視力を向上させるアプリが登場、バッターの打率向上にも貢献
By Pierre-Olivier Carles
プロ野球のピッチャーが時速153kmの速球を投げると、ボールはたったの0.4秒でピッチャーの手からキャッチャーのグローブの中にまで移動します。そして、バッターはその半分以下の時間でバットを振るか、どこに打つかなどを決めなければいけないので、野球選手にとって「より優れた目」を持つということは、大きな利点になるわけです。
そんな中、カリフォルニア大学のリバーサイド校で神経科学者として勤めるアーロン・ザイツ氏は、誰でも利用可能な「ユーザーがより遠くを見られるようになるアプリ」を作成し、今週のCurrent Biologyの中でその研究を公表しました。
http://www.popularmechanics.com/science/health/med-tech/this-app-trains-you-to-see-farther-16506910
ザイツ氏の研究では、リバーサイド校の野球チームに所属する19人の選手に、彼の作成した「UltimEyes」というアプリを試してもらったそうです。この実験の結果、アプリを使用した19人の被験者たちの「はっきりと物が見える距離」が、平均で31%も伸びました。
さらに、25分間隔でこのアプリを30回使用した後に被験者の視力を測定してみたところ、大半の視力が1.0を超え、そのうち7人は視力が2.6を超え、大幅に視力が向上したとのこと。
By ORBIS EMEA Saving Sight Worldwide
また、この実験の被験者が他の野球選手たちよりもバッティングで優れた結果を出すことができるのかも調査。アプリで視力を鍛え始めた後のリバーサイド校の野球チームでは、それまでよりも明らかに得点が増え、シーズンを通して少なくとも4つの勝利がアプリによりもたらされた、とザイツ氏は考えています。にわかには信じがたい効果を持ったアプリですが、エディンバラ大学の神経科学者であるペギー・シリーズ氏はこのアプリの効果は本物だと太鼓判を押しました。
By Rafael Amado Deras
「UltimEyes」は物理的に目や目の筋肉を改善するというものではなく、「神経細胞の可塑性」を応用したものとのこと。「最近10年間で、脳を鍛える方法と体を鍛える方法とは少し似ていることが分かり始めました。もしも私たちが適切な方法で脳をトレーニングしてやれば、ほとんど全ての脳を改善することができるに違いありません」とザイツ氏は言います。
「UltimEyes」では脳の視覚に関係してくる部分である視覚野を鍛えています。具体的に言うと、脳の視覚野は目から入ってくる情報を「Gabor stimuli」と呼ばれるファジー・パターンに分割して処理しているのですが、「UltimEyes」では目に直接Gabor stimuliを見せることで、脳がこれらをより効率的に処理できるようにトレーニングしている、とのこと。そしてこのトレーニングにより脳の能力が向上し、目ではっきりと見える範囲が広がることになります。
実際に「UltimEyes」をプレイしている様子は以下のムービーで見ることができます。
「UltimEyes」では灰色の背景の中でGabor stimuliを表示し、徐々にぼやけた識別が難しいものを表示していきます。トレーニング時はこれらをクリックすればOKで、正しく識別できている場合には音が鳴ります。
現在のところ「なぜ脳の能力が向上するのか」の、より具体的な部分は不明なままで、この脳の能力向上がどれくらいの期間効果を発揮するのかも不明です。しかし、もともと視力の高い被験者も視力が向上したとのことで、ザイツ氏は人間の視力の限界はもっと高いのかもしれない、と示唆しています。
By Ahmed Sinan