パレオ・ダイエットなど原始人の生活様式を参照することによって、人間が本来持つ能力や快適さを快復できるとする、ハーバード大学メディカルスクール、ジョン・J・レイティ医学博士とジャーナリストのリチャード・マニング氏の最新刊。食事の他に睡眠や運動、瞑想などについても言及されている

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最近「パレオ・ダイエット」と呼ばれる 食事法が注目を集めています。

詳しくは前編(「カロリー神話に対する挑戦 「原始人食ダイエット」とは?」)をご覧頂きたいのですが、人類が農耕を始める前の食事を基本としたダイエットです。

このダイエットが注目を集めるきっかけとなっているものの一つが昨年末に発売された『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』(NHK出版)。しかしこの本は単にパレオ・ダイエットを紹介するダイエット本ではないようです。

「人間にはそもそも、病気を防ぐ力や均整のとれた体型を維持する力、山や自然の中を走り回って移動できる能力が備わっています。その能力を使ってあげた方が体もハッピーになり、より幸せに生きられるようになります。この本はそういった人間の本来の力を引き出す方法を教えてくれる本です」

『Go Wild』の担当編集者の松島倫明さんは説明します。

実はパレオ・ダイエットの食事内容そのものは、細かい主義主張に目をつぶれば日本でも流行っている低糖質ダイエットとほとんど変わらないと松島さんは言います。ただ「原始人のライフスタイル」という補助線を引くことにポイントがあるというのです。

著者であるハーバード大学メディカルスクールのジョン・J・レイティ医学博士は、食事、睡眠、運動、瞑想などはすべて脳を通じ密接に関連しており、包括的に捉えることが大切だと説いています。そして原始人が送っていた生活こそ人間が本来遺伝子的に持っている特性に最も適していると考えています。

もちろん現代人が原始人のようなライフスタイルを送ることはできませんが、そのエッセンスを学ぶことによってより心身にとって快適な状態を作り出すことが大切はできるといいます。

食事に関していえばパレオ・ダイエットに基づいて多様なものを食べる食生活、運動に関していえばさまざまな動作を取り入れたクロス・フィット、山の中を走るトレイルラン、睡眠に関しては古代の環境に寄せた8時間睡眠、また森林浴や瞑想などを行うような生活を送ることが脳科学の観点からも体にいいという具合です。

私たちはともすれば、人類や他の生物は正の進化だけを遂げていると考えがちですが、ライフスタイルがいい形で噛み合わないと負の進化も見せてしまうことがあるということも指摘しています。

たとえばかつてはさまざまなものを食べていたコアラは、ユーカリ主体の食生活になってしまったため脳が退化してしまい、複雑な動きもできなくなってしまったというのです。

では心身をベストのコンディションに持っていくにはどうすればいいのでしょうか?

「この本で書かれていることをすべて実践できるとも限りません。たとえば睡眠に関しては一人で寝るより集団で寝た方がいいとありますが、一人暮らしの人がすぐに 誰かと一緒に寝られるわけでもないでしょう」

『Go Wild』の世界に魅了され、自らその生き方を希求するようになった松島さんは言います。

「そういう意味では食事を取っ掛かりにするのは入りやすいかも知れません。大切なのは、いろいろと試してみた時にどういう反応があったのか体と対話することだと思います。パレオ・ダイエットをしたら体調がどう変わったのか、森の中を散歩してどう感じたか、深呼吸して気持ちよかったのかなどの対話を繰り返していくことによって、体にとって何が心地いいのかがわかってくると思います。とにかく頭の中で考えるだけでなく、実際に体を使ってみると新しい視野が拓けてきます」

ヒットメーカーとして出版業界では有名な松島さん。熾烈なビジネス環境の中に身を置き「商業的文脈にまみれている」部分もあるといいます。そうしたものからいかにして自由になるかは、現代社会ではとても大事なのではないかと松島さんは言います。

「Wildな世界は、すごく楽しくて心地よくて最高です。早く多くの人にこっちの世界に来てもらえたらなと思います。あまり言うとカルトっぽく思われてしまうかも知れませんが(笑)」
(鶴賀太郎)