「消費者が気づかない」途上国支援の問題点
「人の役に立つ仕事をしたい」「ビジネスで世界をいい方向に向かわせたい」という志の高い学生・社会人のなかにはいずれは起業したいと考えていたり、実際に計画を練っている人がいるはず。
そんな人に、この人の人生はとても刺激的なはずです。
『「世界をよくする仕事」で稼ぐ』(プレジデント社/刊)の著者、大澤亮さんは、ビジネスのスキームを使って持続的な途上国支援を目指す株式会社ピース トゥ ピースの創業者。
本書を読むと、大澤さんがいかに自分の事業を周到に準備し、それを実現させるためにキャリアを積んできたかわかります。
今回はその大澤さんにお話をうかがい、起業を志したきっかけや、一見脈絡のないキャリアについてお話をうかがいました.
―大澤さんの著書『「世界をよくする仕事」で稼ぐ』(プレジデント社/刊)についてお話を伺えればと思います。まずは「世界をよくする仕事」の場である株式会社ピース トゥ ピースを立ち上げた理由について教えていただきたいです。
大澤:原点ということでいえば、商社に勤めていた時にアフリカでODAに携わっていたことだと思います。
途上国支援の形としてよくあるのが、ODAの仕組みとしてよくある「G-to-G(政府から政府へ)」なんですけど、僕はもっと小さな個人の思い(Piece)を困っている人に届けて平和(Peace)につなげられる仕組みを作りたかったんです。
もちろん、「思い」といっても実際はお金やモノで支援をするわけですが、それを募金活動のような形で行っても長くは続かないんじゃないかというのがあって、もっと楽しく、自分の好きなことを通じてそういった支援ができないかと考えた時に、「日本人や先進国の人が大好きなもの」というカテゴリーで「ファッション」というのが思い浮かびました。
ファッション業界って市場規模が10兆円くらいあってとても大きいんですけど、ムダが多いんです。デザイナーがどんどん新しいデザインの服を作っても、売れ残ったらどんどん捨てられてしまう。そういう状況をなんとかして支援と結びつけられないかということで
「Piece to Peace(ピース トゥ ピース)」を立ち上げました。
―途上国を支援したいという気持ちを持ち始めたのはいつ頃のことだったのでしょうか。
大澤:母親がクリスチャンで、やはり途上国支援のための募金活動をしているのを小さい頃から見ていたんですよ。でも、ある時にその募金したお金が使われるような国に行ったことがあるのか訊ねたら、行ったことがないというわけですね。
行きもしないのに、「恵まれない子どもたちがいるから」といって募金をするって、何だか違和感があるじゃないですか。だったら自分が行ってみようと思ったことがODAに関わりたいという気持ちにつながったというのはあります。
それと、昔の彼女が国際協力に熱心で、働くのならば何か社会のためにならないと意味がないという考え方だったんです。そういう意味では、いつからというよりはいろんな人との出会いに影響を受けて少しずつ変わってきたのかもしれません。
―従来のようなNPO法人でなく、株式会社として利益を上げながら社会貢献をしているという「ピース トゥ ピース」ですが、そのビジネスモデルはどのようなものなのでしょうか。
大澤:「ピース トゥ ピース」では、途上国支援に賛同してくれる海外のファッションブランドの商品を日本で展開しているのですが、これには大きく分けて二通りあります。
一つは「インポート」といって、単純に輸入して小売店に卸すというものです。
もう一つが「ライセンス」というものなのですが。これはブランドの権利を借りるような形で、ブランドのデザインや風合いなどはこちらで日本向けに企画しますというものです。やはり海外と日本では、消費者の好みが違いますし、そもそもサイズが全然違うので日本向けにアレンジする必要があるんです。
うちで扱っている一番大きなブランドが「オムニピース」というロサンゼルスのブランドなんですけど、これなどは殆ど「ライセンス」でやっています。
だから、仕入れという意味でいえば、「インポート」と「ライセンス」の二種類があるということですね。これを日本で販売していきます。
―販売方法はどうなっていますか?
大澤:まず、卸販売があり、これは、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズ、アーバン・リサーチ、エリオポールといったセレクトショップに商品を卸して売上・利益を得るという形。 次に、委託販売というのがあって、これは主にデパートなんですけど、端的にいえば「場所貸し」ですね。売り場の一区画を貸しますから好きに使ってください、というものです。売上の一部をデパートに場所借り料金として支払い、残りを頂く仕組みです。
卸にしろ、委託販売にしろ、売上の一定%を寄付します。 これらの売り方と、あとは通販もやっています。
もう一つは「サブライセンス」です。さっき言ったように「ライセンス」というのはあるブランドの権利を有料で借りるものなんですけど、「サブライセンス」はその権利をさらに他の会社に売ることです。
たとえばうちは「オムニピース」の権利を借りて主にTシャツを作って販売しているんですけど、別の会社が「オムニピース」の帽子を作りたいと言ってきた場合に、その帽子をデザインして売る権利を、その会社に売るわけです。その売上のいくらかを「オムニピースに戻して、さらにいくらかが寄付される、ということもやっています。
―なるほど。
大澤:だから、企画会社という側面が強いんです。たとえば「TABLE FOR TWO」っていうNPOがあって、そこもアパレルの物販をやっていて、その製造企画をうちでやっていたんです。それで、以前にセレクトショップの「JOURNAL STANDARD」と組んで「TABLE FOR TWO×JOURNAL STANDARD」ということで、専用の商品を作って販売したことがあります。それが一つ売れるごとに20円が寄付に回る。
このように、世の中のためになることを、一般的なビジネスのスキームを使ってやっています。
―消費者の方は単純に格好いいから買うわけですが、それが社会貢献に結びつくというのはすばらしいですね。
大澤:そうですね。ただ、若干の問題として、こちらの思いが届かないというのがあります。商品を卸した先のお店では「社会貢献」とか「寄付」について謳わないで売るので、消費者の方はそういったことを知らないままなんですよ。
―たしかに、売り場で大っぴらにそういったことを謳うのも、ちょっと違和感があります。
大澤:そうなんですよ。そういうことを「イヤらしい」と感じる日本人の気質もありますし、純粋にファッションを売っているのであって「寄付」や「社会貢献」と売りものにしたくないというお店の思いもあります。うちとしても、そこまで押しつけがましいやり方はしたくありませんしね。
だから、「社会貢献」ということでいうと、モノを売るだけでは全然足りないんですよね。多少の寄付はできるでしょうけど、もっと「コト」を広めないといけない。
それで、個人であれ会社であれ「良いコト」を広めるプラットフォームとして考えついたのが、「人生のヒケツを教え合う場所 shAIR (シェア)」です。
今は、何か(成功体験やスキルなど)を伝えたい、教えたいという個人に、何かを教えたい時のプラットフォームとしてご利用頂いていて、既に参加者数も合計数千人になっています。
モノだけでなく、こうした「コト」があると、消費者は参加しやすいし、良いことは広まりやすいと感じています。
(後編につづく)
そんな人に、この人の人生はとても刺激的なはずです。
『「世界をよくする仕事」で稼ぐ』(プレジデント社/刊)の著者、大澤亮さんは、ビジネスのスキームを使って持続的な途上国支援を目指す株式会社ピース トゥ ピースの創業者。
本書を読むと、大澤さんがいかに自分の事業を周到に準備し、それを実現させるためにキャリアを積んできたかわかります。
今回はその大澤さんにお話をうかがい、起業を志したきっかけや、一見脈絡のないキャリアについてお話をうかがいました.
大澤:原点ということでいえば、商社に勤めていた時にアフリカでODAに携わっていたことだと思います。
途上国支援の形としてよくあるのが、ODAの仕組みとしてよくある「G-to-G(政府から政府へ)」なんですけど、僕はもっと小さな個人の思い(Piece)を困っている人に届けて平和(Peace)につなげられる仕組みを作りたかったんです。
もちろん、「思い」といっても実際はお金やモノで支援をするわけですが、それを募金活動のような形で行っても長くは続かないんじゃないかというのがあって、もっと楽しく、自分の好きなことを通じてそういった支援ができないかと考えた時に、「日本人や先進国の人が大好きなもの」というカテゴリーで「ファッション」というのが思い浮かびました。
ファッション業界って市場規模が10兆円くらいあってとても大きいんですけど、ムダが多いんです。デザイナーがどんどん新しいデザインの服を作っても、売れ残ったらどんどん捨てられてしまう。そういう状況をなんとかして支援と結びつけられないかということで
「Piece to Peace(ピース トゥ ピース)」を立ち上げました。
―途上国を支援したいという気持ちを持ち始めたのはいつ頃のことだったのでしょうか。
大澤:母親がクリスチャンで、やはり途上国支援のための募金活動をしているのを小さい頃から見ていたんですよ。でも、ある時にその募金したお金が使われるような国に行ったことがあるのか訊ねたら、行ったことがないというわけですね。
行きもしないのに、「恵まれない子どもたちがいるから」といって募金をするって、何だか違和感があるじゃないですか。だったら自分が行ってみようと思ったことがODAに関わりたいという気持ちにつながったというのはあります。
それと、昔の彼女が国際協力に熱心で、働くのならば何か社会のためにならないと意味がないという考え方だったんです。そういう意味では、いつからというよりはいろんな人との出会いに影響を受けて少しずつ変わってきたのかもしれません。
―従来のようなNPO法人でなく、株式会社として利益を上げながら社会貢献をしているという「ピース トゥ ピース」ですが、そのビジネスモデルはどのようなものなのでしょうか。
大澤:「ピース トゥ ピース」では、途上国支援に賛同してくれる海外のファッションブランドの商品を日本で展開しているのですが、これには大きく分けて二通りあります。
一つは「インポート」といって、単純に輸入して小売店に卸すというものです。
もう一つが「ライセンス」というものなのですが。これはブランドの権利を借りるような形で、ブランドのデザインや風合いなどはこちらで日本向けに企画しますというものです。やはり海外と日本では、消費者の好みが違いますし、そもそもサイズが全然違うので日本向けにアレンジする必要があるんです。
うちで扱っている一番大きなブランドが「オムニピース」というロサンゼルスのブランドなんですけど、これなどは殆ど「ライセンス」でやっています。
だから、仕入れという意味でいえば、「インポート」と「ライセンス」の二種類があるということですね。これを日本で販売していきます。
―販売方法はどうなっていますか?
大澤:まず、卸販売があり、これは、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズ、アーバン・リサーチ、エリオポールといったセレクトショップに商品を卸して売上・利益を得るという形。 次に、委託販売というのがあって、これは主にデパートなんですけど、端的にいえば「場所貸し」ですね。売り場の一区画を貸しますから好きに使ってください、というものです。売上の一部をデパートに場所借り料金として支払い、残りを頂く仕組みです。
卸にしろ、委託販売にしろ、売上の一定%を寄付します。 これらの売り方と、あとは通販もやっています。
もう一つは「サブライセンス」です。さっき言ったように「ライセンス」というのはあるブランドの権利を有料で借りるものなんですけど、「サブライセンス」はその権利をさらに他の会社に売ることです。
たとえばうちは「オムニピース」の権利を借りて主にTシャツを作って販売しているんですけど、別の会社が「オムニピース」の帽子を作りたいと言ってきた場合に、その帽子をデザインして売る権利を、その会社に売るわけです。その売上のいくらかを「オムニピースに戻して、さらにいくらかが寄付される、ということもやっています。
―なるほど。
大澤:だから、企画会社という側面が強いんです。たとえば「TABLE FOR TWO」っていうNPOがあって、そこもアパレルの物販をやっていて、その製造企画をうちでやっていたんです。それで、以前にセレクトショップの「JOURNAL STANDARD」と組んで「TABLE FOR TWO×JOURNAL STANDARD」ということで、専用の商品を作って販売したことがあります。それが一つ売れるごとに20円が寄付に回る。
このように、世の中のためになることを、一般的なビジネスのスキームを使ってやっています。
―消費者の方は単純に格好いいから買うわけですが、それが社会貢献に結びつくというのはすばらしいですね。
大澤:そうですね。ただ、若干の問題として、こちらの思いが届かないというのがあります。商品を卸した先のお店では「社会貢献」とか「寄付」について謳わないで売るので、消費者の方はそういったことを知らないままなんですよ。
―たしかに、売り場で大っぴらにそういったことを謳うのも、ちょっと違和感があります。
大澤:そうなんですよ。そういうことを「イヤらしい」と感じる日本人の気質もありますし、純粋にファッションを売っているのであって「寄付」や「社会貢献」と売りものにしたくないというお店の思いもあります。うちとしても、そこまで押しつけがましいやり方はしたくありませんしね。
だから、「社会貢献」ということでいうと、モノを売るだけでは全然足りないんですよね。多少の寄付はできるでしょうけど、もっと「コト」を広めないといけない。
それで、個人であれ会社であれ「良いコト」を広めるプラットフォームとして考えついたのが、「人生のヒケツを教え合う場所 shAIR (シェア)」です。
今は、何か(成功体験やスキルなど)を伝えたい、教えたいという個人に、何かを教えたい時のプラットフォームとしてご利用頂いていて、既に参加者数も合計数千人になっています。
モノだけでなく、こうした「コト」があると、消費者は参加しやすいし、良いことは広まりやすいと感じています。
(後編につづく)