上司は「指示待ち」に不満!

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■米国人上司が扉を開けていた理由

部下にうまく「使われる」ことも、上司たる自分の役目である――私はつねづねそう思っています。

いちいち指示しないと部下が行動を起こさず、困っているなら、まずは自分の行動を振り返ってみたほうがいいかもしれません。すべて自分の思い通りに事が運ばないと気が済まない、部下から提案があっても耳を貸さないタイプの上司の下では、部下は受動的にならざるをえません。部下なりに懸命に考え、先回りして仕事を進めても、最後に上司の一存で何もかもひっくり返ってしまうなら、無駄な努力はしないほうが賢明だからです。

その状況を変えたいなら、自分で動けばそれが評価されるということを、部下に伝える機会をつくるべきです。

以前、弊社に赴任してきていたアメリカ人男性エグゼクティブで、部下の尊敬を一身に集めていた人物がいました。彼は、部下の意見をとにかくよく聞いてくれたのです。個室を持っていましたが、ドアは開いたままでいつでも入れるようにしていた。アメリカ人上司というと私たちも少々構えるものですが、その壁を取り払おうという配慮です。

彼は「人間に口が1つしかないのに耳が2つあるのは、他人の意見をもっと聞かなくてはいけないという神様からのメッセージだ」と言っていました。まさにその通りだと思います。

私も部下にはよく「何か迷うことがあったら言ってね」と声をかけます。他部門との折衝などでは「私が出ていったほうが話が早いと思うならいつでも呼んでください」と伝えています。執務中も部下に「ちょっといいですか」と話しかけられたら、「もちろん!」と答えるようにしていますし、どんなに忙しくても話しかけにくいオーラを出さないように心がけています。感情の波が激しく、部下に「今日は機嫌が悪そうだから報告はやめておこう」と顔色を窺わせる上司などは論外ですね。

とはいえ、好き勝手に動く部下が欲しいわけではないですよね。節目節目でタイミングよく進捗などを報告しながら、適切に仕事を進めてもらいたいという上司がほとんどだと思います。

そこで「聞く力」に加えて、部下の資質に合わせた指導が必要になってきます。報告や進行のタイミングの勘所がよくわかっている部下には、「失敗したら一緒に謝りにいってあげるから、思い切ってやってごらん」と任せてみる。一方で、「何かあったら手遅れになる前に知らせてほしい」と念を押します。誰しも自分の失敗は言い出しにくいものですが、報告が遅れると状況はどんどん悪くなっていく。それは未然に防がなくてはいけません。

中には、そのタイミングがなかなかつかめない部下もいます。上司が苛立ちを感じるのは、自分が想定していた期限が過ぎても部下が仕事を終わらせていなかったり、報告を上げてこないときでしょう。このタイプには仕事を割り振る段階で、期限がいつなのかをはっきり伝えておくことです。部下から「そんなに早くですか」と言われることもありますが、そのときはそこで話し合い、期限を決め直すなりすればよいことです。

思う通りに動いてくれる、いわば自分のコピーのような部下を求めてしまうのは人としての性でしょう。しかしマネジメントの能力は、自分に欠けている能力や苦手な分野を補ってくれる人を、いかに味方につけるかにあるといっても過言ではないと思います。

そういう意味では、自分と異なる考え方を持つ部下がいたほうがいい。違いを受け止め、上手に生かしていくことが上司の度量をも広げるのです。

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日本IBM理事 
鈴木あや
1956年生まれ。同志社大学卒後、84年IBMアジア・パシフィック入社。日本IBM購買部門を経て、2005年より現職。

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(日本IBM理事 鈴木あや 石田純子=構成 澁谷高晴=撮影)