「たのしいクルマ」の定義とは? 必須条件と、その模範解答
もくじ
ー 「たのしいクルマ」の必須条件
ー まだまだある、必須条件
ー 「たのしいクルマ」の模範解答
ー パッケージングという武器
ー そのほかの「たのしいクルマ」
「たのしいクルマ」の必須条件
まず、ご自身で運転が楽しいと思うクルマを考えてみてほしい。次に、ほかのひとにも同様に運転が楽しいと感じるクルマを考えてもらう。
わたしの場合、そのクルマはフェラーリだ。わたしが子どもだった頃、フェラーリはクルマが持つ興奮を表現する究極だった。
恐らくほかのひとにとって、それはポルシェやケーターハム、ホットハッチなど千差万別だろう。運転が楽しいクルマといった場合、様々な理由や思いなど多様な事柄が関係しているものだ。
千差万別だからこそよい。
ここでは、スペックではなく合理的な判断基準をいくつか定め、運転することが楽しいクルマに求められる重要な要素を考えてみたい。
驚かれるかもしれないが、最高出力やグリップ、ハンドリング、ブレーキ性能に関しては置いてきたい。これらは価格を反映するものだからだ。
わたしが今まで運転したクルマの中で最高の1台はフェラーリのラ フェラーリだが、ベッドの下に数百万ポンドでも隠し持っていない限り、わたしの言葉に実感は持てないだろう。
高価なクルマであるほど、楽しめるひとは限定されてしまう。そして、本当にラ フェラーリを運転する機会があっても、可能な限りスピードをだして走行するだろうか? 多くのひとはしないはずだ。コーナーでのドリフトなど、言うまでもない。
ラ フェラーリの場合、サーキットでは夢中になれるが、路上にでると欲求不満に近いものを感じてしまう。全幅が2mもあるクルマでコーナーを抜けている時に対向車線からバスでも来たら、思わず息を飲んでしまうに違いない。路上でクルマを楽しむ場合、英国では特に、比較的コンパクトなサイズが必要条件である。
さらに大切なこともある。
まだまだある、必須条件
さらに重さ。車重1トンの300psのクルマは、車重2トンの600psのクルマと同じパワーウエイトレシオを持ち、加速などの動力性能はほぼ同等と言える。この時、どちらのクルマを運転したいと思うだろうか。
最高出力が高いほど速く加速することは可能だが、軽量化は加速だけでなく、路上で感じるクルマの印象の大きく左右する要素となる。
グリップ力はどうだろう。自動車メーカーがクルマの魅力として可能な限り高いグリップ力を提供するべく努力している点は、少し不思議でもある。
もちろんグリップが弱過ぎるとスピードをだすこともできないのだが、「適度であること」が重要だと思う。そのバランスは、これらの悩ましい要素の中でも非常に重要な項目になる。
アンダーステア傾向が強すぎるクルマは退屈だし、オーバーステアの傾向が強すぎるクルマは危険度が増す。ドリフト走行を好むようなひとでも、通常は曲げた分だけ曲がるクルマが望まれるはずだ。
実用性も実は不可欠な要素だ。クルマには様々な趣味の道具を積むこともできるし、夜通し走って好きな場所にも行ける。
あるいは、理想的なコンディションでない限り運転したくないというひとも中にはいるだろう。旅行に行けないようなクルマって、楽しいだろうか。
乗り心地もクルマの楽しさとは深い関係性がある。不快であることは、楽しさを阻害するに違いない。もし乗り心地が硬すぎれば、路面の起伏を逐一拾い安定性は悪化し、楽しさとは程遠いものになってしまうだろう。
そして、駆動輪とエンジンの搭載位置、マニュアルかATかなど、ドライブトレインという重要な要素がある。電動パワーステアリングの感触は、油圧式と比較される要素だ。
また、運転席からの視認性は、運転を楽しむ上で欠かせない。排気音はどうだろう。そして、馬力よりもトルクの方が運動性能という点では大切になってくる。
頭の中でこれらの複雑な要素を組み合わせて考えてみると、1台のクルマをすぐにわたしは思い浮かべだ。
「たのしいクルマ」の模範解答
全ての要素で最高のスコアを獲得しているわけではないが、少なくともわたしの机上では、ポルシェ・ケイマンが総合得点で最も優位なクルマだ。
勘が鋭いひとは、そのポルシェ・ケイマンが通常の現行モデルではないと気づいたかもしれない。
現在の718ケイマンSに載っているのは、議論の余地が残る水平対向4気筒エンジンだが、非常に良く仕上がったドライビングマシンであることは間違いない。
しかし色々な意見があるにしろ、NAの水平対向6気筒エンジンはその存在を無視することはできない。
水平対向6気筒エンジンを積む新車価格約£80,000(1,135万円)のケイマンGT4だが、ランニングコストもそれなりに必要となるため金銭面ではあまり評価できるクルマではない。
しかし、年式や走行距離を気にしなければ、英国では£10,000(142万円)ほどでケイマンのオーナーになることも可能ではある。
そして、ケイマンと呼ばれるクルマは全て優れた視認性を持ち、コンパクトで、ドライビングポジションも最適で乗り心地も良い。フロントには荷室が備わり、休日のロングドライブや旅行にも最適な1台だ。
しかも軽く、GT4はほぼ1400kg。3800ccの水平対向6気筒エンジンを搭載したクルマには悪くない数字だ。後輪駆動のジャガーF-タイプV6 Sクーペは同じ385psながら、およそ1600kgある。
ポルシェの戦略は、基本的な部分をしっかり押さえている。車重が増えるとパフォーマンスが悪くなる。全幅が広過ぎたりサスペンションが硬過ぎた場合、技術的に努力しても欠点を補うことはむずかしい。
パッケージングという武器
マニュアルシフトは最高のフィーリングで、エンジンは非常に良いサウンドを聴かせてくれる。
ステアリングホイールだけ見ても、サイズは十分な大きさがあり操舵は比較的穏やかで、路面の感触を確かに伝えられるようにステアリングホイールの表皮の質感までエンジニアが考慮している。
そしてシャシーが素晴らしい。
セオリーではフロントエンジンの場合、トランスアスクルとすることで若干リア寄りの重心となり、最良の重量バランスを得ることができるとされている。しかし、重量物がクルマの中心部からは離れた位置に備わるため俊敏は向上するが、ミッドシップやリアエンジンのクルマほどのステアリングレスポンスやフィーリングとまでは至らない。
事実、ケイマンほどバランスの取れたクルマはほかにはないだろう。ミッドシップのクルマは慣性モーメントが非常に低く挙動は若干トリッキーではあるものの、ケイマンの場合は限界付近での挙動が掴みやすく、たとえ滑りだしたとしても多くのFRのスポーツカーよりもアジャストしやすい。
ケイマンで唯一の弱点といえば、リアシートを持たないためにひとによっては生活に合わない可能性がある、という点だけだと思う。
しかし、それを許容できる限り、ケイマンは最もファントゥドライブなクルマだとわたしは考えている。
ほかにも4台、同じようなクルマが思い浮かぶ。
そのほかの「たのしいクルマ」BMW M2
ポルシェ・ケイマンと同じくらい運転を楽しめるうえ、リアシートもボーナスで付いてくる。
なめらかな直列6気筒エンジンはターボラグをほとんど感じさせず、シャシーセッティングは遊び心に溢れ、乗り心地も非常に良い。
マツダMX-5 RF
リトラクタブルハードトップのおかげで日常的に使用できる可能性が高まり、ロードスターとの素晴らしい時間をより長く過ごすことが可能となった。
トヨタGT86
最高出力が全てではないという好例。軽量でコンパクト、素晴らしくバランスが取れた味付けなど、GT86はファントゥドライブな要素が詰め込まれたクルマだ。
さらに驚くべき低価格も大きな魅力である。
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI
フォルクスワーゲンの努力により、車重の重さや前輪駆動など、ファントゥドライブにつながる要素のルールを覆している。家族にも優しいパッケージを持った本物のドライバーズカーだ。