サーバント型のリーダーシップは、部下の言いなりになるといった意味ではない(写真:metamorworks/iStock)

青山学院大学が第30回出雲全日本大学選抜駅伝で優勝を果たしました。出雲での優勝は2年ぶり4度目ですが、11月の全日本大学駅伝、正月の箱根駅伝の3大会を制する年度三冠挑戦を狙うチケットを得たことになります。


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年度三冠を達成すれば2度目になりますが、そんな偉業に挑戦する原監督はレース後、

「1回目の初優勝をした時は私自身が君臨型(以後の支配型)でやってきたが、今はサーバント型で選手自身が自分自身の気持ちで頑張ってくれた。学生には感謝したい」

とコメントしていました。指導法=リーダーシップスタイルを変えながら、勝ち続けているということなのでしょう。

ちなみにサーバント型とは何を意味するのか。最近耳にする機会も増えていますが、この記事では、職場の上司部下間での活用や今後のあり方について考えてみたいと思います。

サーバント型と支配型、それぞれのリーダーシップ

サーバント型とはリーダーシップのスタイルの1つ。アメリカのロバート・グリーンリーフ博士が提唱したリーダーシップ哲学で「相手に奉仕し、その後相手を導く」という考え方に基づくものです。

部下の主張を何でも聞き入れるとか、言いなりになるといった意味ではありません。部下に対して、奉仕の気持ちを持って接し、どうすれば組織のメンバーの持つ力を最大限に発揮できるのかを考え、その環境づくりに邁進すること。

一方、その対極にあたるのが支配型です。リーダー自身の考え方や価値観を貫き、部下を強い統率力で引っ張っていきます。

この支配型こそ、過去にはスポーツでチームが勝利するための鉄則でした。皆さんも「俺についてこい」とチームを引っ張り、熱血指導を前面に出して勝利した指導者の名前は何人も挙げることができるのではないでしょうか?

ところが原監督のように部下を支えるために存在するサーバント型でこそ勝利が近づくことが証明される時代になりました。後述しますが、スポーツだけでなくビジネスの世界でもサーバント型が成果を出す近道と考えられるようになりつつあるようです。

具体的にサーバント型の上司になるにはどうしたらいいのか? 部下に対する傾聴・共感・気づき・成長へのコミット・コミュニティづくりの行動が必要とされますが、加えて、きめの細かいコミュニケーションが求められます。

・教え上手
・相談されるのが喜び
・細やかな気配り
・親しみやすい姿勢

上司が言わなくても結果が出る組織への変革

こうした行動・言動を心掛けなければなりません。メリットは大きく、支配型の上司のもとで働く部下にありがちな「指示待ち」を排除して、主体性が醸成され、上司が言わなくても結果が出る組織につながるのです。これがサーバント型の上司の目指す姿です。まさにイマドキの時代にあった上司イメージとも言えます。

ただ、簡単ではありません。すでに長く支配型で君臨してきた上司には、180度の方針転換が迫られます。取材した外食チェーンの店長であるSさんは、

「同じことを何回も言わせるな」

「口答えせずにやりなさい」

が口癖の、支配型の上司でした。ところが会社の方針で「店長はサーバント型に変わるべき。それができない人には店長を降りてもらう」とのメッセージが込められた研修が行われました。さらにサーバント型の上司を実践しているのかを確かめるため、定期的に店舗スタッフによる360度評価が店長に対して行われるように。生活もあるSさんは、サーバント型へ転向をする決意をしました。ある日から、

「何か困ったことがあればいつでも言ってほしい」

「ミスは仕方ない。次に頑張ればいいから」

と昨日までとまったく違う接し方に転換しました。この転換に部下たちは戸惑いを感じつつも、会社の方針に合わせた店長の努力を支持して、店はいい雰囲気に変わっていきました。

これまでは店長の顔色をうかがい、スタッフたちがビクビクして暗い雰囲気だったのが、大きく変わったのです。

ところが予想外のことが起きました。雰囲気はよくなったものの、店の業績は下降を続けました。店長による叱責がなくなり、スタッフたちの緊張感が緩み、

・お客さまからのクレームの増加

・集客プランのマンネリ化

などが起きたのです。当然のように業績が下がれば本部から店長に対して「しっかりしてほしい」との叱咤が行われます。すると店長が本部に言い返したのです。

「サーバント型で業績が下がるのと、支配型で業績が上がるのとであれば、本部はどちらがいいですか?」

店長は我慢の限界を超えたようでサーバント型を封印、元の支配型に戻してスタッフを厳しく指導するようになりました。その結果として業績は下降が止まったのです。となれば、支配型のほうがよかったとなるのでしょうか?

エン転職の調査によると30歳以上の転職希望者に「サーバントリーダーと支配型リーダー、どちらと働きたいですか」と質問したところ、77%の方がサーバント型と回答。一方で現在(もしくは直近)の上司は6割以上の方が支配型とのこと。部下たちは厳しい上司のマネジメントに耐えているのかもしれません。

ただ、部下も上司もサーバント型に対して間違った認識をしている可能性があります。部下からすれば、

サーバント型の上司になれば自由で楽

上司からしても、

サーバント型の上司は部下に対して無責任

といった認識に陥っていないでしょうか。上司が何事も優しく擁護してくれ、業績が下がっても「気にするな、次、頑張ればいいから」と許すだけ。そうならば、部下にとっても支配型でやってきた上司にとっても、気楽なことでしょう。

高い目標を達成するための努力を部下に求める

しかし、サーバント型の上司に期待されることは違っています。支配型と比べると部下たちは自由に発言しやすくなり、コミュニケーションが円滑になりますが、目指す目標を達成する意識は同様に求められます。ゆえに放任するのではなく、

「できなかったことを繰り返すわけにはいかない。次のアクションを具体的に考えよう」

と指導に関してはむしろ厳しさが必要になるのです。

サーバント型で業績が高まった組織の部下たちに取材すると、仕事に対する取り組みはむしろ厳しくなったとの回答が大半です。支配型の上司のように威厳を示すことはないものの、これまで以上に部下に期待するがための変化なわけです。高い目標を掲げ、それを達成するための努力を部下に求めることになります。

取材したベンチャー企業では、サーバント型のリーダーシップができる人材を管理職に登用。部下の役に立つため「何か困っていることはないか」と上司は手厚い対話を行います。部下たちは目標達成を期待されているプレッシャーをひしひしと感じていました。

部下にインタビューすると「支配型の上司に言われたことだけやっていたときのほうがはるかに楽だった」と答えてくれました。サーバント型に転換することは部下と上司、それに加えて経営陣がそれなりの覚悟をして取り組むテーマと考えるべきなのです。

チームの勝利のためにサーバント型を選んだ青山学院の原監督のようなマネジメントはスポーツ界でさらに広まっていくでしょうが、それは決して簡単なことではないのです。同じようにビジネスでサーバント型が広がるためには、成果につなげるコミュニケーションと手厚い対話が必要なのかもしれません。