司馬遼太郎が子どもたちに託したエッセイが話題に
小学生の頃に国語の教科書で読んださまざまな物語、詩、エッセイ・・・その中で覚えているものはあるでしょうか。大人になってからもずっと覚えている言葉もあれば、そうでない言葉もあるかもしれません。
『対訳 21世紀に生きる君たちへ』(司馬遼太郎/著、ドナルド・キーン/監訳、ロバート・ミンツァー/訳、朝日出版社/刊)は、司馬遼太郎が小学校用教科書のために書き下ろしたエッセイ集です。
「人間の荘厳さ」「21世紀に生きる君たちへ」「洪庵のたいまつ」の3つのエッセイから構成される本書は、全文にドナルド・キーン氏監訳による英語対訳が付けられています。ページ数は全部で41ページと少なく、小学生のために書かれた文章だけあって平易で分かりやすいため、すぐに読み終わってしまうのですが、何度も読み返したくなります。子どもたちに対する司馬遼太郎の優しい思いが感じられ、読んでいて心地良いからです。
「人間の荘厳さ」と題された冒頭のエッセイは「人間は、鎖の一環ですね。」という一文から始まります。歴史小説家として自然と人間、科学と人間、そして人間同士の関わりについて数々の名作を残してきた司馬遼太郎らしく、過去から未来へと連綿と続く人間の営みを真っすぐに見つめようとします。
本のタイトルにもなっているエッセイ「21世紀に生きる君たちへ」では、著者は歴史の中にも大勢の友人がいるために、自分は2000年以上の時間を生きてきたようなものだと思っている、と述べます。しかし、そんな彼にも決して見られないものがあります。彼が見られないもの、それは「未来」です。ここで述べられている「未来」とは、私たちが今、生きている21世紀のことです。司馬遼太郎が亡くなったのは1996年でした。
司馬遼太郎は、未来を担っていく子どもたちを賛美しながらも、人が人として生きるために大切な基本を一つ一つ教え諭していきます。自然を、他人を尊敬しなさい。すなおで優しく、他人のことを思いやれる人間になりなさい。さわやかな心を持ち、たくましく生きなさい・・・子どもたちの心の中の最も美しいものを見つめ、彼らの可能性を信じた司馬遼太郎の言葉には、愛と希望がこもっています。
そして「洪庵のたいまつ」では、江戸時代末期、医者そして教師として多くの塾生を教育した緒方洪庵の一生をつづります。生まれ持った勤勉さで名医としての評判を得ながらも決して名利を求めず、病人の世話と弟子への教育のみを人生の楽しみとした洪庵に対し、司馬遼太郎は共感を覚えていたのです。
洪庵の灯したたいまつの火は、弟子の福沢諭吉や大村益次郎に受け継られ、さらに彼らは後世に新しい火を灯していきました。司馬遼太郎は、自分自身を洪庵と重ね合わせていたのではないしょうか。洪庵が弟子たちにたいまつの火を授けたように、自分も教科書を読む子どもたちに火を宿していこうと、このエッセイを書いたのかもしれません。
簡潔で分かりやすいエッセイですが、読む人全ての心に響く美しい文章ばかりです。このエッセイ集は、読書家で知られる俳優・東出昌大さんが出演したテレビ番組で好きな本として紹介し、話題になりました。
生活の中、自分の向かうべき道しるべが見えないと感じた時に、手にとってみてはいかがでしょうか。自分の中の大切な言葉が、一つ増えるかもしれません。
(新刊JP編集部)
『対訳 21世紀に生きる君たちへ』(司馬遼太郎/著、ドナルド・キーン/監訳、ロバート・ミンツァー/訳、朝日出版社/刊)は、司馬遼太郎が小学校用教科書のために書き下ろしたエッセイ集です。
「人間の荘厳さ」「21世紀に生きる君たちへ」「洪庵のたいまつ」の3つのエッセイから構成される本書は、全文にドナルド・キーン氏監訳による英語対訳が付けられています。ページ数は全部で41ページと少なく、小学生のために書かれた文章だけあって平易で分かりやすいため、すぐに読み終わってしまうのですが、何度も読み返したくなります。子どもたちに対する司馬遼太郎の優しい思いが感じられ、読んでいて心地良いからです。
本のタイトルにもなっているエッセイ「21世紀に生きる君たちへ」では、著者は歴史の中にも大勢の友人がいるために、自分は2000年以上の時間を生きてきたようなものだと思っている、と述べます。しかし、そんな彼にも決して見られないものがあります。彼が見られないもの、それは「未来」です。ここで述べられている「未来」とは、私たちが今、生きている21世紀のことです。司馬遼太郎が亡くなったのは1996年でした。
司馬遼太郎は、未来を担っていく子どもたちを賛美しながらも、人が人として生きるために大切な基本を一つ一つ教え諭していきます。自然を、他人を尊敬しなさい。すなおで優しく、他人のことを思いやれる人間になりなさい。さわやかな心を持ち、たくましく生きなさい・・・子どもたちの心の中の最も美しいものを見つめ、彼らの可能性を信じた司馬遼太郎の言葉には、愛と希望がこもっています。
そして「洪庵のたいまつ」では、江戸時代末期、医者そして教師として多くの塾生を教育した緒方洪庵の一生をつづります。生まれ持った勤勉さで名医としての評判を得ながらも決して名利を求めず、病人の世話と弟子への教育のみを人生の楽しみとした洪庵に対し、司馬遼太郎は共感を覚えていたのです。
洪庵の灯したたいまつの火は、弟子の福沢諭吉や大村益次郎に受け継られ、さらに彼らは後世に新しい火を灯していきました。司馬遼太郎は、自分自身を洪庵と重ね合わせていたのではないしょうか。洪庵が弟子たちにたいまつの火を授けたように、自分も教科書を読む子どもたちに火を宿していこうと、このエッセイを書いたのかもしれません。
簡潔で分かりやすいエッセイですが、読む人全ての心に響く美しい文章ばかりです。このエッセイ集は、読書家で知られる俳優・東出昌大さんが出演したテレビ番組で好きな本として紹介し、話題になりました。
生活の中、自分の向かうべき道しるべが見えないと感じた時に、手にとってみてはいかがでしょうか。自分の中の大切な言葉が、一つ増えるかもしれません。
(新刊JP編集部)