を駆使してきた。実際、2月に開催された日本選手権では、そのアグレッシブなカーリングで、ディフェンディングチャンピオンのチーム青森や、優勝候補にも挙げられた本橋麻里率いるロコ・ソラーレ北見に勝利。特に、同じように攻撃的なカーリングを持ち味とするロコ・ソラーレとの打ち合いは多くのファンを魅了した。
今大会でも、そのスタイルは貫いていた。現地メディアでも「連敗下にあっても、日本の攻撃はある局面で非常に出色であった」と称賛された。
しかし、結果には結びつかなかった。
「私たちにとっては、課題も見えていい経験になった。でも、結果を見ると、日本代表としては、これではいけないと思う」(市川)
最大の要因は、世界という舞台において、アイスの状態や試合状況における戦術の使い分けがまだまだ途上だった点にある。野球に例えるなら、大差で勝っていようが、1点差で負けていようが、どんな試合展開でも、常に満塁ホームランを狙っているような印象を受ける戦い方だった。
確かにリードしている局面でも、すべてのショットでリスクを冒して複数点を取りにいく姿勢は、相手に大きなプレッシャーを与える。しかし、彼女たちの攻撃的なスタイルは、ひとつのミスが絡めば、逆に相手に大量得点を与えてしまう。予選ラウンドの韓国や中国との戦いでは、そういったエンドが何度か見られた。大胆に攻めるばかりでなく、セーフティーに、慎重な戦いを進めるエンドやショットがあっても良かったのではないだろうか。
また、大会を通してショット率は決して高くなかったものの、「トップウエイト(スピードに乗ったストーン)でのテイク(敵のストーンを外に弾き出すショットなど)には自信を持っている」(市川)と話すように、ウエイトのあるショットに関しては大きなミスなく決めていた。それだけに、その武器を生かした戦い方をもっとしても良かったもしれない。石をためるカーリングを身上としながらも、状況に応じてはハウスをワイドに使ってクリーンな展開に持ち込む、そんな選択肢を持ってもいいのではないだろうか。
「自分たちの現在地を知って、自分たちにはまだまだ力がないことがわかった。技術、戦術、メンタル、すべてを含めて経験が足りないことを痛感した」
と和田博明監督が大会を振り返ったように、初めて日本代表として戦った中部電力にとっては、厳しい結果に終わった。それでも、この経験を経てチームは成長できるはず。課題を修正したチームが、どう生まれ変わるか注目したい。
翻(ひるがえ)って今大会、見逃してはいけないのが、準優勝の韓国が目覚ましい成長を遂げていたことだ。韓国は中国の強化策にならって、国の全面的なバックアップでニュージーランド遠征を実施。今大会に向けては、カナダに拠点を置いて2カ月以上も合宿を行なって、チーム強化を図ってきた。中部電力もニュージーランド、カナダに足を運んでいるが、その質と量は韓国や中国には及ばない。
さらに、中部電力は2月に日本代表になって、その後9カ月間も公式戦がなかった。それも、中国や韓国に後塵を拝した要因のひとつとなった。
どの競技でも、日本代表の強化のためには、代表として戦う舞台が欠かせない。その機会が多ければ多いほど、代表強化につながる。ならばカーリングも、国際試合の開催とまではいかなくとも、国内でカップ戦を組むなどして、代表の強化試合の場を増やすことを考えるべきではないだろうか。
現状のままでは、中国や韓国との差はさらに開くばかりである。来年、この大会で2位以内に入らなければ、ソチ五輪の道が絶たれてしまうことを忘れてはならない。協会も選手もファンも一丸となって捲土重来(けんどちょうらい)を期すことが、現在の日本にもっとも求められるのではないか。
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■livedoorスポーツ
・市川美余フォトギャラリー
主将の市川美余は言う。
「正直、狙っていたのは、優勝でした。それだけに、最下位に終わって悔しい気持ちでいっぱいです。いちばん悔しいのは、実力が発揮できなかったこと。でも、『実力が発揮できなかった』ということも含めて(チームの)実力なので、それはしっかり受け止めたいと思っています」
中部電力カーリングチームは、創部当初から「石をためて戦うスタイル」であることを公言し、試合では混雑したハウスの中を大胆かつ精緻(せいち)なショットで仕掛けていく、攻撃的な戦略を駆使してきた。実際、2月に開催された日本選手権では、そのアグレッシブなカーリングで、ディフェンディングチャンピオンのチーム青森や、優勝候補にも挙げられた本橋麻里率いるロコ・ソラーレ北見に勝利。特に、同じように攻撃的なカーリングを持ち味とするロコ・ソラーレとの打ち合いは多くのファンを魅了した。
今大会でも、そのスタイルは貫いていた。現地メディアでも「連敗下にあっても、日本の攻撃はある局面で非常に出色であった」と称賛された。
しかし、結果には結びつかなかった。
「私たちにとっては、課題も見えていい経験になった。でも、結果を見ると、日本代表としては、これではいけないと思う」(市川)
最大の要因は、世界という舞台において、アイスの状態や試合状況における戦術の使い分けがまだまだ途上だった点にある。野球に例えるなら、大差で勝っていようが、1点差で負けていようが、どんな試合展開でも、常に満塁ホームランを狙っているような印象を受ける戦い方だった。
確かにリードしている局面でも、すべてのショットでリスクを冒して複数点を取りにいく姿勢は、相手に大きなプレッシャーを与える。しかし、彼女たちの攻撃的なスタイルは、ひとつのミスが絡めば、逆に相手に大量得点を与えてしまう。予選ラウンドの韓国や中国との戦いでは、そういったエンドが何度か見られた。大胆に攻めるばかりでなく、セーフティーに、慎重な戦いを進めるエンドやショットがあっても良かったのではないだろうか。
また、大会を通してショット率は決して高くなかったものの、「トップウエイト(スピードに乗ったストーン)でのテイク(敵のストーンを外に弾き出すショットなど)には自信を持っている」(市川)と話すように、ウエイトのあるショットに関しては大きなミスなく決めていた。それだけに、その武器を生かした戦い方をもっとしても良かったもしれない。石をためるカーリングを身上としながらも、状況に応じてはハウスをワイドに使ってクリーンな展開に持ち込む、そんな選択肢を持ってもいいのではないだろうか。
「自分たちの現在地を知って、自分たちにはまだまだ力がないことがわかった。技術、戦術、メンタル、すべてを含めて経験が足りないことを痛感した」
と和田博明監督が大会を振り返ったように、初めて日本代表として戦った中部電力にとっては、厳しい結果に終わった。それでも、この経験を経てチームは成長できるはず。課題を修正したチームが、どう生まれ変わるか注目したい。
翻(ひるがえ)って今大会、見逃してはいけないのが、準優勝の韓国が目覚ましい成長を遂げていたことだ。韓国は中国の強化策にならって、国の全面的なバックアップでニュージーランド遠征を実施。今大会に向けては、カナダに拠点を置いて2カ月以上も合宿を行なって、チーム強化を図ってきた。中部電力もニュージーランド、カナダに足を運んでいるが、その質と量は韓国や中国には及ばない。
さらに、中部電力は2月に日本代表になって、その後9カ月間も公式戦がなかった。それも、中国や韓国に後塵を拝した要因のひとつとなった。
どの競技でも、日本代表の強化のためには、代表として戦う舞台が欠かせない。その機会が多ければ多いほど、代表強化につながる。ならばカーリングも、国際試合の開催とまではいかなくとも、国内でカップ戦を組むなどして、代表の強化試合の場を増やすことを考えるべきではないだろうか。
現状のままでは、中国や韓国との差はさらに開くばかりである。来年、この大会で2位以内に入らなければ、ソチ五輪の道が絶たれてしまうことを忘れてはならない。協会も選手もファンも一丸となって捲土重来(けんどちょうらい)を期すことが、現在の日本にもっとも求められるのではないか。
■livedoorスポーツ
・市川美余フォトギャラリー