名波浩の視点

 アギーレジャパンの2戦目はベネズエラと対戦。2−2で引き分けた。

 初戦のウルグアイ戦を踏まえて、チームとして修正すべき点、改善すべき点というのはいろいろとあったと思う。その中で、選手みんながこの試合で重要視したポイントが、うまく合致していたように感じた。

 それは何かというと、初戦であまり見せ場のなかった攻撃の部分。選手たちは皆、タテパスの意識とか、サポートの距離、選手個々のアングルとか、それらを大事にしてフィニッシュまで持っていきたい、という意思を持っていて、それが共有できていた。結果、2得点を記録。彼らが思い浮かべていた"絵"はだいぶ描けていたように思う。

 どちらかのサイドにボールを寄せて、逆サイドへ展開したり、そのまま同サイドを突破したり、サイドからもいい形をたくさん作っていた。特に後半は、左サイドバックの長友佑都の仕掛けが目立った。前半は相手と1対2になることが多くて厳しい状況に置かれていたけど、トップに岡崎慎司、前線の左サイドに武藤嘉紀が入った後半は、1対1の局面を何度も作ってチャンスを演出していた。

 ただそれは、先発でトップを務めた大迫勇也や、前線の左サイドで起用された柿谷曜一朗が悪かったわけではない。あくまでも選手の"組み合わせ"の問題と言える。この日、うまくゲームを作っていたMF柴崎岳にしても、2列目でコンビを組むパートナーによっては、どうなるかわからない。動き出しや、ボールを出し入れするリズムやテンポが変わってしまうからだ。

 そういう意味では、前線3人の人選はもちろんのこと、中盤やサイドなど、どういった選手の"組み合わせ"がいいのか、アギーレ監督がきちんと見極めていくことが今後は重要になる。

 一方で選手たちは、2試合で喫した4失点がすべてミスから生まれたことをしっかりと肝に銘じなければいけない。ミスをした選手をはじめ、そのプレイに関わった選手誰もが、これからは同じミスを繰り返さないように取り組んでいくことが大切だろう。

 さて、前述の柴崎を含めて、今回始動したアギーレジャパンでは5人の選手が代表戦デビューを飾った。わずかな出場時間しかなかったMF森岡亮太を除いて、最も際立っていたのは、やはり柴崎だろう。

 何よりボールが収まる。そのうえで、いいところを見ている。ひとつひとつのパスにも、ボールの距離やスピードの強弱によって、いろいろなメッセージが込められていた。おかげで、ベネズエラ戦では柴崎を中心に緩急のある攻撃が展開できた。不用意な横パスからピンチを招いたシーンもあったが、90分間を通していいプレイができていたと思う。本人的にも悪いイメージは持っていないのではないだろうか。

 また、常に淡々とプレイしているJリーグでは、ピッチ上における"温度"の低さが気になっていたけれども、この日は終始熱さを感じさせるプレイを披露。開始早々にボールを持った相手にガツンッとチェックに行っていたし、自らゴールを決めたあとは喜びを爆発させるなど、Jリーグではあまり見られない姿を随所に見せていた。

 代表の試合だからかもしれないが、国際試合においては、ピッチ上における"温度"というものが、個人的には大事だと思っている。それだけに、これからも柴崎には"温度"の高いプレイを心掛けていってほしい。

 ベネズエラ戦で先制ゴールを決めた武藤も良かった。代表デビューとなったウルグアイ戦では緊張していたからか、ほとんどいい形でボールを触れなかったが、この試合ではいいタイミングで顔を出してチャンスに絡んでいた。得点シーンでは、仕掛けからフィニッシュまでの形を持っている彼の良さが存分に発揮された。

 日本の2点目も、柴崎とのワンツーから岡崎に好パスを出すなどして、武藤が起点となって生まれた。ゴール前のスペースに入っていく動きは継続しつつ、今後も誰かと絡みながらのプレイを意識していってほしい。そうすれば、あまり孤立することはないだろう。加えて、ウルグアイ戦では何もイメージを持たずに、ただ突っかけていく感じだったが、周囲との連係を大事にしていけば、ボールを受けたあとのイメージも膨らんでいくのではないだろうか。

 課題は、守備。人やボールに対しては問題ないが、裏のスペースなどの対応には心許なさを感じた。後ろに長友がいなければ、かなりやばかったと思う。代表におけるディフェンスというものを、しっかりと学んでいく必要があるだろう。

 あと、先発出場を狙うなら、前述した周りとのコンビネーションで崩すこともそうだが、もっとプレイエリアを広くすることが求められる。本田圭佑ほどとは言わないが、もう少しインサイドに入ってくるとか、多少下がってボールを受けるとか、誰かのためにスペースを空けるなど、状況に応じて多彩な動きができるようにならなければいけない。

 ウルグアイ戦で先発したFW皆川佑介は、周囲の選手が彼の特徴をまだよくわかっていなかった。その分、彼に対するサポートが遅く、持ち味が出し切れなかったと思う。結局、皆川が生きるかどうかも、前述した"組み合わせ"の問題。周囲のメンバーによって違ってくると思うので、Jリーグで点を取り続けて、再びチャンスをつかんでほしい。

 DF坂井達弥は、ウルグアイ戦で自らのミスで失点を喫した。それを糧にして、まずはJリーグでも試合に出続けていくこと。そして、ひとつひとつ課題をクリアしながら、もっと成長していかなければいけない。

 左利きで高さのあるセンターバックというのは、アギーレ監督が求めるオーダーのひとつだという。その点、坂井は希少な存在なのだから、サガン鳥栖のチームメイトにも引っ張ってもらいながら、力をつけていってほしい。

名波浩●解説 analysis by Nanami Hiroshi