(C)フジテレビ 月9ドラマ「SUITS」は織田裕二と鈴木保奈美が27年ぶりに共演し、話題になった。視聴率も平均10%を超えて推移している(写真:フジテレビ

近年、極度の不振が続いたフジテレビジョンに、復活の兆しが見え始めている。11月1日に公表した2018年4〜9月期決算は大幅な改善を見せた。放送収入は前年同期比4億円減にとどまり、映画やイベント事業の好調もあり増収を確保。営業利益は45.8億円(前年同期は8.3億円の赤字)と黒字転換し、すでに前期の通期営業益44.8億円を上回った。

視聴率も4〜9月期は全日帯(6〜24時)で前年同期比0.1%減にとどまり、ゴールデン帯(19〜22時)、プライム帯(19〜23時)は前年同期の水準を維持。下落基調に歯止めがかかった。ドラマの視聴率は2ケタを獲得し、ヒット映画も生まれている。この回復力は本物なのか。宮内正喜社長を直撃した。

――2017年6月に就任してから1年以上が経過し、さまざまな改革を矢継ぎ早に実行してきました。

組織改革を行い、予算制度も変え、中期計画も立てた。今はとにかく視聴率を上げようと努力しているところだ。テレビ局は雰囲気も大事で、少しでも数字が上がってくると、現場と会社はがらりと変わってくる。そういう意味では、ここにきて番組も映画もイベントも、少しずつだがフジテレビの得意技が成果を出し始めてきたという実感がある。

とはいえ、一気にプラスのスパイラルになっているとか、潮目が変わったというのはまだ早い。来年の改編などに向けて、新しいスタートが切れるのではないかというところだ。社内外に非常事態であると宣言して改革を進めてきたが、まだ非常事態という気持ちでやっていく。

人の意見を聞いて組織案を仕上げた

――就任直後、編成局にさまざまな権限を集中させる組織改革を実行しました。その狙いは何ですか。

かつて1982年から12年連続で3冠王(全日帯、ゴールデン帯、プライム帯で首位)を獲得したが、その初めの年、当時の日枝久編成局長のときに私も編成の下っ端にいた。当時の経営陣が採った施策はいろいろあったが、編成局を中心に、すべての機構も人事も改革してスタートした。営業も技術も人事も全部、編成局に協力していて、結果も出した。そのときのことが鮮明に記憶の中にあった。私に今の会社を変えろというのであれば、やはりこうしたことが第1弾だと思った。

岡山放送の社長を8年、BSフジの社長を2年と、フジテレビを離れていた10年間で会社は大きくなり、部局も増えていた。編成主導の態勢を短期間でスタートさせようと思ったが、10年間で人も変わっている。知らない若い社員もたくさんいる中で、さまざまな人に意見を聞きながら組織案を仕上げた。

――現場に足を運び、どんなコミュニケーションを取ってきたのですか。

現場に足を運び、熱気があるかどうかを見ていた。現場にはタレント事務所や広告会社、系列局の人たちなど多くの関係者がいる。スタッフも含めて、そういう人々の声や愚痴もストレートに耳に入るので、できるだけ顔を出すようにしていた。2017年の仕事納めのときは、駆け足で全職場を回った。若手社員も顔を覚えてくれた。

20代や30代の社員とは、社員食堂でランチを取りながら直接話もしてきた。個室でもないし、間仕切りもない食堂で、ざっくばらんに話した。それこそ3人ごとに、テレフォンショッキングみたいに次のセクションを選んでくれと。うちの社員は社長が相手でも、全然、緊張してなかったけど(笑)。


「うちの社員は社長相手でも、全然、緊張しない」と笑う宮内社長(撮影:尾形文繁)

あらゆる現場を見て、話を聞いて、視聴率は低迷していても熱気は失われていないと感じた。何かのきっかけを作れば、絶対にフジテレビのDNAは爆発するなと。現場の力を実感できたのは改革を進める支えになった。

視聴率アップが大命題

――タイムテーブル(番組表)改革について、どんな課題があると考えていたのですか。

商業放送だから、売り上げの立つタイムテーブルを作らなければならない。ものすごく費用を投下しても、広告主に高く評価されず、視聴率も低く、系列局も評価しない番組があった。最終的には現場の判断に任せているが、そういうものは企画を変更しなくてはいけないし、タイムテーブル全体の構造も変えていく必要がある。聖域なきという言葉は好きではないが、一から見直していった。

――具体的にどんな指示を出していたのですか。

「視聴率を上げるためならどう変えてもいい」という命を受けた社長ですから、「視聴率を上げることが大命題だ」と編成のトップには伝えた。「会社として協力できること、社長ができることはやる」と言って、編成の希望する組織、陣容を作るように指示した。

また、タイムテーブル改革のために人事異動の時期も変えた。社員の異動が役員選任後の7月だと、現場の陣容が整わない中で10月の番組改編となり、思い切ったことができない。今年は社員の人事を4月に変え、10月に向けて番組制作も営業もできるようにした。考えついた企画を育てようとしていた最中に変わってしまった社員もいたかもしれない。荒療治になった部分もあると思うが、非常事態だからこそ進められたことだった。

――3月に「めちゃ×2イケてるッ!」と「とんねるずのみなさんのおかげでした」というゴールデンの長寿看板番組が終了しました。これはトップの指示もあったのでしょうか。

「偉い人への忖度(そんたく)がある」とか、メディアにはいろいろと書かれてきたが、タイムテーブル全体を強くするためならば、社としてやればいい。もちろん、出演者の方や関係者に礼を尽くし、段取りを間違えないように手続きを取らなくてはならない。社長が決めたのかとよく聞かれるが、最終的には全部現場の判断に任せている。ただ、会社が非常事態を宣言している中、現場も何をすべきか覚悟してくれたのだと思う。

――亀山千広・前社長は「まずはドラマで話題を呼び、バラエティーで視聴習慣を根付かせ、報道番組で信頼を得る」と話していました。

非常事態でないときは、それは当然やるべきこと。ただ、今のフジテレビは非常事態なので、そんなことも言っていられない。バラエティーでもドラマでも、ゴールデンやプライムにある番組で、とにかくヒット企画を出すことがいちばんだ。

多くの部署でコスト意識を高めた

――一方、昼のバラエティー「バイキング」や、午後の情報番組「直撃LIVE グッディ!」などは上昇基調が続いています。

デイタイムの番組の系列局の視聴率はフジテレビよりも高い。岡山放送にいたからよくわかるが、地方では都会の情報のニーズも強い。「めざましテレビ」などはファッション情報や若い女性向けのお店の情報などもプラスになっているのではないか。


「『フジテレビが強くなってくれないと、われわれも困る』と言われた」(撮影:尾形文繁)

また、バイキングは旬のテーマを掘り下げる部分で、週刊誌よりも早く知ることができるし、さまざまな出来事を評価する材料になる。コメンテーターの意見が必ずしも一致しないところがいいのではないか。それをMCの坂上忍さんが余計に散らかすのが受けている(笑)。視聴者には気持ちよく見ていただいているのではないか。

――一連の改革についてどのような反応がありましたか。

外部のプロダクションの方などから「フジテレビが新しい企画を打ち出すなら協力したい」といった声が直接私にかかってきている。お世辞だと思うが、「フジテレビが強くなってくれないと、われわれも困るんだよ」と、そんな言葉もいただいた。

――タイムテーブル改革と同時に、コスト構造改革も進めてきました。

就任直後、2017年度上期の決算は8億円の赤字だった。5期連続の減益が続いていたので、それをストップして増益にすることが第1目標だった。テレビ局というソフトの業界にとって、クリエーティブな部分と、番組制作費などの使えるお金は深く関係している。ただ、利益を出すためには、番組制作をはじめ、多くのセクションでコスト意識を高めなければならなかった。コスト削減は社長としていちばんつらい。現場には苦労をかけていると痛感している。

――フジ・メディア・ホールディングスとして、フジテレビが増益を続け、グループを牽引する中期経営計画を発表しています。このような組み立てになった理由は?

グループの中核であるフジテレビが頑張って利益を上げないと、増益体質にならないという思いからだ。売り上げや利益の基になる視聴率が本当に上がるのかという声もあったが、業績が上がれば番組の企画や制作に投資できるお金も増えていく。間違いないように手を打つことで、視聴率を上げることができると思っている。

――6月に公開した是枝裕和監督の『万引き家族』(フジテレビが制作)は興行収入40億円超のヒット。7月公開の『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』も90億円を突破するなど、歴代実写邦画でも指折りの作品になりました。

コード・ブルーは2017年の月9ドラマでも、見逃し配信や(録画視聴を含めた)総合視聴率でいい数字を出していたので、早めの映画化の話が出てきて、これは来るぞと思っていた。ドラマから映画のヒットにつなげるという、フジテレビの得意技がようやく、何年かぶりにできたと思う。


Ⓒ2018『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』製作委員会 ドラマ制作とほぼ同時期に映画化が企画され、早いタイミングでの公開となった。日本実写邦画史上屈指のヒット作だ

今、テレビの広告収入だけで生き残れると考えている同業他社のトップはいないだろう。プラスアルファの利益の源泉を作り出していくという点では、『万引き家族』や『コード・ブルー』のような映画の大ヒットがあり、今期は助けられている。私が社長のときにこうしたヒットが出てきたのはありがたいことだ。月9ドラマが2ケタの視聴率を取るようになり、イベントもヒットしている。このような連鎖をさらにつなげていくことができれば、中期経営計画も順調に達成できるのではないか。

3年先見据え、今から手を打つ

――宮内社長が今後、力を入れるポイントは何でしょうか?

まずはこの3年間で中期経営計画どおり、フジテレビとしても、グループとしても利益を出し、次の投資につなげていきたい。さらに、3年先に何に投資していくかを考え、今から手を打たなければならない。配信事業やイベントなど、選択肢が多すぎて悩んでいるところだ。

――社長就任時のインタビューでは、視聴者との感覚のズレ、心のキャッチボールができていないことが視聴率低迷の原因と分析していました。

キャッチボールだってエラーはある。ズレはあってはいけないというものではなく、精度の問題だろう。ズレがまったくなければ、これまでなかったような新しい番組にチャレンジすることもできない。視聴者との差が埋まってきているからヒットが出始めているのだと思う。大事なのはヒットをつなげていくことだ。

コード・ブルーでは、多くの視聴者の方がドラマを見て感動して、映画館にも集まっていただいた。そういう場を作ることも仕事だ。テレビ番組はもちろんだが、美術展などのイベントも含め、人々の心の広場を作るというか、そんな役目があるのではないか。テレビ局として、そんな仕事をたくさん手がけていきたいと思っている。