先日掲載の「プーチンの脅迫に欧米激怒。25カ国がロシア外交官を追放した理由」などでもお伝えしているとおり、イギリスで起きたロシア人元スパイ襲撃事件を「プーチンの指示によるもの」とする欧米各国とロシアの対立が深まっています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんがこの事件の真犯人を探るとともに、我々日本人も欧米とロシアの情勢を正確に把握すべきであると訴えています。

ロシア外相、ダブルスパイ殺害未遂は英の【自作自演】!!!

ロシアのラブロフ外相は、イギリスで起きたダブルスパイ暗殺未遂事件について、「自作自演説」を披露しています。どういうこと????

3月4日、イギリス・ソールズベリーで、ロシア人スクリパリさん、娘ユリアさんが重体で発見されました。スクリパリさんは、ロシアの元諜報員。しかし、祖国を裏切り、イギリスの諜報機関に情報を流していた。ロシアでは、「裏切り者」「売国奴」として知られています。

問題は、二人の殺害未遂に使われた「道具」です。ロシア製神経剤「ノビチョク」だと推定される。神経剤といってもわけわかりませんが、要は「化学兵器」。スクリパリさんの過去から、イギリスは、即座に「犯人はロシアの可能性が高い!」と宣言しました。

ロシアは、NATO加盟国であるイギリスを、『化学兵器』で攻撃した!」

こういうロジックで、メイさんは、欧米諸国に「みんなで一緒にロシア制裁しましょう!」と呼びかけます。そして、ものすごく成果があったのです。アメリカ、EU諸国、カナダ、オーストラリアなど、なんと25か国が「ロシア外交官追放」に同意した。特に、多くの外交官を追放したのは、アメリカ60人、イギリス23人、ウクライナ13人など。

そして、ロシアも反撃しました。ロシアは、23か国の外交官を追放。アメリカの外交官を60人、イギリスは50人。ここまでが、前々号までに起こったことでした。

ロシア外相、ダブルスパイ殺害未遂は、イギリスの「自作自演」

こちらをごらんください。

スパイ毒殺未遂は「英政府に利益」 ロ外相が独自見解

4/2(月)20:53配信

 

【AFP=時事】ロシアのセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相は2日、英国で起きたロシア人元スパイ毒殺未遂事件について、ブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)をめぐる問題から注意がそれることになり、英政府の利益となる可能性もあるとの見解を示した。

「毒殺未遂事件」は、「英政府の利益となる可能性もある」そうです。ええ??? どういうことでしょうか?

ラブロフ外相は記者会見で、「英政府はブレグジットの条件に関して有権者との約束を果たせずにいる気まずい状況にあり、事件が利益となる可能性もある」と指摘した。

(同上)

これは何でしょうか?

殺人事件が起こった。警察や探偵は、「この殺人で得をするのは誰かな???」と考えるでしょう? イギリスは、「スクリパリは、ロシア諜報機関を裏切った売国奴だから、ロシアが殺そうとしたのだ」と断定した。つまり、「ロシアの利益だ」と。

一方、ロシアは、「いや、イギリス政府も、スクリパリが死んで得をする立場だ!」と反論した。つまり、ラブロフさんは、「イギリスは、自分でスクリパリを殺そうとして、その罪をロシアになすりつけた」と。断言はしていないものの、大人なら誰でも、彼が「自作自演説」を主張していることがわかります。

日本国民の99%は、「ラブロフ外相陰謀論者!」と思うでしょう???

ロシアでは、イギリス「自作自演説」が「定説」!

ラブロフさんの話、日本人も世界のほとんどの人も、「こじつけ陰謀論だ!」と思うでしょう。しかし、そう思わない人たちもいます。そう、ロシア国民です。

この事件、3月4日に起こりました。ロシアでは、3月18日に大統領選挙があった。事件直後、ロシアメディアは、「プーチンが、大統領選挙直前に裏切り者殺害を指示し、わざわざ自分の評判を下げるリスクを犯すはずがない!」と大々的に、継続的に報道された。そして、「イギリスが、プーチンを選挙で負けさせるために自作自演したのだろう」、そういう報道が、連日行われている。

皆さん、この「説」どう思いますか? ロシア国民のほぼ全員が、この説を信じています。ロシアにも、細々とですが、反プーチン勢力がいます。彼らですら、ラジオやユーチューブで、「プーチンがこんなバカなことをするはずがない」という意見。

結果どうなったか? 皆さんご存知のように、プーチンは76%の得票率で、圧勝しました。もし、「プーチンがスクリパリ暗殺を指示した」と国民が信じていれば、こういう結果にはならなかったでしょう。ロシアは、世界における情報戦で、かなり劣勢です。しかし、国内における情報戦には、圧勝したということですね。

英研究所も、ロシア製と証明できず

そして、ロシアの主張に有利な情報がでてきました。

スパイ毒殺未遂の神経剤、ロシア製と証明できず 英研究所

4/4(水)8:40配信

 

【AFP=時事】英国防科学技術研究所(Defence Science and Technology Laboratory、Dstl)は3日、ロシアの元スパイ毒殺未遂事件に使用された神経剤を分析した結果、ロシア製だと証明することはできなかったと明らかにした。

「英国防科学技術研究所」は、「ロシア製だと証明することはできなかった」そうです。ということは、少なくともメイ首相の、

ロシアがやった発言欧米25カ国が外交官を追放

これは、「現時点で犯人が確定していないにも関わらず実行された」ことになります。

イギリスは、スクリパリの娘で挽回を目指す?

ちなみに、スクリパリの娘ユリアさんは、回復し、話もできる状態だそうです。彼女の証言が注目されます。しかし、常識的に考えて、彼女は「何が起こったのか?」「誰が殺しを指示したのか?」知らないでしょう。ですが、スクリパリさんは、ロシアを裏切りイギリスの諜報と通じていた。プーチンは、裏切り諜報員について、過去に「豚野郎!」といったり、裏切ったことを「1,000回後悔するだろう!」と語ったことがある。ユリアさんの脳裏に最初に浮かぶ「犯人」は、間違いなくロシアでしょう。それで、ユリアさんは、「反プーチンの広告塔」として、イギリスに重宝される可能性が高いです。

ところで、真犯人は誰なのでしょうか? そんなことは、わかりません。もしその辺の評論家が、「あれは絶対イギリスの自作自演です」とか、「あれは間違いなくプーチンの仕業です」と断言しているなら、それは「知ったかぶりしてるだけ」といえるでしょう。ただ、「イギリスとロシアの関係は、メチャクチャ悪い」ということはわかります。そして、イギリスは現状24か国を味方につけ、ロシア孤立化にかなり成功している。

1939年8月、平沼騏一郎総理は、「欧州の天地は複雑怪奇!」と絶叫して辞任しました。日本の首相は、第2次大戦がはじまる1カ月前に、「欧州で何が起こってるか、さっぱりわからんぜ!」と告白している。そんな人が国のトップであれば、日本は負けるに決まっています。

「世界情勢が理解できず、翻弄されて、また大敗北」とならないよう、欧米とロシアの情勢もきちんと把握しておきましょう。

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