Bリーグファイナル2017-18。日本人選手が速攻からダンクを試み、背後から外国人選手がブロック。ダンクにいった日本人選手はファウルだと猛抗議し、テクニカルファウルをコールされる。かつて日本のバスケシーンで、こんな光景があっただろうか?


ファイナルで戦ったアルバルク東京の田中大貴(左)と千葉ジェッツの富樫勇樹

 新世紀に足を踏み入れた日本バスケ、2年目のBリーグを振り返る――。

 シーズン開幕前、すでに今季の勝者は決まっていたのかもしれない。

 昨シーズン終了直後、アルバルク東京(以下、A東京)のHCに、ルカ・パヴィチェヴィッチが就任。男子日本代表の暫定HCも務めたルカは、練習が厳しいことで知られていた。33歳のベテランの菊地祥平(東京/SF)は、今季の契約前にルカからこう言われている。

 ※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

「私の練習は厳しい。ベテランもルーキーも同じように扱う。それでもよければ契約してほしい」

 宣言通り、練習は過酷だった。「学生時代を含め、所属したチームで一番練習は厳しい」と菊池は振り返る。2部練は当たり前、時には厳しすぎる練習に故障者も出た。それでもルカの信念は揺るがなかった。

「ケガ人が出たら、普通の監督なら練習量を落とす。ただ、ルカはブレない。ケガ人が出ても、出なくても練習量は同じ。ディフェンスもオフェンスも、動きが体に染みつくまで、同じ練習を繰り返しました」(菊池)

 このハードな練習の結果、昨季は勝敗がよくも悪くも、スピードスター、ディアンテ・ギャレット(SG)の調子次第だったチームは、大きく変貌を遂げることとなる。

 長年、日本代表を背負ってきた竹内譲次(PF・C)、今後の日本代表を背負う田中大貴(SG)、馬場雄大(SF)を要するリーグ屈指のタレント集団・A東京は、ピック&ロールが今季の代名詞のように語られたが、彼らの背骨となったのは、長時間かつ濃密な練習だ。
 
 2017年9月29日、レギュラーシーズンが開幕。

 初代王者の代償か、田臥勇太(PG)率いる栃木ブレックスがつまずく。優勝に貢献した主力の多くが他チームから声がかかりチームを離れ、戦力ダウンは明白だった。さらに大黒柱のジェフ・ギブス(PF・C)が昨季ファイナルでアキレス腱を断裂し、開幕には間に合わなかったことも出遅れた大きな要因だ。

 レギュラーシーズンは、ハイレベルな東地区をA東京、千葉ジェッツ(以下、千葉)が牽引、川崎ブレイブサンダースが追いかける形に。中地区はシーホース三河、西地区は琉球ゴールデンキングスがそれぞれ独走した。 

 上位混戦も、今季の中心にいたのは間違いなく千葉だった。チームの核となるはずだったトニー・ガフニー(PF)が、11月末にイスラエル・スーパーリーグのハポエル・テルアビブに引き抜かれる形で退団。さらに、エースの富樫勇樹(PG)が故障で長期離脱を強いられるも、持ち前のチームワークとベンチワーク、そして機動力で白星を積み重ね、今年1月に行なわれた天皇杯を昨年に続き制覇している。 

 最終的に、リーグ最高勝率こそシーホース三河(48勝12敗)に譲ったものの、より強豪チームとの対戦が多い東地区で千葉が残した46勝14敗の方が、価値が高いという見方さえできる。

 5月12日に幕を開けたチャンピオンシップ。

 千葉はクォーターファイナルで川崎ブレイブサンダースと対戦。川崎は、4月末に昨季の得点王、ベスト5、年間MVPに輝いたニック・ファジーカス(C)が帰化。オン・ザ・コート1のクォーターでも、ファジーカスと外国籍選手を同時にコートに送り出せることとなり、チーム力が格段に向上した。

“事実上のファイナル”とも囁かれた好カードは、第3戦までもつれた末、千葉が勝ち、その先へ名乗りを上げる。千葉は続くセミファイナルで、琉球ゴールデンキングスに連勝しファイナルへと駒を進めた。

 余談となるが、ファジーカスは今後の日本代表での活躍が期待され、東京五輪に向け、日本の大きな戦力となるはずだ。さらに、川崎はプロ野球の横浜ベイスターズも手掛けるDeNAにクラブ運営権が移行。ファジーカスとの契約を早くも済ませた川崎が来季、リーグの台風の目になることは間違いない。これは、備忘録として書き留めておきたい。
 
 一方のA東京は、クォーターファイナルで京都ハンナリーズと対戦。京都の得点源、ジョシュア・スミス(C)が出場停止中だったこともあり、A東京が連勝で勝ち上がる。

 セミファイナルでは、栃木ブレックスを破ったシーホース三河と対決。比江島慎(SG・SF)、金丸晃輔(SG・SF)、桜木ジェイアール(PF)らを擁し、圧倒的な攻撃力を持つ三河を、A東京は持ち前の守備力で上回りファイナルへ進む。

 そうして迎えた、千葉とA東京のファイナル。泣いても笑っても、今シーズンのラストゲームに、会場となった横浜アリーナには1万2005人の観客が詰めかけた。

 緊張感溢れる試合は、常に1桁台の点差で進む。拮抗した天秤がA東京に傾いたのは、第2Qの終了間際。残り4秒で千葉のレオ・ライオンズ(SF・PF)がオフェンスリバウンドからシュートをねじ込み33-40。7点差で前半を終えるかと思えた瞬間、ハーフコート付近からA東京のジャワッド・ウィリアムズ(PF)が放った3Pシュートがネットに吸い込まれ33-43に。この試合、初めて2桁点差がつき前半が終わる。勝利の女神がA東京に微笑むことを予感させるワンシーンとなった。

 後半、千葉はジリジリ追い上げるも詰めきれないまま時間が過ぎていく。

 第3Q残り4分10秒、A東京の馬場が速攻からダンクを試みる。それを背後からギャビン・エドワーズ(PF)がブロック。馬場はファールをアピールするもノーファールで試合は続行し、抗議を続ける馬場にテクニカルファールの笛が吹かれた。与えられたフリースローを富樫が沈め、47-52と5点差に。しかし、A東京の控えPG、小島元基の3Pシュートなどの活躍で、試合は再び2桁点差となる。

 千葉は懸命に反撃の糸口を探すが、A東京は各選手が基本5分、エース富樫をマークするスターターPG安藤誓哉(せいや)に至っては、小島とほぼ3分間隔で交代を繰り返した。A東京は常にフレッシュな状態でコートに立つ選手が、常にマークマンにプレッシャーを与え続ける。シーズンを通して行なった厳しい練習で作り上げた鉄壁のディフェンスは、40分間を通じて綻びを見せなかった。
 
 試合の機微を嗅ぎ分ける能力と、選手交代のうまさでいくつもの勝利を積み重ねた千葉の知将、大野篤史HC。試合残り41秒、大野HCのシーズン最後の采配は、今季限りで引退を発表している”イートン”のニックネームで愛された38歳のベテラン伊藤俊亮(C)をコートに立たせることだった。

 イートンが現役最後のシュートを放った30秒後、試合終了のブザーは鳴った。

 最終スコア60-85。A東京が今季の王者に輝く。
 
 A東京は、今季の王者に相応しい。ひとかけらの疑いの余地もなく、今シーズンのチャンピオンだ。

 ただ、あるベテラン外国人選手の言葉を思い出す。

「3戦先勝ならば、ほぼ実力通り。ただし、一発勝負なら投げ上げたコインのようなもの。裏と表、どちらが出るかは誰にもわからない」

 少なくとも、このファイナルで、千葉のエース富樫のコインは裏が出た。

 シーズン終盤にケガから復帰した富樫の好不調の波は、試合ごと激しく安定しなかった。

 クォーターファイナルの対川崎戦では、第2試合で3Pシュート6本を含む8本のシュートすべてを外し0得点に終わっている。しかし、1勝1敗となり、前後半各5分で行なわれた第3戦で、富樫は7得点。しかも、ファジーカスとジョシュ・デービス(PF)に囲まれながら沈めたフローターが、試合を決定づけている。

 結果は誰にもわからない。それでも、もしファイナルが2戦先勝ならば、どんな結末を迎えたのか。約7カ月にわたり、60試合もの長期戦で行なわれるレギュラーシーズンの覇者を、一発勝負で決めるのは寂しすぎる。クォーターファイナル、セミファイナルが2戦先勝であるからなおさらだ。

 ただ、シーズン開幕前に48歳ながら未だ現役、球団社長でありBリーグの理事でもある折茂武彦(レバンガ北海道/SG)は言っていた。

「リーグの改善すべき点はいくらでもある。ただし、すぐにNBAのようなリーグになることは不可能。まだ生まれたばかりヨチヨチ歩きのリーグなのだから。改善できる点から改善し、トライ&エラーを繰り返していくしかない」

 実際、2年目のBリーグは成長を数字で証明している。

 今季レギュラーシーズンの総入場者数はB1、B2、合計で240万925人。開幕1年目だった昨季の214万7628人から約12%増加した。

 ファイナルが一発勝負なのは、テレビ放送や会場の関係だと想像できる。リーグが成長を続け、ファイナルが3戦先勝に、そしていつかはNBAのように4戦先勝になることを願ってやまない。

 試合終了後、名残を惜しむように満員のアリーナを見渡していたイートンは言った。

「以前より、レベルの高い外国人選手も来日するようになっている。年々、日本人選手のレベルも間違いなく上がっている。ただ、大学卒業後(2002年)からトップリーグでプレーし続けて感じるのは、1年で飛躍的にうまくなる選手も、成長するリーグもないということ。一足跳びには成長できない。Bリーグも、日本バスケも、一歩ずつ成長していくしかない」

 優勝セレモニーを終え、A東京の選手がミックスゾーンに現れる。馬場雄大は「あのブロックはファウルです」と笑った。

「リーグのレベルが上がっているかどうかは、僕は1年目なので比較できない。ただ、僕個人のことで言えば、まだまだうまくなれる。そのためにやっているので。僕たちがリーグを引っ張っていこうと思います」

 2シーズン目の幕を閉じたBリーグ。それは同時に、3シーズン目への幕開け。そして、何十年後かに、「そんな時代もあったね」とバスケファンが笑いながら話す日へと辿り着くための一歩だと信じている。

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