神奈川県議会ではきのう、公共的施設受動喫煙防止条例案が本会議で可決、成立した。条例の提出当初に目指された全面禁煙からは大幅に後退する内容となったが、屋内での喫煙を規制する条例は全国で初めてとなる。

これにより、ますます分煙・禁煙の動きは加速するだろう。しかし、非喫煙者である記者が、今だからこそ、敢えて問いたい。タバコを吸う人の権利と副流煙を浴びたくない人との権利は、なぜ同列に扱われないのだろうか。


tvkなどの報道によると、神奈川県の松沢成文知事はこの条例について、「先進的条例が神奈川から成立したことは大きな意義がある」とコメント。また、当初の「全面禁煙」から大きく後退したことについて、飲食店や旅館など各種業界からの反対が大きかったとした上で、不景気などを理由に、業界の負担を考慮し見送ったと説明した。そして、今後条例を修正し、さらに厳しい内容に変更していく可能性も示唆した。

今回の条例では、病院や学校などは全面禁煙となり、規模の大きい居酒屋やホテルなどについては、禁煙または分煙のどちらかを施設側が選択することになっている。また、分煙に関しては、従来ありがちだった「席を分けただけ」の状態は認めず、空気の流れを作ったり完全なパーテーションを設けてタバコの煙が禁煙席に行かないようにするなどの細かな規定を設けている。

さらに、パチンコ店や100平方メートル以下の小規模飲食店などについては、努力義務規定にとどめるとして、規制の対象外とした。

今回の条例に関して、本誌記者の取材では賛否両論分かれるところであった。タバコを吸わない人からは「大賛成」「もっと進めてくれ」という声が多く挙がったが、愛煙家からはやはり「やりすぎ」「居酒屋で全面禁煙はありえない」など、反対の声が多勢を占めた。

神奈川県内ではこのほか、 タクシーも2007年に全面禁煙化が実施され、鉄道もJR東海の在来線のホームは今月14日から全面禁煙が実施。JR東日本も来月に全面禁煙化する。


近年、健康増進法の施行も手伝って、たばこを吸わない人も副流煙によって健康を害するという「受動喫煙」が広く認知されるようになった。「嫌煙」という言葉も広まった。

嫌煙を主張する人の論拠としては、健康を害することと、においや煙が嫌だという二点が主である。確かに、吸わない人までもが体を悪くするとしたら、たばこの煙は周囲に毒を撒き散らしているということになり、一個人がたばこを楽しむ権利より優先されるべきと言えよう。

しかし、後者の「嫌だ」という感情が前面化している嫌煙者をよく見かけるが、違和感を覚えるのは記者だけだろうか。それは「隣の人の香水が臭い」「私が気持ち悪いと思ったら迷惑なのだ」という自己中心主義と同列なのではないか。

たばこを吸う人が周囲の吸わない人へ配慮するのは、もはや条例で制定される以前のこととして、当然の義務だ。しかし、その一方では吸わない人から吸う人へのモラルも求められるのではないか。

一方的に自己を正当化し、感情的に「吸うな」と叫ぶ前に、一服を愉しんでいる人への配慮というのも必要だ。たばこのない空気を好む人と、たばこを吸いたい人。どちらも「嗜好」という点では優劣がつけられるものではない。

もっとも、こうした問題が浮上する最大の原因は、JT=日本たばこ産業の体たらくにあると言える。今回の神奈川県の条例に対しては、「たばこが吸えないとなるとお客さんが減ってしまう」という、飲食業界の深刻な悲鳴が多く聞かれた。たばこ産業には、公共空間の分煙化に対する補助を行うなど、たばこの販売を行う立場としての責任があると言えよう。

(編集部 鈴木亮介)

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【参照】
神奈川新聞・24日