2010年W杯予選の初戦(6日、対オーストリア)で完敗を喫し、10日のセルビア戦で正念場を迎えるフランス代表のドメネク監督。ユーロ2008グループリーグ敗退の2週間後(7月3日)に開かれたフランス・サッカー連盟(FFF)理事会では、ほぼ“満場一致”で続投が決まったと伝えられたが、9日付のレキップ紙によると、理事会の出席者からは続投を疑問視する意見が数多く出されていたことがわかった。

 同紙が明らかにした議事録によると、理事会はまずドメネク監督の釈明でスタートした。監督はおもに、コミュニケーション、戦術、スタッフについて語った。コミュニケーションに関しては、「皮肉」「挑発」ととられる発言は選手を守るためだったと弁明。戦術は、98年以来定着した守備中心のスタイルを攻撃中心に切り替えると約束した。スタッフについては、とくにメディカル・スタッフの力量不足を認め、人選は連盟に任せる考えを示した。

 続いて理事が監督に対する質問の形で発言した。ここでは、他のチームに比べて試合中に走る距離が短いという統計があること、連盟がこれまで監督のしたいようにさせてきたのに結果が出なかったこと、敗戦後のテレビ・インタビューで交際相手に求婚したこと、などが槍玉に挙げられ、監督はすべてに対して自らの非を認めている。

 その後、監督は退席を求められ、理事の間でさらに活発な意見交換がなされた。エスカレット会長がまず、代表チームが国民に夢を抱かせる存在でなくなっていることを問題視し、その責任は監督のほか、選手、連盟、自分自身にもあるとしたうえで、監督の発言、選手の態度、スタッフの能力について厳しい意見を述べた。各理事もほぼ同意見で、ドメネク監督に信頼を寄せているとはとうてい思えない発言が相次いだ。

 奇妙なことに、ドメネク監督をもっとも擁護したのは、かねてから監督との不仲が有名だったウリエ・テクニカルディレクター(フランス代表、リバプール、リヨンの監督を歴任。この会議で議決権はもたない)だったが、「“帝国”の脇にもうひとつの“帝国”をつくろうとした」と監督の独裁に警鐘を発した。

 こうした議論を経て、最後に挙手による採決がなされた。FFFのバクール副会長が「自分たちが愚かになるような決定にならないことを望む」と言い残し採決前に退席していたことも明らかになった。もうひとりの副会長、タンテュリエ氏はドメネク続投に賛成も反対もせず棄権したが、「(W杯)予選突破のためには、一歩下がって助走をつけることが必要ではないか」と述べており、最後まで続投に抵抗したようだ。

 しかし結局は、監督の人柄や手腕に疑問を抱きながらも、他の人物(最有力候補は、元フランス代表主将のデシャン前ユベントス監督)を起用することで招き得る連盟内の足並みの乱れを恐れるあまり、ドメネク続投という選択をとらざるを得なかったことになる。このことは、エスカレット会長の以下の発言に端的に表れている。「“フランス98”(98年W杯優勝メンバーを中心とする団体)のキャンペーンは執拗で、ときに度を超している。代表チームは連盟の財産で、一派閥のものではない」。
 
 今回のレキップ紙の記事によって、国民の大半がすでに感じていた、ドメネク監督の続投が連盟内の“政治的配慮”で決められたという“憶測”が“事実”として定着しそうだ。多くのファンがフランス代表に愛想を尽かしつつあることは、オーストリア戦の視聴率低下、セルビア戦の前売り激減に表れている。10日には、収容8万人のスタッド・ド・フランスの席が4万5000人分しか埋まらない見通しだ。試合結果にかかわらず、ドメネク監督とエスカレット会長の基盤が揺らぐのは避けられない。ちなみに、今回の代表に対する「ネガティブキャンペーン」が、FFFの会長選挙を3ヶ月後に控えるタイミングで展開していることにも注目すべきだ。