7月下旬に再登録されたビクトル・イバルボ。その献身性で鳥栖にフィットしつつある。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ20節]鳥栖 2-1 清水/8月5日/ベアスタ
 
 一度は登録から抹消されたものの、鳥栖のFWビクトル・イバルボがイタリア・セリエAのカリアリからのレンタル移籍ではなく、完全移籍となって追加登録となった。1か月近いブランクがあったせいか、前節・広島戦では動きが重く見えたが、今節・清水戦では彼らしい輝きを放った。

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 なんと言っても彼の武器はキープ力だ。身長188センチ・体重79キロの体躯は強さを感じさせないどころか、細く見える体型だが相手が身体をぶつけてきても簡単に倒れることはなく、何事もなかったかのようにボールをキープし続ける。そのキープ力が清水戦でも光った。鳥栖の中盤を構成する高橋義希、原川力、福田晃斗も「ボールをキープしてくれるから僕たちが上がることができる」と口を揃える。

 だが、本人は「ボールを持って何かをする時間が自分は長いので、みなさんの注意がより集まり、チームの勝利に貢献したように見えると思いますが、それぞれの選手が役割を果たさないとサッカーは勝てません」と、あくまでも自分は自分の役割を果たしただけというスタンスを崩さない。

 中南米出身のFWというと、パスを欲しがり、ゴールに貪欲なエゴイストをイメージしがちだがイバルボは違う。むしろ、ボールを前に運んでラストパスを出したり、前線でボールを収めて味方の上がりを待ち、より効果的な攻撃へとつなげていく。結果的に決勝点となった原川のゴールをアシストしたシーンはまさにその典型例だろう。
「何よりも、ああいうゴールを決めたリキ(原川)をまず褒めてもらいたいですし、自分も彼が素晴らしかったと言いたい」とチームメイトのシュートを賞賛する。
 
 だからといって真面目一辺倒の堅物なわけではない。ロッカールームで原川はイバルボから「あのゴールは俺のお陰だぞ」と冗談を言われたそうだ。ピッチでは懐深いボールキープを見せ、献身的な守備で貢献するなど、セリエAで磨かれてきたプレーを度々見せるが、ピッチを出るとお茶目な一面も見せる。だからこそ、チームメイトは彼を信頼している。
「(期限付き移籍で加入して)短い期間でしたが、その時にずっとこのチームでプレーを続けたいと思い、クラブにリクエストしました。それを叶えてくれたので、モチベーションは高いし、このチームに何かを返さなきゃいけないと思っています。もちろん、ゴールできたらいいですけど、何よりも良いプレーをしてチームが勝てればそれが一番です」
 今後チームのなかで自分をどう活かしていきたいかを問うと、こうした答えが返ってきた。
 
 実は、ホームデビュー戦となった4月8日の新潟戦の前にも、イバルボはこれとほぼ同じ発言をしていた。まだリーグ戦でのゴールがないために、実力を十分に発揮したとは言い難い。それでも、ワールドクラスを感じさせるキープ力やパスでその片鱗を見せつけている。チームメイトを活かすことで、自らが輝きを放つ。ストライカーでありながら、そんな献身的なメンタリティを併せ持つイバルボは、まさに鳥栖の選手らしいと言える。
 
 それだけに、彼がどんなゴールを決めて、どう喜び、サポーターの祝福にどんなメッセージを返すのか。近く訪れるはずのその瞬間を楽しみに待ちたい。
 
取材・文:荒木英喜(フリーライター)