なぜ、キプロス？　壮行試合の対戦相手が発表されてから、頭に貼り付いていた疑問である。タイミングと地理的に、強豪を招待するのは難しい。それにしても、仮想ギリシャは無理があると思っていた。

　１対０という結果に終わったいまも、もう少し骨のあるチームと対戦したかったという思いは消えない。だが、キプロスの見方が変わったのも事実である。

　アジアにおける日本は、いまや“青い巨人”となった。ジャパンブルーのユニホームは、対戦相手に畏怖の念を植え付ける。

　埼玉スタジアムでつかんできた勝利は、まったく同じ数の敗者を生み出してきた歴史でもある。Ｗ杯予選で一度も負けたことのないこのスタジアムは、アジアの国々には鬼門となっていると言ってもいい。

　日本のユニホームにも、埼玉スタジアムにも、キプロスは臆するところがなかった。日本では若手と呼ばれる19歳や21歳の選手が、途中交代から試合の流れに溶け込んでいった。

　疲労の蓄積とともにボールへのアプローチは甘くなり、ゴール前で必至に耐えるしかなくなった。それでも、０対１で持ちこたえてみせた。フィジカルコンディションが万全でない日本のために、“ちょうどいいスパーリングパートナー”として招かれたキプロスは、青いユニホームを前にしても、埼玉スタジアムのピッチに立っても、畏怖の念で胸をいっぱいにすることはなかったのだ。

　３日前に行なわれたCL決勝を思い出す。

　レアルとアトレティコのマドリー・ダービーとなった一戦は、壮絶な死闘だった。結果的に４対１という大差に終わったが、薄紙一枚ほどの攻防だった。

　レアル・マドリーの勝負強さには、率直に驚かされる。CL決勝という大舞台で、後半の追加タイムに同点へ追いつく。並のチームにはできない芸当だ。

　セルヒオ・ラモスが叩き込んだヘディングシュートは、アトレティコが最後の最後で集中と体力を切らせた結果と言うこともできる。

　堅守を誇る相手守備陣を瓦解に追い込んだのは、圧倒的な個による絶え間ない圧力だったとも。指揮官カルロ・アンチェロッティが切った交代カードも、勝敗に大きな影響をもたらした。

　それにしても、後半の追加タイムである。机上の論理では割り切れない力が、レアルの背中を押したと思えるのだ。「勝者のメンタリティ」や「勝負強さ」といった言葉が思い浮かぶが、それさえもすべてを表現するには物足りない気がする。

　レアルというチームは、いったい何を「勝利の源」としているのだろう。

　個人が胸に抱くプライドか。アスリートとしての純粋な闘争心か。

「代表のユニホームを渡されたら、その瞬間に自分がやるべきことはすべて分かるものなんだ。理由があるとすれば、それかな」

　旧西ドイツ代表として82年、86年、90年のワールドカップに出場し、優勝１回、準優勝２回の成績を収めたリティことピエール・リトバルスキーが、こんな話をしている。「ドイツ代表が見せてきた精神的強さは、どこから生まれているのか」という質問への答えだ。

　かつてフリッツ・ヴァルターやウーベ・ゼーラー、フランツ・ベッケンバウアーやゲルト・ミュラーが着たユニホームに、自分が袖を通す。リティの胸に去来したのは、「代表として恥ずかしいプレーをするわけにはいかない」という思いだった。代表の歴史を形成してきた先駆者のメンタリティは、洗濯機にかけられても、デザインが変わっても、繊維を形成するひとつであるかのように染み込んでいるのだ。

　責任感、プライド、闘争心といったものは、チームの実力や規模を問わない。プロフェッショナルとしてピッチに立つ者なら、誰だって胸に宿す。だとすれば、ＣＬで頂点に立ったレアルの選手たちは、あの白いユニホームを着ることで、気持ちを引き締めていると思うのだ。「レアルの一員として恥ずかしいプレーはできない」という一心が、責任感やプライドをさらに強固なものにしている、と。

　ブラジルＷ杯へ挑む日本はどうだろう。

「優勝を目指す」ということは、相手のユニホームに刻まれた栄光に怯まず、自分たちのユニホームが継承していたものに誇りを持つということだ。

　国際的な成果に乏しいキプロスでさえも、誇りを持って戦ってくる。世界の頂点を見上げるのは誰にでもできるが、そこに立つのは簡単ではない。