海外から福島復興を! 起き上がりこぼしプロジェクトとは?

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ヨーロッパ各地の日本イベントで来場者の目を引いていた活動がある。福島の起き上がりこぼしだ。起き上がりこぼしとは福島県会津地方の郷土玩具で、年初め十日市の縁日にて無病息災、家内安全、子宝を願い、家族の人数に1個加えた数を買い求め、1年間お供えする縁起物である。

イベントで並ぶこぼしは伝統的な絵付けのものではない。日本の有名漫画家や世界の著名人などがデザインした、色鮮やかでユニークなこぼしだ。じつはこれ、東日本大震災から2年後にフランスで立ち上がった「起き上がりこぼしプロジェクト」の一環だ。震災復興に対する応援と、原発事故による福島問題への理解・連帯を深めるため、ファッションデザイナー高田賢三さんが呼びかけ始まった。

起き上がりこぼしをきっかけに広がる復興支援とは一体何か? 同プロジェクトの運営責任者・渡辺実さんにうかがった。

――「起き上がりこぼしプロジェクト」を始めたきっかけは?
福島問題を考えるシンボルとして、起き上がりこぼしが世界に広がることで、東日本大震災復興に対する応援と同時に、二度とこのような原発事故を起こしてはならないという教訓、そして風評被害払拭の一助となることを願ったのが最初です。起き上がりこぼしは、本体の下部に重りが入っているため、倒しても起き上がる構造になっています。どんな困難に出合い何度倒れても、また起き上がるという、東北人の七転び八起きの精神を現します。世界各国のイベントを巡りながら、こぼしを絵付けし、共鳴の輪が広がって欲しいと思っています。

――いつから始まりましたか?
2013年3月11日、リヨン市庁舎における東日本大震災二周年復興祈念行事で、最初にこぼしを展示しました。高田賢三さんの呼びかけによりアラン・ドロン、ジャン・レノ、イネス・ド・ラ・フレサンジュ、ミシェル・クラン、ジャン・シャルル・ド・カステル・バジャック、ポール・ボキューズなどが、こぼしに絵付けをしてくれました。日本からは、ちばてつやさんに呼びかけていただいて、日本の漫画家の方々によるこぼしも多く集まりました。

同年6月には、日本とスペイン交流400周年記念行事が行われたマドリッドにて、スペインの方々に絵付けをしていただいたこぼし達も一緒に展示しました。現地では日本とスペインの両皇太子殿下にもご覧いただきました。

12月にはパリで展示会を行いましたし、今年に入ってからはコリア・デル・リオ、キエフ、トゥールーズ、サラゴサと巡回しました。特にスペインのコリア・デル・リオは、伊達政宗の家臣・支倉常長率いる慶長遣欧使節団の中で日本に帰らず現地に留まり「ハポン」という姓を名乗った子孫達が多く暮らす街なのですが、こぼし展のオープニングに合わせて特別なメッセージ動画も街の方々が製作していただいたりして、大変感銘しました。

――福島問題は欧州でも関心が高いですよね
日本のメディアと比べると報道のスタンスが異なります。また原発の是非について日本国内でもさまざまな意見があります。私たちのプロジェクトは、政治的な思惑などから距離を置き、原発問題に対するいろいろな考えを超えて、現実的に原発で苦しんでいる人、故郷から離れざるをえなかった人、原発事故収束作業のために日夜頑張っている人が多くいることを、まずは忘れないようにしようというメッセージをこぼしに託しています。そして海外イベントのワークショップで、現地の人々がこぼしの絵付けに参加することで、少しでも福島を正しく理解するきっかけになってくれればと願っています。

また昨年12月のパリでの展示の最終日にはパリ市との共同開催でパリ市庁舎にてオークションも行いました。元から展示していたこぼしは、最終的には福島の人々に寄贈するために絵付けしていただいたものですので、それとは別にオークション用として製作していただきました。そしてその収益金の全額を、近々具体的に立ち上がる予定の、現場で収束作業に当たっている人達を応援するプロジェクトに寄付しました。

――チェルノブイリがあるウクライナでの反応はどうでしたか?
日本文化展でのイベントに参加したのですが、驚くほどの反響がありました。その結果、来年3月にキエフ工科大学で福島原発作業員の写真展をやろうという話が進みつつあり、その後、それら写真をチェルノブイリ博物館に寄贈する予定です。ウクライナの人々は日本の震災からの復興について、とても関心が高いのです。ウクライナというと日本からかなり遠いイメージですが、現地で福島の事故は他人事ではありません。ウクライナの人々は、福島事故への対応にチェルノブイリでの経験を生かして欲しいと思っていたのに、あまり生かされなかったことが残念だという声も聞きました。キエフ市内では震災直後に日本を応援する集まりを開いたり、その年の9月には山本寛斎さんのイベントがあったり、その後も毎年3月11日前後には追悼のコンサートやイベントを開いたりしてくれています。

――今後、同プロジェクトはどのように展開していく予定ですか?
来年3月にマルセイユとローマで、こぼしの展示とアトリエを行います。その後は、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、そして台湾、シンガポールなどアジアを巡って東京、最終的には福島で開催できればと願っています。世界各地でさまざまな人々に参加していただいて輪を広げて行き、最終的には福島へ帰るということですね。
(加藤亨延)