震災から3年 クリエイターたちの想い
 震災から3年を迎える2日前の2014年3月9日、渋谷ユーロスペースで一本の映画がプレミア上映された。
 その映画のタイトルは『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』。
 集まった約160人の観客は最後までスクリーンを見つめ、作家たちの想いがこもった朗読に耳を傾けていた。

 『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って〜』は、福島県郡山市出身の小説家・古川日出男さんと、その仲間たちによって行われる朗読劇「銀河鉄道の夜」の全公演を追ったドキュメンタリー映画だ。



 朗読劇「銀河鉄道の夜」は、古川さん、詩人の管(すが)啓次郎さん、翻訳家の柴田元幸さん、音楽家の小島ケイタニーラブさんの4人が、オリジナルの脚本、詩、音楽など、それぞれの個性をぶつけ合いながら宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」を再構築して披露する朗読劇だ。
 初めての公演は2011年12月24日に東京・渋谷のSaravah東京にて。そのときは古川さん、管さん、小島さんの3人だったが、2012年に柴田さんが合流し、東京での開催のほか、二度の東北ツアー、関西ツアーと各地で「銀河鉄道の夜」を朗読した。

 この朗読劇「銀河鉄道の夜」がどんな劇なのかを一言で説明するはとても難しい。それは、公演の会場、講演の場所に合わせて演出を変えるからだ。
 「こちらから(作品を)持っていくのではなく、その場所に合わせる」映画の中でこんな言葉が登場し、上映後の舞台挨拶で古川さんは次のように語った。

「その会場によって演出も何もかもを変えていたので、自分でもこんな演出をしたんだというシーンが続々とでてきました。その土地で観てくれた人の数、今日この映画の観てくれた人の数だけ、形があるような劇です」



 印象的だったのが、2013年5月25日から28日に3都市をまわった関西ツアーの中の、京都・叡山鉄道の車両を使って行われた公演のシーンだ。満員のロングシートの間、小島さんが2両編成の車両を端から端へと弾き語りながら移動する。太陽が落ちていき、夜が次第に広がる時間帯、列車の中での朗読は、とても鮮烈なものだった。
 また、この映画を締めくくる、彼らにとって最も新しい公演――2013年12月8日の福島県郡山市にある安積歴史博物館での公演のシーンも深い印象を残した。
 安積歴史博物館は古川さんの母校である福島県立安積高校の中にあり、築100年を超える歴史ある建造物だが、東日本大震災の際にも被害に遭い、2013年10月に仮オープンされたばかりだった。
 この安積歴史博物館が竣工されたのは1889年のこと。東北生まれの古川さんが、東北生まれの宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を、仲間たちとともに、宮沢賢治が生きていた時代から現代までをずっと見続けてきた建物の中で朗読する。
 東北への祈りがそこにこだましているかのようだった。

 4人の震災に対する想い、宮沢賢治に対する想い、そして東北への祈りが映画を通して描かれる。また、4人とは別の新たな視点として、女優の青柳いづみさん(マームとジプシー、チェルフィッチュ)が雪に包まれた東北の地で宮沢賢治の詩や「銀河鉄道の夜」を朗読する。

 2年半の間、4人の旅を追いかけ、カメラを回し続けてきた河合宏樹監督は、「この2年で撮りためた量は本当に膨大で、その中からシーンをセレクトするのは、身を削るような想いでした」と打ち明けた。そして、「最初の東北ツアーに同行させてもらったのも偶然の縁で、当時はまさか2年間、追わせていただくことになるとは想像していませんでした。青柳いづみさんという新たな視点を入れようと思ったのは、12月8日、郡山の安積歴史博物館での公演を撮影しているときです。そのときすでに映画を作ることは決めていたのですが、ただのドキュメンタリーでは伝わらないと思い、僕の視点をイタコのように代弁してもらう対象として、青柳さんに依頼をしました。直感でした。
 すでに12月だったので急ピッチで撮影をして、順調に撮影が進んで…。本当に見えない力に導かれて、ここに立っているような気がします」と話し、会場にいる観客、そして出演者、スタッフへ感謝の言葉を述べた。



 舞台挨拶では古川さん、管さん、柴田さん、小島さん、そして河合監督の挨拶とともに、朗読劇と映画の音楽を担当している小島さんによるミニコンサートが行われた。
 朗読劇「銀河鉄道の夜」のテーマソングである「フォークダンス」、『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って〜』の主題歌「サマーライト」の2曲に続き、古川さんの小説『ベルカ、吠えないのか?』にインスパイアされて作ったという「ベルカ」を3人の英訳の朗読を重ねて披露。大きな拍手が巻き起こった。

 この『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って〜』は、渋谷ユーロスペースにて、7月19日から2週間にわたってのロードショーが決定しているほか、地方での上映も計画しているという。詳細は映画『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って〜』のオフィシャルサイトをチェックしてほしい( http://milkyway-railway.com/movie/ )。

 東日本大震災から3年が経った。
 時が経つにつれて、少しずつ日常から「震災」という言葉は消えていったが、「復興」や「原発」といった言葉を通してあの日のことを思い出す。
 あのとき、目の前に突きつけられた現実に混乱しながら、「自分は何をすべきだろう」と必死に考えた人は多いはずだ。
 この映画では、震災や東北と対峙しながら、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を朗読する4人のクリエイターの魂の叫びがまざまざと表現されている。なぜ宮澤賢治なのか、なぜ「銀河鉄道の夜」なのか。彼らは本音を明かしてくれる。

 終演後、河合監督は「こんな大勢の方に集まって、映画を観ていただけて嬉しく思います。古川さんの言葉通り、まっすぐな表現は人に伝わることを確信しました」とコメントした。
 7月19日からのロードショー、どうか見逃さずに、彼らの声を聞きにいってほしい。

記事執筆:金井元貴(新刊JP編集部)
写真撮影:朝岡英輔

■映画『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って〜』オフィシャルサイト
http://milkyway-railway.com/movie/